電通は、大企業の若手社員が企業の枠を超えてイノベーションや新規事業の立ち上げを目指す有志団体「One JAPAN」への参加を検討しているようだ。One JAPANに参加するのは、パナソニック、トヨタ自動車、NHK、リコーをはじめとする多くの大手企業。その大半は日本企業だが、日本で事業を行う外資系企業の参加も受け入れている。
電通の広報担当者は、One JAPANへの参加について肯定も否定もしていないが、「既に多くの大手日本企業がメンバーとして活動しており、電通が参加しない理由はない」とコメント。同社が今年後半には加わるものと、Campaignでは見ている。
One JAPANにおいて電通が担う役割や、参加することによって電通にもたらされる効果については今のところ不明だが、いずれも相当なものと考えられる。One JAPANでは、参加メンバーが頻繁に協力し合い、お互いにとって有益になり得るプロジェクトに取り組んでいる。
One JAPANのメンバーである大川陽介氏(富士ゼロックス)と松坂俊氏(マッキャン・ワールドグループ、デジタル・クリエイティブ・ディレクター)は、共同開発したばかりのマインドフルネス瞑想誘導ロボット「CRE-P(クリップ)」を、6月に都内で開催された「AI・人工知能EXPO」に出展。Campaignは会場で、二人を取材する機会を得た。
両氏とも電通の参加可能性については言及しなかったが、One JAPANはミレニアル世代のキャリアにおいて価値あるネットワークへと育ち、将来の日本企業の在り方に大きな影響を与えていくだろうと述べた。参加企業は当初、競合可能性のある企業が集う有志団体に自社社員が参加していることの公表をためらっていたが、メディアが前向きに取り上げたことも手伝って、次第に自信を深めている。
この団体は3人の発起人によって設立された。その一人である大川氏は、コラボレーションの原則が非常に重要だと語る。「私たちはつながり合うことで、より大きなインパクトを生むことができます。One JAPANの願いは、優れたイノベーターが会社にとどまってくれること。大企業からはイノベーションは生まれないという考え方は変える必要があり、また変えていけると確信しています」
CRE-Pプロジェクトは、松坂氏が開発を手掛けたAIクリエイティブディレクターに興味を持った大川氏が、共同開発の話を持ちかけたことで始動。東芝やIBMなど数々の企業からの協力を得て、短期間で実現した。松坂氏は、One JAPANのようなクリエイティビティーを発揮できる場がなければ、大川氏のような人材は「会社を辞めて起業するか、グーグルのような巨大テクノロジー企業に転職してしまいがち」と指摘する。
「ミレニアル世代を変えていくには、One JAPANしかありません。どの大企業も素晴らしい人材を数多く抱えていますが、大きな組織の中で孤独感を味わっています。優れたテクノロジーや良いアイデアがあるにもかかわらず、大企業であるが故に組織の壁が立ちはだかり、思うようなスピード感では仕事が進まないのです」(松坂氏)
アサツーディ・ケイのディレクターである原口政也氏は先日、One JAPANについてCampaignに語る中で、「若い世代のイノベーションを支え、日本企業を国際志向に進化させる上で、広告会社の果たす役割は大きい」と述べた。人と人のつながりを促進し、共通の課題を見出す場であることがOne JAPANの存在価値の一つだとし、「広告会社に求められるこれからの役割もまた、つなげる、ということでしょう。新しい視点を持った第三者と企業を引き合わせ、日本市場とグローバル市場の橋渡し役になっていくのです」と言い添えた。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)