過酷な小売業界で、低価格を売りに事業を展開している西友だが、イオンやセブン&アイ・ホールディングスといった国内大手に苦戦を強いられている。それでも日本からの撤退については否定、3月には店舗の改装計画を発表した。さらにロイターは、上垣内猛・最高経営責任者(CEO)が、適切な場所が見つかれば新店舗をオープンする可能性もあると話したと報じている。明るい兆しを見せているが、ウォルマートは日本の消費者に十分にアピールできているのだろうか。
もっとアメリカらしさを前面に
バリー・ラスティグ
Cormorant Group パートナー
西友の近年の低迷は、実際は外的要因によるものが多い。賃金の伸び悩みや先行きの見えない経済に不安を感じていた、日本の消費者の購買力は、円安と消費税増税によって大きく減少した。また、東日本大震災以降は、国内のコンビニエンスストアの店舗数が20%以上増加。食品や生活必需品を幅広く扱うコンビニが、西友の事業を脅かすようになった。
だが同時に、西友が直面している課題には、同社自身に起因するものも多い。競合相手のコンビニと同様、西友も拡大し過ぎた。さらに西友を苦しめたのが、ウォルマートのポジショニングと価格戦略であるELDP (エブリデー・ロー・プライス)戦略。西友のイメージに合致せず、特売を好む日本の消費者にも受け入れられなかったのである。
ここ1年は、業績不振の店舗を閉店し、残存する店舗の改装に時間を費やした。これが奏功し、現在売上は好調に推移している。
リニューアルが進む中、数店の米国式ウォルマートの開店も検討されるべきだろう。近年、イケアやコストコが成功したのは、日本式にせずに本国らしさを打ち出したためだ。米国式ウォルマートの参入は、日本における従来のショッピングの常識を覆し、消費者に新たなカスタマーエクスペリエンス(顧客体験価値)を提供することになるだろう。ウォルマートというショッピング環境だったら、「毎日がお買い得」という気分にだってなるかもしれない。
「革新的なローカライズ」の強み
伊藤治彦
BBDO JAPAN マネージングディレクター
ウォルマート(西友)を評価することは、日本の消費者市場全体を分析することに等しい。現在、日本の総人口は減少傾向にある。単独世帯は急速に増加しており、東京都では約50%だ。購入量は少なくなり、国内の大手チェーンは店舗数を削減。外資チェーンにいたっては、日本での事業を縮小、あるいは撤退するものもあった。
また日本のような成熟市場では、低価格戦略は難しい。そのため、小売業やマーケターが、ビジネスの収益性やブランドのイメージを損ねる価格プロモーションから、「プレミアム」「スペシャルティ」「ヘルシー」といった付加価値マーケティングへとシフトしているのが実情だ。
こういった事情から、ウォルマートのEDLP戦略を単純に日本化するだけでは、消費者を呼び込むのは難しい。ただ西友はEDLPを、価格コミュニケーションだけでなく事業や業務の優良化にも活用し、サプライチェーンにも浸透させている。そのため高付加価値商品を、驚くほど魅力的な価格で提供することに成功している。
日本人には、権威による品質や安全性の格付けが好まれ、最近は消費者の声こそが最も信頼される”格付機関”となっている。そこで西友では、消費者を対象にしたモニター調査を行い、支持率70%以上の商品は「みなさまのお墨付き」というプライベートブランドに加えて販売。この新しい「価値」は、品質に関する懸念を払拭するだけでなく、消費者が開発プロセスに参加できることで人気を博し、前年比20%の成長を続けている。
日本市場におけるチャレンジは、マーケターが自社ブランドやビジネスモデルを再構築し、さらなる革新を目指す機会として、ポジティブにとらえるべきだ。西友はウォルマートのコアバリューを革新的なローカライズ手法で消費者に提供している。この部分は、外資系チェーンでは見落とされることも多く、そういう意味では、同社は非常に健闘していると考えている。