Steve Taylor
2022年12月09日

日本の広告から何を学ぶべきか

遊び心あふれる日本文化が、豊かな広告環境を創出する −− 他国の広告業界は日本から何を学べるのか。VCCPメディアのチーフストラテジーオフィサーが語る。

日本の広告から何を学ぶべきか

2019年のロサンゼルスの街はどのように広告で彩られるのだろう −−リドリー・スコット監督がこのような想像をしながら映画『ブレードランナー』(1982年公開)を制作したかと思うと、メディア業界人である私は驚嘆を禁じ得ない。残念ながら今のロサンゼルスには失望するが、そこから遥か遠く、太平洋を挟んだ反対側にスコット監督が思い描いた世界が実在する。日本である。先日、私は駆け足で東京を訪れ、かの地で多くのインスピレーションを得た。ここではそれについて述べたいと思う。

多様なOOH

東京の街角には様々な大きさや形のLCD(液晶ディスプレイ)スクリーンがあふれており、煌めくような広告が目を奪う。日本は極めて豊かで、先進的なデータ・技術基盤を有する国だ。お金の面でもデータコネクティビティーの面でも、OOH(アウトオブホーム、屋外広告)メディアのデジタル化を妨げるものは何もない。LCDは文字通り東京のどこにでもある。ビルの内壁や外壁、バス停、エスカレーターの側壁、階段の上部や下部、公共トイレ……いや、さすがにトイレの中にはなかったが。

だが日本の技術力を持ってすれば、通常のトイレですら広告媒体に変えてしまうことはたやすいだろう。前後に移動する洗浄機、便座ヒーター、そしてBGM……日本のトイレにはまさしく利便性が凝縮されている。ここまでいろいろなものが揃っているのだから、トイレのBGMにCMソングを使わないのは「重大な過失」にすら思えてくる。我々(英国人)も改めて広告機会について考えるべきだ。英国もデジタル化やコネクティビティーを高めれば、屋外施設や建物の活用法は限りなく広がる。そうすることで、増え続ける広告主の需要に応えることができよう。

LCD以外の活用

LCDを使えないスペースならば、紙やビニールを活用すればいい。地下鉄車内の手すりにLCDを取り付けることができないのなら、日本のようにビニール製の広告を吊るせばいい。スペースの有効活用の模範例だ。

文化に潜在する「遊び心」

日本人は我々英国人よりも、遊び心がやや旺盛のようだ。とても真面目そうな中年のビジネスエグゼクティブがバスの中で漫画を読んだり、ゲームに興じたりする。あるいは「オタクの聖地」秋葉原のショップを梯子し、最新アニメのフィギュアを買い求める。こうした光景は決して珍しいものではない。おそらくその理由は、日本語で使われる漢字が象形文字であり、日本文化の本質が極めてビジュアル的であることと関係するのではないか。

日本では日常に広告があふれている印象を受けるが、決して息苦しさは感じさせない。その理由は、広告が限りなくエンターテインメント性にあふれ、シュールで、グラフィック的にも非常に美しい作品が多いからだ。つまり、見ていてとても楽しいのだ。

QRコード

これだけ広告があふれ、文化の本質にヴィジュアル性があり、そして豊かなクリエイティブの才が花開く社会では、広告は切磋琢磨し、人目を引くために激しい競争を繰り広げる。派手な色彩のぶつかり合い、大仰な表現、登場人物の過剰な演技、現実離れした設定……。そして、至る所にQRコードがある。それは小さな喫茶店のナプキンにも、街中の巨大なスクリーンにも、本当にどこにでもある。日本ではあらゆる機会が消費者とブランドの間の垣根を取り除くために使われているのだ。広告を見ればすぐにブランドのウェブサイトに飛べ、製品が買え、情報が得られる。ブランデッドコンテンツやブランドにつながるツール、アプリは簡単に手に入るのだ。

熾烈な競争

日本の広告は目的がはっきりしている点でも突出している。メッセージが示唆的でわかりにくいものはほとんどない。たとえ日本語がわからなくても、広告を見れば何を伝えたいかは必ず理解できる。なぜこの製品は他社のものより優れているのか、なぜ生活に必要なのか、そしてどうすれば入手できるのか。こうしたことを説き、最終的には消費者をQRコードへと導く。

このように綴ってくると、日本では全ての広告が直接的で、ブランディング広告は皆無のように聞こえるかもしれない。だが、もちろんそうではない。世界的トップブランドのほとんどは、キャンペーンを日本市場向けにローカライズしていないように見える。私が見た限り、購買に直結するようなものはなかったし、すでにブランドをよく知る消費者のブランドアフィニティー(親近感)向上が目的のようだ。いずれにせよ、日本の広告環境は極めて競争が激しい印象を受ける。

日本から何を学べるか

英国の消費者は広告に対し、日本ほど寛容ではない。少なくとも我々自身はそう考えている。だが日本で強く印象に残ったのは、広告が実に楽しいということだ。広告が環境やエクスペリエンスの妨げになるのではなく、むしろそれらを飾り立て、高めているのだ。消費者は広告が嫌いで、エンターテインメントを求めていることは誰もがわかっている。だが、時に広告そのものがエンターテインメントになり得る。それを実現すれば、消費者は広告を見る場所も厭わず、見せられる数も厭わない。「とても楽しい広告! どこでもっと見られるのだろう」といった具合に。

(文:スティーブ・テイラー 翻訳・編集:水野龍哉)


スティーブ・テイラー氏はVCCPメディアの共同チーフストラテジーオフィサーを務める。

提供:
Campaign UK

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