日本の鉄道の駅には、感情をかき立てる独特な力がある。和歌山電鉄は1月5日(木)、三毛猫の「たま」の駅長就任10周年を迎えた。「たま」は経営不振に陥っていた同社貴志川線の喜志駅の駅長を務め、2015年に心不全で死んだ。和歌山電鉄によって、現在は「たま大明神」として「たま神社」に祭られている。
ブランド大使として、「たま」は大いに影響力を発揮した。猫の駅長は国内外から観光客を呼び込み、貴志川線を廃線の危機から救った。駅長在任中に「たま」が地元経済にもたらした効果は、10億円を超えるといわれている。「たま」の葬儀は神道式で執り行われ、3,000人が参列した。
「たま」は死んだが、猫の駅長は一代限りではない。2015年には「ニタマ」が「たまⅡ世駅長」に就任し、このたびの「たま」の駅長就任10周年を機に、「よんたま」が「駅長見習い」の辞令を受けた。
ブランド大使の性格や個性は、実に重要な要素だ。「たま」の成功に続けと、イメージアップのために猫の駅長を登用する駅が全国各地で続出したが、いずれも「たま」ほどの脚光を浴びるには至っていない。多くの人々にとって、「たま」こそが唯一無二の、真の猫の駅長であり続けるだろう。
では、駅が地方再生やブランド力向上のプラットフォームたりえないかといえば、そうではない。駅の活用効果のキーとなるのは、独自性の有無だ。スカルプケアシャンプーメーカーのメソケアプラスは2015年、千葉県の銚子電気鉄道のネーミングライツを購入。笠上黒生(かさがみくろはえ)駅を髪毛黒生(かみのけくろはえ)駅に改名し、シャンプーの売り上げを伸ばした。この小さな変更はまた、銚子電鉄の利用者数と笠上黒生を訪れる観光客数の大幅な増加にも貢献した。
このメゾケアプラスのキャンペーンを手掛けたオリコムのコピーライター、関口博人氏はインタビューの中で、鉄道愛好家が多い日本では、このような突飛なアイデアも、日本以外では考えられないような大きな効果を得られると述べている。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)