1998年に米国・ポートランドから東京へ移り住んだことは、私の人生において紛れもなく、最もクリエイティブな冒険の一つであった。
この国の素晴らしい文化に6年間接した経験は、今でも私に数多くのインスピレーションをもたらしてくれる。
現在、日本では多くの著名なブランドが生き残りをかけ、熾烈な競争を繰り広げている。
若さとスピードに溢れる現代の世界は、ビジネス界を仕切る年配の重鎮たちにとっては馴染みの薄いもので、ゆえに多くの日本企業はデジタル革命に乗り遅れてしまった。
それでも日本は、世界中のクリエイターたちを刺激し続ける。政府が主導した「クールジャパン」のキャンペーンは、恐ろしくアンクール(野暮ったい)なものではあったが。
要するに「日本」は、自身のマーケティングの世界を生き抜いたのである。
成功は、マンネリを生みやすい。ユニクロの東京本社では至るところに「Re-invent everything = すべての面で改革を怠るな」という標語が見られる。これは創業者である柳井正氏の「雄叫び」とも言え、未来に生き残るためには常に新しい考え方と行動が必要だと訴えかける。
ユニクロが世界的影響力をもつ真のグローバルブランドになれるか否かは、時のみが証明してくれるだろう。それでも、大きな夢を抱いて果敢にチャレンジをしていく柳井氏は、間違いなく日本屈指のビジネスリーダーに相違ない。
彼は今、膨大な資金と時間、そしてエネルギーを費やし、世界とより密に繋がり、デジタル・ディバイド(技術・情報格差から生じる経済格差)を乗り越えていく企業文化を確立しようとしている。
LIXILグループの前社長兼最高経営責任者(CEO)だった藤森義明氏は、「日本には世界と競争できる人材を育成する環境がない」と話す。
日本のブランドが海外で直面する問題は、文化的な背景を理解して行動すること ― つまりその地域の社会のあり方と人々の考え方を深く理解することだ。日本の教育水準は高く、才能ある人材にも恵まれているが、英語能力が低いためにコミュニケーション力や思考法で世界のライバルたちに劣っている。
「バイリンガルの人々とは、バイリンガルの脳をもつことを意味します」と藤森氏は言う。
「日本がそうした人材を育成できれば、彼らは世界の舞台で積極的に日本をプロモートしていける。ダボス会議のような場でそういう人々が活躍すれば、日本の存在感もより大きくなっていきます」
日本は、生き残る。いや、世界に多くの価値を与えられる国だからこそ、生き残らなければならない。
だが、日本のブランドの多くは生き残れないかもしれない。それぞれの文化には、長所と短所がある。米国は多様性を力にしているが、未来を見据える日本にとってそれは課題である。
多様性は共感する力と相互理解を促進し、文化や時間の垣根を超えた交流を可能にする。今の時代に成功をおさめるための不可欠な要素は、テクノロジーによって生じる世代間のギャップを超え、グローバルな消費者とローカルの消費者の需要と心理を理解することにある。消費者をデータの集合体としてではなく、具体的な欲求をもつ生身の人間として把握することだ。
日本はまだこの点に長けているとは言えない。テクノロジーがいかに進歩しても、結局は様々な意味で島国であり続ける。島国精神の強みは己の文化を深く掘り下げられることだが、日本のリーダーたちは世界から孤立してしまっている。
それでも私は、日本とその未来に賭けたい。この国には創業100年を超える企業が20,000社以上あり、創業200年以上のものでも3,100社を超えるのだ。これは日本が永続性とクオリティー、そして技術へのあくなき探究心を生来もち合わせていることの証であり、デジタルと仮想現実が支配する今の時代のニーズと見事に合致するのである。
日本でも今、海外でのビジネス経験が豊富な「反逆者たち」 ― 新しいタイプのリーダーたちが増えつつある。テクノロジーの進化がこうした新世代の起業家たちを後押ししているのだ。
彼らは型にはめ込もうとする社会的重圧に負けず、内面的な強さをもち、自信をもって他者を先導していく能力に長けている。常に国外に視野を向けてものを考え、世界中にビジネスのための人脈と個人的な人脈をもちあわせている。
そして開かれた企業文化を目指すムーブメントの最前線に立ち、企業内に多様性を創造し、女性社員の育成と、影響力と責任のある役職への登用を促進しているのだ。
彼らは、変革に極めて貪欲だ。最早、それ以外のオプションはないのだから。
ジョン・C・ジェイ
ファーストリテイリング
クリエイティブ本部長
(編集:水野龍哉)