David Blecken
2017年9月05日

世界最高齢のアプリ開発者が打ち破る「シニア像」

若宮正子氏は、マーケティング業界が安易にイメージするような「シニア像」からは、最も遠い存在だろう。

若宮正子氏
若宮正子氏

若宮正子氏は81歳の時、アップルのプログラミング言語「Swift」を学ぶことを決心、そしてひな祭りにちなんだアプリ「Hinadan(ひな壇)」を開発した。彼女を後押ししたのは、高齢者も楽しめるアプリが存在しなかったことと、人はいくつになっても何かに挑戦できるという思いだった。

柔軟な考え方の持ち主である若宮氏は今年6月、カリフォルニア州サンノゼで開催されたWorldwide Developers Conference (世界開発者会議)に参加、アップルのCEOティム・クック氏から最高齢のアプリ開発者として歓迎を受けた。元銀行員で、パソコンに触れたのは60歳頃という彼女は、アクティブなシニアのモデル的存在として多くの人に知られている。マッキャン・ワールドグループが実施した調査「Truth About Age(年齢についての真実)」の発表会が8月に都内で行われ、その折Campaignは若宮氏に、テクノロジー、シニアの能力、そして広告主のシニアへの接し方について話を聞く機会を得た。

若宮さんがアプリ開発の体験で得たものは何ですか。

私にとってアプリ開発は、全く新しい世界でした。スティーブ・ジョブズさんが、作りたいものは何でも作れるということを可能にしてくれたのです。アプリの大衆化は驚くべきことでした。

あなたご自身は、型破りな人間だと思いますか。

私は人とそんなに違っているとは思いません。でも同世代の多くの人たちは、私がやったようなことをする必要があるとは感じてはいないでしょう。高齢者層がテクノロジーを理解しないという認識も、ある程度は当たっています。リテラシーは低いでしょうが、それをあざ笑うことは、正しいとは思いません。なぜそれが実態なのかを理解すべきでしょう。

テクノロジーを毛嫌いする人たちには何を伝えますか。

まず、テクノロジーは少しも怖くないということです。ロッククライミングやハンググライダーには危険が伴います。でもプログラミングに関しては、挑戦したからといって死ぬことはありませんから、何も心配はいりません。シニアの人たちは失敗を嫌がりますが、失敗は総じて主観的なものです。日本人は他人の目を気にします。シニアがもっと活動的に、そして前向きになるためには、自らを開放して、そのような心配をせずに生きていくことです。新しいことを試みた後は、人が何を言おうと気にしない勇気も必要です。

シニアはどのようにテクノロジーのスキルを高めたらいいでしょうか。

まず、やってみることです。オンラインでつながることで、家族や日本のために何かできるということが分かれば……。そういう説明が必要かもしれませんね。面白いという理由だけではやりたがらない人もいるかもしれませんが、ある種の責任意識を持つことができれば行動に移す可能性は高まるでしょう。

企業は高齢者を十分に起用していないと思いますか。

その通りです。かつて女性の活用は不十分でしたが、今は中心的役割にも就くようになりました。女性は人口の半分ですが、高齢者も3分の1を占めています。どういう理由からか、人はある年齢に到達すると企画立案を担当する部署から追い出されてしまうのです。

どのメディアに最も時間を費やしていますか。

インターネットです。ネットでは見たいものを自ら選べます。テレビは、見たくないコマーシャルも見なくてはなりません。私は、コマーシャルの間にあるものが見たいのです。もちろん、好きなコマーシャルもあります。楽しければそれはそれでいいのです。

広告主は高齢者層を理解していると思いますか。

必ずしも理解していないかもしれませんね。私は、何かを無理に見させられるのは好きではありません。広告によってはこちらが嫌な気持ちになり、そのせいで買いたかったものを買わなくなることがあります。事前調査が適切になされていないと思うことがあるのです。

どのように改善されるべきでしょうか。

特に日本では、フィールドワークのようなものが必要でしょう。高齢者層を理解するために、自分の祖父母や近隣の人たちと接し、どのような行動をするのか知ることです。商品を販売する前に、サンプルを試してもらうことです。高齢者には自由になる時間が十分にありますから、協力は惜しまないでしょう。

コメントは編集、要約してあります。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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