アドテクやマーテック(MarTech)という言葉がある。文字通り広告やマーケティングのテクノロジーを表す言葉だ。また最近はFinTech(金融×テクノロジー)、EdTech(教育×テクノロジー)、 HRTech(人事×テクノロジー)など、テクノロジーへの注目の度合いが上がっている。RPA(Robotic Process Automation)によるホワイトカラー業務の効率化や自動化への取り組みも着目されており、今まさにテクノロジーの進歩から目が離せない状況だ。
さまざまなテクノロジーは分野別に「カオスマップ」という手法でリスト化されていることが多い。カオスマップ(英語ではtechnology landscape)は特定分野の技術・サービスを一覧表にしたもので、マーケティングに関わっている読者の皆さんは、一度は見た事があるはずだ。
PR(Public Relations)の定義付けは難しい。IMCの中に包含されるという考えもあれば、PRがマーケティングの上位概念だという人もいる。ここでは、「企業が広報活動を実施する際に活用するテクノロジー/インターネットサービス」をPRTechと位置づけ、PR分野のテクノロジーのカオスマップ作成を試みた。作成に当たっては、原案を弊社で作成し、それをもとに日本マーケティング学会内のリサーチプロジェクト「PRテクノロジー研究会」でアップデートを進めた。サービスは日本語もしくは英語を用い、日本国内から利用可能なものに限定した。
続いてそれぞれを少し詳しく見ていく。
【ワイヤーサービス(プレスリリース配信サービス)】
このサービスの利点は、自社でコンタクトできない記者にもプレスリリースが送られ、そのプラットフォームが連携しているWebサイトにもプレスリリースのコピーが自動的に掲載されるということにある。だが、このコピーされたプレスリリースはネット検索に引っかからない設定になっている事も多く(検索して出てくるのが同じプレスリリースのコピーだらけになってしまうのを防ぐため)、数十件掲載されても通常のネット記事掲載とは情報拡散効果が異なることは知っておきたい。これらのサービスには海外への配信に対応しているものがあり、日本にいながらにして地域を限定してプレスリリースを配信できる利点もある。
【メール配信サービス】
自社に記者リストを持ち、この記者に対してプレスリリースを送るときに使う配信のみに特化したサービスがある。いわゆるメール配信サービスといわれるものだ。無料で広告表示があるものから、広告表示なしで月額2000円程度で使えるもの、マーケティングオートメーション機能を持った高額なものまである。
【ニュースクリッピング】
自社や競合他社に関するニュースをモニタリングし、テクノロジーを使って抽出する仕組みである。大手企業ではネットの炎上をいち早く知り、対策を立てたり、自社ブランドに関するキーワードのソーシャルメディア投稿の増減をチェックし、PR活動の効果測定の一部として活用するケースが多い。これらサービスが拾えるのは「公開投稿」のみであり、フェイスブックの友達限定公開などの投稿は検索対象外となる。またサービスによってはポジネガ分析機能を有する。ポジネガ分析は別名「センチメント(感情)分析」ともいい、投稿がポジティブなのか、ネガティブなのかを分析する機能である。この機能により、炎上をいち早く知ったり、自社製品名に関する投稿がファンなのかアンチなのかを知るヒントにもなる。
【ソーシャルメディア投稿管理】
フェイスブックやツイッターには投稿機能があるが、このサービスを使う事で、1つの画面から複数サービスへの投稿が時間指定で行えるようになる。多くの管理ツールは分析/モニタリング機能も備えているが、今回は管理ツールとして分類した。
【PR会社マッチング】
海外ではPR会社とクライアントをマッチングさせるサービスも出ている。また、物事の背景にあるストーリーに着目する傾向が強まる中、企業のストーリーを投稿するプラットフォームも注目を集めている。
【調査】
調査代行(調査リリースに必要な調査を実施できる)や、リサーチ(蓄積されたデータで競合分析マーケット分析が実施できる)、アンケート作成サービス(自分で設計したアンケートを設置できる)などは、今回は調査という大きな括りでまとめた。企業広報の活動の中に「調査リリース」がある。これは何らかの調査を実施し、それをプレスリリース形式で記者に送るもので、1つの手法として市民権を得ている。そのため調査に関わる項目をマップに入れた。また他の方法として競合調査に使うことも多い。
ツールを活かすのも、PR担当の腕次第
以上、さまざまなテクノロジーを用いたPR支援ツールの状況を見てきた。PR会社のサービスや企業の広報担当者の仕事は「属人的」であるといわれる。定型業務化が難しく、個人の能力やノウハウに大きく左右されている現状がある。しかしPRTechにより、自動化できる部分の自動化が進むと共に、本来時間をかけるべき部分、たとえば企業としてのコミュニケーション戦略をどうするのかという大事な部分に注力できる他、ワークライフバランスの最適化にも貢献することが期待される。
企業のPR担当者やPR会社のスタッフは、単にツールを使いこなして情報の流すだけの役割を求められているわけではない。コミュニケーションを立てた上で、どのように情報を発信し、その発信した情報がどう世間に受け止められたのかを測定し、次の活動に活かす一連のサイクルを回すという役割がある。ツールはあくまでツールであり、「どのように活かすか」を考えるのは担当者の腕の見せどころである。
なお、このカオスマップはまだ発展途上であり、引き続きアップデートを続けていく。アドバイスやご意見があれば是非ご連絡いただきたい。
加藤恭子氏は、ビーコミの代表取締役。
(編集:田崎亮子)