日本の景気動向はしばしば世界からやり玉に挙げられるが、今はどうも文句をつけにくい −− そんなデータが改めて示された。国内経済は6四半期連続で成長を果たし、直近では年率4%の伸びだという。政府はその要因として個人消費の伸び(前年比5.3%)を挙げる。
だが世界を見渡せば、景気の先行きには暗い影がある。市況を表す信頼性の高いバロメーターとして電通の業績が挙げられるが、今月同社は売上高を下げ、年間の業績も下方修正した。その要因は、消費財大手などのクライアントが世界市場でマーケティング支出を見直していることにあるという。日用消費財の分野は、大手広告代理店ネットワークの世界の総売上高で約10%を占める。
デジタル広告からの撤退を表明したP&Gの広告支出は世界で1.7%減の71億米ドル(約7810億円)となり、この11年間で最も少ない額となった。ユニリーバも取引先の広告代理店を半分に減らし、広告制作費を30%削減する予定だ。P&Gが最も危惧するのは、デジタル広告における透明性の欠如とブランドの安全性。両社とも、より効果的なマーケティング活動と代理店の活用法を模索する。
「一般消費財ブランドは世界中で苦戦しています」と語るのはコンサルティング会社R3のプリンシパル、グレッグ・ポール氏。この分野における世界トップ100社のうち、昨年は90社が市場シェアを下げたという。「既存のエコシステムの“アマゾン化(Amazonification)”によるものです。つまり世界中の消費者が、より安い価格で商品を購入するか、購入の際に付加価値を得たいと考えるようになったのです」。日本ではeコマース市場が急速に伸び、ブランドロイヤリティが市場における重要課題となった。「売上が下がれば、往々にして最初にカットされるコストはマーケティング費です」。
だが少なくとも今の時点では、日本にはそれが当てはまらないようだ。電通は、クライアントが国内よりも海外ビジネスで支出を減らしている点に着目する。ADKは今年上半期の決算報告で、コスメ・化粧品関連の売上が前年比で減少、一方で生活用品関連が26%、食料品は8%増加と発表した。
この7月にCampaignがザ・トレード・デスク社と共催したカンファレンスで、ユニリーバ・ジャパンの山縣亜己メディアディレクターは「プログラマティックのような新しい技術に過度に投資することが、果たして有益だろうか」と疑問を投げかけた。プログラマティックに支出するクライアントは、マーケターの専門知識の欠如やROI(投資利益率)を実証する難しさといった壁にぶつかり、「一時的に業績が落ち込むのではないか」。当のユニリーバは「業績が堅調なので、全体のマーケティング支出を削減する必要はなく、その予定もありません」。今後進むべき方向は、「製品のプレミアム化とカスタマイズ化」だと言う。
P&Gジャパンのスポークスマン、遠藤紀幸氏は今後の支出予算に関するコメントを避けたが、「昨今の日本の経済成長は、日本にも成長機会があるという我々の見方を裏づけてくれました」と語る。ポール氏が示唆するように、ブランドの将来はプレミアムな製品の提案にかかっているようだ。「日本の目の肥えた消費者は、日常生活でもこれまでのようにイノベーションとより優れたソリューションを追い求め続けるでしょう。そのためには多少の出費も厭わない、と我々は見ています」(遠藤氏)。
「人口の減少化にかかわらず、幼児用のおむつや洗濯用品といった消費財の分野は依然として成長を続けている。こうした現実を注視していきます」
消費者調査でも頼もしい結果が出ている。ニールセンによる最新の消費者信頼感指数(CCI = consumer confidence index)では、アジア太平洋地域における14カ国のうち9カ国の市場が上昇し、日本は13ポイントアップと有数の伸びを示した。世界的に見れば日本は63カ国中33位に位置し、スコアは87だ(世界平均値の104は下回っている)。
それでも、用心に越したことはないだろう。ドイツ銀行は日本経済の分析を毎週行うが、8月18日付のリポートでは「既にピークに達したようだ」と指摘。政府が提唱する働き方改革は経済成長を抑え、第3四半期は年率で0.7%と予測する。個人消費の伸びも2017年の1.4%から、2018年には0.6%に鈍化するとしている。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)