シンガポールで開催された今年のスパイクスアジアでは、日本勢が3つのグランプリ、10のゴールドスパイクを含む合計87の賞を受賞し、際立った強さを見せた。
インディペンデント・エージェンシー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたのは東京のクリエイティブ・ラボ、PARTY。同じく東京のENJINが同部門で3位となった。電通(東京)はエージェンシー・オブ・ザ・イヤー部門で、コレンソBBDO(オークランド)とクレメンガーBBDO(メルボルン)に次いで3位に選ばれた。
なお、カンヌライオンズで評価の高かった作品がスパイクスアジアでも上位に入る傾向が見られた。資生堂がワッツ オブ トーキョーとの協業で制作した「High School Girl? メーク女子高生のヒミツ」は、フィルム・クラフト・グランプリとフィルムゴールドを受賞した。大きな話題となったこの動画は、昨年10月にYouTubeの資生堂公式チャンネル上で公開されて以来、1000万回近く再生されている。
また、デジタル部門ではTBWA HAKUHODOが手掛けた日産自動車の「インテリジェント・パーキング・チェア」が、デジタルクラフト部門ではENJINによるANAのバーチャル美術館 「IJC MUSEUM」が、それぞれグランプリを獲得。この3作品に共通するのは、抜きんでた独創性だ。いずれも一口に「広告」とは呼び難く、そこに作品の良さがある。
デジタル部門、モバイル部門、デジタルクラフト部門で審査員を務めた木村健太郎氏(博報堂ケトル)は、日産自動車の作品を「面倒くさいことが一瞬で解決すると人生がスムーズにいくような気がする、そんなヒューマンインサイトを通してクルマの機能を生活実感に変換した、真にデジタルドリブンなアイデア」と評価。「今回一番嫉妬したアイデアだと、全審査員が語っていました」
また木村氏は、他の作品とグランプリを争ったANAについて「インターフェイス、ナビゲーション、デジタルイメージ、ユーザーエクスペリエンスのどの面でも素晴らしいという点で、スパイクス1年目のデジタルクラフトグランプリにふさわしい」という結論に至ったと語る。
ゴールドを受賞した作品は次のとおり。
デザイン部門:PARTYによる、陸上競技場のような成田国際空港第3ターミナル。(「キャンペーン」が評価する最近の作品の一つ。これもまた典型的な広告の在り方とはかけ離れている)
デジタルクラフト部門:TBWA HAKUHODOと博報堂が手掛けた、マクドナルドの「マックなう」。データとAI(人工知能)のテクノロジーを活用し、いかに消費者向けメッセージを簡素化するかを示した。「場所や気候などの無機質な環境データを、レイヤーを重ね合わせることで美しく仕上げたクラフトが評価された」と木村氏は話す。
フィルムクラフト部門およびミュージック部門:AOI Pro.と東急エージェンシーによる、バンホーテンのココア「MAMAMETAL(ママメタル)」シリーズ。日常の苦労とささやかな喜びを、面白おかしく描写している。
フィルム部門:ドリルが手掛けたOcedel(オセデル)の「Firefly Man(蛍男)」。大手のブランドにも、この種のユーモアとストーリーテリングを交えた作品に是非とも取り組んでほしい。
メディア部門:博報堂および博報堂ケトルによる、松本りんご協会の「Dentapple(デンタプル)」。リンゴをかじるだけでスマートフォンのアプリで歯の健康状態がチェックできる、シンプルかつ気の利いた事例。
ミュージック部門:3Dホログラムのミュージックビデオが飛び出す、ネスレ・ジャパンおよび日本郵便のキットカット「キットメール・ホログラム」(ジェイ・ウォルター・トンプソン)。未完成版ミュージックビデオを視聴者がウェブ上で完成させる三菱電機の「クラウド・コーディネーテッド・ミュージック・ビデオ」(博報堂)。スマートフォンがアイドルにジャックされたような疑似体験ができるキングレコードの「ネイティブ・モバイル・ミュージック・ビデオ」(TBWA HAKUHODO)。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)