ランジェリーブランド「コサベラ」は昨年10月、デジタルエージェンシーとの契約を解消し、AI(人工知能)を用いたマーケティングプラットフォーム「アルバート」を使い始めた。それ以来、ROIは3倍以上となり、顧客基盤も30%拡大した。
コサベラの本社は米国にあり、英国、オーストラリア、ドイツ、フランス、イタリア、カナダでECサイトを運営している。同社が、アルバートを開発したアドゴリズム社との提携を決定した背景には、デジタルエージェンシーに対する不満があった。
「当社ブランドのことは、私たちが一番よく理解しています。広告会社にブランドを理解してもらうためのコミュニケーションは時間もかかり、困難でした」と、コサベラのマーケティングディレクターであるコートニー・コンネル氏は振り返る。その広告会社については「本当にとても良い方々でしたよ」と述べるにとどめ、評判に傷をつけるのは本意ではないとして名前は明かさなかった。
コンネル氏は、四半期の業績の伸びが止まったとき、不安を覚えたという。「強い懸念を感じました。それまでは毎四半期、2桁台の成長をしてきたのですから」
広告会社との契約を解消した後、それに代わるものを検討。大きな広告担当チームを社内に立ち上げるのではなく、AIプラットフォームを試すことを決断した。
アドゴリズム社のアルバートには手始めに、高額な購入が見込める潜在顧客を特定し、実際に購入へと誘導するというタスクを与えた。コサベラのペイドサーチ型(検索連動)広告とソーシャルメディア・マーケティングの管理を任せ、同社の用意したクリエイティブやKPI(重要業績評価指標)を使ってデジタルマーケティングを自律的に行うというものだった。
結果は上々だった。最初の1カ月間だけでも、アルバートはコサベラの検索連動型広告およびソーシャルメディア広告のROAS(広告の費用対効果)を50%改善、広告費を12%削減した。
特にフェイスブック単体については、導入から1カ月以内にROASを565%押し上げた。さらに、3カ月目までにROASを336%向上させている(前四半期から155%増)。
全体的に見れば、2016年第4四半期のコサベラのサイト全体のセッション数は37%増、新規ユーザー数は30%増、購買件数は1,500件増となった。
「ペイドサーチやソーシャルメディア上のマーケティングでの、アルバートの活躍を目の当たりにしてしまった以上、もはやこの仕事を人間に頼みたいとは思いませんね」とコンネル氏は話す。
アルバートがもたらした最大の変化には、ソーシャルメディアからの収益増がある。「アルバート導入前は、ソーシャルメディアからの売り上げは全体の5~10%に過ぎませんでしたが、今や常時30%。アルバートはフェイスブックでのコンバージョン率を見事に向上させ、フェイスブック経由での商品購入は2,000%も増えました」
広告会社 対 AI
報酬の観点でいえば、アルバートは決して広告会社より安いという訳ではない。「広告会社だと、媒体費に対して15~20%の手数料を請求されます。アルバートの場合は、月額フィーや導入費はかかりませんが、18%の手数料がかかります」とコンネル氏は明かす。
開発や保守のためのダウンタイムが必要ないアルバートは、休むことなく仕事をする。「眠らないし、仕事が速い。彼女とけんかをして集中力を欠くなんてこともありません」とアルバートのことを語るコンネル氏の話しぶりは、まるで理想的な社員のことを話しているかのようだ。
米国最大の商戦とされる、感謝祭の翌日「ブラックフライデー」の深夜2時に、コンネル氏はパニック状態で目が覚めた。コサベラの展開していたキャンペーンが期待したほどの集客に結び付いておらず、焦りを感じたのだ。「でもアルバートが、全てを完璧に取り仕切っていました」
アルバートには、管理を任されている範囲内で分野横断的に予算配分を調整する能力が備わっており、ROASが目標を常時上回っていれば、予算の積み増しを推奨してくれる。「当社は全てのチャネルで、KPIを達成しています」
マーケティングにおいて広告会社の居場所はあると、コンネル氏は思い巡らす。だがそれはペイドサーチ型広告や、ソーシャルメディア広告、ディスプレイ広告ではないという。「これらの仕事を人間にしてもらいたいとは思いません。そんな仕事をすれば、ひどい人生になってしまいますよ。それに、この領域のスキルは将来、人間が身に付けるスキルとしては価値が無くなると思うのです」
AIと働くということ
特に問題なく仕事に取りかかることができたアルバートだが、始めのうちはコンネル氏のチームが学習をサポートしていた。
「私たちの意識を変える必要がありました。AIには固定されたクリエイティブでなく、さまざまな要素を与えた方が良いということが分かったのです。アルバートはさまざまなコピーと写真の組み合わせを試み、最初の2週間ほどは最適化に時間を費やしました。ひとたびキャンペーンの最適化ができれば、アルバートは独自のキャンペーンに着手します」
さらにアルバートは、微細なパターンに基づいて顧客を非常に細かくセグメンテーションすることが可能だという。これにより、マーケティングチームが社内で設定していた3つの大まかなペルソナを、何百もの詳細な人物像として描くことができるのだ。
「AIの素晴らしいところは、私たちが見るのとは違った視点で人間を捉えてくれる点です。アルバートは与えられたブランド資産を活用して、自ら作り出したミクロセグメントごとに最適化し、それぞれの人が望むような口調で語りかけることができます。例えば、私たちが人物や物を表現するときは10くらいの特徴を挙げますが、AIは、私たち人間が見過ごしてしまいがちな、わずかな違いをも見出すことができるのです。そして、決して忘れることもありません」
マーケターがAIを使う際には、顧客ターゲットの範囲をあまり厳密に設定しない方が良いとコンネル氏は指摘する。「始めは私も戸惑いましたが、実験的にいろいろなことを試せる余地をAIに与えなくてはなりません。そうすることで、今まで見逃していた潜在顧客の小さなグループを、AIがいくつも見つけるのです」
アルバートはまた、競合他社が使うキーワードを分析し、自分たちもその分野をターゲティングすべきかどうかの提言もしてくれる。
「当社以外の競合が揃ってプロモーションを展開していた時に、アルバートがそのことに気付き、当社もプロモーションをすべきではないかと提案してくれました。また、静物よりも人物をモデルにした広告の方がパフォーマンスが50%高いことも教えてくれ、もっと人物モデルの素材を提供するようリクエストしてきたのです」
AI導入でコサベラが享受する大きなメリットの一つに、「飽き」の感知能力がある。「クリエイティブのコンセプトが飽きられて、クリックレートやインタラクションが下がってきているとき、アルバートはそのことを報告してくれるのです」
アルバートの働きぶりに非常に満足しているコンネル氏は現在、ウェブサイト管理に特化したAIプラットフォームも試しているところだ。「AIを導入しない手はありません。せっかくアルバートが数々の素晴らしい成果を出してくれているのに、消費者が当社のウェブサイトにたどり着いた途端に、アルバートの出番ではなくなってしまうのですから」
AIプラットフォームは極めて専門に特化した設計になっているという。そのため、アルバートに複数のタスクを与えるのではなく、適したパートナーをアドゴリズム社と共に見極めて組み合わせる。「センティエントというAIプラットフォームと、アルバートが連携できるよう尽力しているところです」
(文:エミリー・タン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)