Hannah Portner
2024年12月04日

2025年のブランド戦略、5つのトレンド

インバウンドの増加など、新たな期待が膨らむマーケティング業界。2025年のブランド戦略はどう変わるのか。そのトレンドを読む。

ハナ・ポートナー氏
ハナ・ポートナー氏

コロナ禍はもう過去の出来事のように思えるかもしれない。だが日本経済はまだその影響を受け、回復は緩やかで変革の速度も遅い。しかし今年は訪日外国人旅行者数が過去最高のペースで、新たな期待が市場に活気を生んでいる。こうした状況は来年に向け、国内外のブランドが進化を果たす絶好のチャンスだ。

では、今後のブランド戦略はどうなるのだろう。我々がクライアントとの対話から感じた、5つのトレンドをご紹介する。

1.伝統とテクノロジーの融合

日本は「おもてなし」の精神から生まれる、卓越したホスピタリティで知られる。茶道に代表されるように、心を込めたおもてなしは日本文化の象徴だ。この伝統的なおもてなしにデジタル技術を融合させ、より洗練された顧客体験を提供することが求められる。

グローバル化が進む中、インバウンドを取り込むためには優れた体験を強化し、他社と差別化することが不可欠だ。その好例が、オンラインと店舗の両方で利用できる資生堂の「SHISEIDO Skin VisualizerTM」だろう。これはユーザーの肌の状態を分析し、一人ひとりに合わせたスキンケアプランを提案するもの。顧客とのエンゲージメントを高め、ブランドロイヤルティ向上に貢献することは言うまでもない。こうしたテクノロジーと従来型のサービスの融合は、顧客体験を刷新し、顧客ロイヤルティを向上させ、競争優位性を確立する。

2. 長期的視野でブランド強化を

日本のクライアントは短期的なプロモーションを重視する傾向が依然として根強い。だが最近では、短期的な取り組みと長期的なブランド構築のバランスの重要性が認識され始めている。従来の画一的なメディア中心の戦略では消費者の心を捉えることが難しくなっており、よりパーソナライズ化された、高いエンゲージメントとブランドロイヤルティを生み出すコミュニケーションが求められている。

例えば、オンラインデザインプラットフォームのCanva(キャンバ)。製品だけでなく、ブランドの価値観も日本市場に浸透させようと注力する外資系ブランドの1つだ。「誰もが自由にデザインできる世界の実現」というミッションを基に、「Make it Unbelievable」というキャンペーンを展開。Canvaを使えば誰でもプロ並みのビジュアルやデザインが作成できる −− その驚きと可能性を、「驚くほど素晴らしいものを作る」「誰にも信じてもらえないようなすごいものを作る」というダブルミーニングでユーモラスに表現する。キャッチーなメッセージとストーリーテリングは機知に富み、年間を通して一貫したビジュアルを制作。記憶に残る広告は多くの人々の心を掴んだ(個人的にはこの作品が気に入っている)。

2025年は日本のブランドも製品を売るだけでなく、ブランド独自のストーリーを語り、消費者の心に響くようなコミュニケーションを展開していくべきだろう。そうすることで、単なる商品の提供だけでなく、人々の生活に寄り添う存在として長期的なブランドロイヤリティを築くことができる。

3. 高齢化社会の若年層

高齢化が進む日本では、若年層の共感を深め、ブランドをより身近に感じてもらうことが企業にとって喫緊の課題となる。日本の代表的ブランドは世代を超えて信頼を得る一方、若年層には「親世代・祖父母世代のブランド」というイメージが根強い。これを打破するには、若年層の価値観やライフスタイルに合わせた新しいプロダクトやサービスを提供し、ブランドイメージを刷新することが不可欠だ。

日本の地方では人口減少が急速に進む。この現状を受け、福岡フィナンシャルグループは「みんなの銀行」を立ち上げた。日本初のデジタルに特化した銀行で、実店舗を持たず、スマートフォンだけで完結するサービスを提供。デジタルネイティブ世代の若者をターゲットとし、支持を集めている。対照的に日本の多くの地方銀行は、ネットバンキングを提供しながらも対面での手続きが必要で、それを好む高齢者層を中心に顧客基盤を築いてきた。

みんなの銀行ではユーザーが利用目標の設定やバーチャルカードの利用ができ、他の銀行口座を含めてアプリ内で一元管理ができる

 

4. デジタルの利便性を生かす

今夏、日本政府はフロッピーディスクの廃止を決定した。この出来事は日本のデジタル化の遅れの象徴として、大きな話題となった。高度な技術を持つ一方、行政手続きなど多くの分野でアナログな慣習が残る日本社会。プロセスが複雑で非効率な場合が多く、大量の紙の書類やファックスが今も日常的に使われる。しかし、最近では利便性を重視したデジタルサービスが徐々に普及し始めており、国際基準に近づこうとする動きも見られる。契約や会費の支払いなど、すべての手続きを積極的にデジタル化するフィットネスジムのような企業も現れている。

私が通うピラティススタジオは、手続きが他のサービスよりも極めて簡単だった。日本語の膨大な書類もわかりづらい手数料もなく、無料体験クラスを受けた後に銀行口座情報を共有し、口座振替を設定するだけ。最小限の書類が英語で用意され、予約もオンラインで簡単にできる。日本ではまだまだ珍しいケースだ。それに比べ、生活費の支払いなどは契約手続きが煩雑で、私はコンビニで現金を支払うようにしている。

こうしたデジタル化の発展は、日本のビジネスモデルに大きな変革をもたらしている。2025年には、日本企業もこうした新しいシンプルなサービスに慣れた顧客の期待に応え、さらにそれを上回る必要があろう。

シンプルなUIを持つデジタル予約システムは、他国では標準かもしれない。だが、日本ではかなり貴重

 

5. AIの「話し相手」

集団意識が強い日本社会では、暗黙のルールや周囲との調和を重んじる傾向がある。そんななか、最近幅広い世代で急速に人気を集めているのがAIを活用した「話し相手」のアプリ。人のような自然な会話ができ、「相手」には先入観がないことがメリットだ。

このアプリ「話聞くよおじさん」は、どんな話にも耳を傾け、アドバイスしてくれるのがコンセプト。悩みを抱え、温かい言葉で癒やされたいと思っている大学生の間で広く利用されている。

朝起きられない悩みを相談している学生と、「話聞くよおじさん」とのやり取り

日本ではAIを活用したサポートや、生活にまつわるアドバイスを提供するサービスの潜在性が非常に高い。ブランドは2025年、パーソナライズ化されたAIアシスタントやサービスを活用し、顧客との関係を深化させるイノベーティブな手法を模索するだろう。LINEのような既存のプラットフォームをChatGPTに統合したり、安全性の高い独自のトレーニングを施したAIモデルを導入したりすることで、顧客とのエンゲージメントを深めていくと考えられる。

こうした5つのトレンドは、日本独自の文化的価値観を尊重し、基盤としたイノベーションの必要性を明確に示している。2025年のブランド戦略に欠かせないのは、迅速性と開放性だ。変化を受け入れ、現状から一歩踏み出し、顧客との関わりをアップデートする。それこそが顧客との深い関係性の構築、進化する市場での競争力維持の鍵となろう。

 


ハナ・ポートナー氏はR/GA Tokyoのブランドストラテジストを務める。 

提供:
Campaign Japan

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