Paul Sigaloff
2023年1月13日

2023年、ブランドが注目すべきアドテク3つのトレンド

米ヤフーのAPAC担当責任者は、厳しい経済情勢の中、限られた予算で成果を上げたいブランドにとっては、アドテクが、アドレサブルメディア、Web3、コネクテッドキャンペーンなどの主要分野で効力を発揮するだろうと言う。

2023年、ブランドが注目すべきアドテク3つのトレンド

興味深い事実がある。2022年10月に「メタバース」という言葉が前年同月の4倍使用され、オックスフォード大学出版局が例年実施しているワード・オブ・ザ・イヤー2022の選考でも、第2位にランクインした。これは、メタバースが一般にも普及し、インターネットの次世代技術がマーケターにとっても無視できない存在になっていることを意味する。

2022年がニューノーマルを試行する年であったとすれば、2023年はインパクトとパフォーマンスがもたらされるイノベーションの年となるだろう。厳しい経済情勢のなかでマーケターが予算を増やそうとするなら、測定とROI(投資利益率)に対する精査はより厳しいものになるだろう。不安定な状況は、消費者がどのように反応するか予測することを難しくするため、ブランドは絶えず適応し、機敏に行動することが求められる。

本記事では、不確実な2023年を乗り切るため、広告主がアドテクを活用して機敏に立ち回り、実行するための3つの方法を紹介する。

アイデンティティへの対応:複数のスペースで顧客を見つける

アドレサブルな広告在庫の減少は、ブランドにとって今後ますます大きな課題となるだろう。APAC(アジア太平洋地域)のデジタル広告の約30%は、すでにアイデンティティマーカーが存在しない環境で配信されており、この数字は2024年後半には、最大75%に上昇すると予測されている。つまり、毎日何十億ものインプレッションがブラインドで配信されているのだ。ターゲティングの低下は広告の効果を低下させ、消費者にもブランドにも不利益となる。この問題は、現在進行中の広範なシフト、つまりCookieだけでなくデジタルIDも廃止されることでさらに悪化するだろう。APACのうち、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなどの市場では、すでに相当数のユーザーがアドレスブルではない環境下にある。個人情報保護法の改正等により課題がより深刻化し、さらに多くのサプライが非アドレサブルになる。

次世代のIDソリューションは、サードパーティCookieの段階的な廃止を待つことはなく、それに左右されることもない。問題はその先にあるからだ。非アドレサブルへの対応は、ウェブだけに限った課題ではない。広告主やパブリッシャーは、IDに依存しないオムニチャネルソリューションや、登録ユーザーのみを対象としたソリューションを模索しながら、消費者が自ら設定したプライバシーの範囲内で、自らに合わせてカスタマイズされた広告体験を享受できるような方法を構築することが必要になる。2023年は、IDが飛躍的に進歩する年になるだろうが、もはや画一的なソリューションではない。ファーストパーティデータは、マーケターと消費者の直接の接点であり、IDソリューションにとって、消費者を理解する上でもとても重要だ。しかし、APACで実施された2022年の調査によると、消費者の83%が、企業はファーストパーティデータのみを使用すべきと考えている一方で、企業の78%は依然としてサードパーティデータに依存している。

ブランドが早期に優位性を確立するためには、高度なコンテクスチュアルターゲティングソリューションを探求することも必要だろう。このソリューションは、非アドレサブルの環境でも、リアルタイムのデータシグナルに基づき、機械学習によって顧客を見つけることができる。非アドレサブルな在庫は、アドレサブルな在庫より安価なため、現在の経済環境の下では、広告主のコスト効率の改善につながるという点でもメリットがある。

Web3:消費者とマーケター双方に恩恵

2023年には、交錯するトレンドがイノベーションの驚くべき可能性を広げるだろう。APACで5Gの導入が進むにつれ、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を用いた没入型の体験は、より高速で遅延のないネットワークによって一層加速される。Web3技術によって強化されたメタバースは、体験を完全に別次元に引き上げるだろう。Web3は、中央集権型の構造を脱した次世代のインターネット環境だ。ユーザーフレンドリーかつ分散型であり、ブロックチェーン技術などで実現されるデータのセキュリティやプライバシー保護など、消費者が求めるすべてのものを備えている。こうした点はマーケターにとっても同様であり、プライバシー基準に準拠した適切な顧客データなど、パーソナライズされたインタラクティブ体験を生み出すために不可欠なものを手に入れることができる。メタバースは、ウェブ、ゲーム、エクステンデッドリアリティ(XR)、eコマース、ブロックチェーンなどとの融合により、有機的な経済圏になることが期待されている。

これまでにない多感覚的体験から、クリエイターコミュニティーの促進、NFT(非代替性トークン)を用いたコレクターズアイテム、ゲーム、仮想世界のマネタイズまで、このフロンティアには無限の可能性がある。デジタルとフィジカルの境界が曖昧な世界を想像してみてほしい。ユーザーとそのデバイスの位置を特定し、マルチプレイヤーで常時接続する「ポケモンGO」のようなARコンテンツを、ユーザーが立っているその場所で表示できるとしたらどうだろう?これをオムニチャネル戦略に統合することで、その娯楽性とエンゲージメントは一層インパクトが高まるだろう。APACではこうした変化への機運が高まっている。調査によると、APACでは若いデジタルネイティブの人口が多く、インタラクティブで没入感を伴うものを広く好むことから、Web3の開発が他の地域よりも急速に進むと予測されている。

断片化の修復:オーディエンスがどこにいてもつながる

APACはデジタルネイティブで溢れ、デジタルファーストの消費者は、スマートフォン、ノートPC、タブレット、コネクテッドTVを日常的に使い分けている。また、OOH(屋外広告)やテレビといった従来のメディアチャネルのデジタル化に伴い、オンラインメディア消費はさらに細分化されている。マーケターは2023年、これらすべてのタッチポイントでユーザーの点と点を効率的に結びつけ、インパクトとエンゲージメントを向上させるため、メディアプランを最新化する方法を再考する必要に迫られるだろう。

幸いなことにアドテクも進化しており、断片化されたサプライソースをプログラマティックに統合し、チャネルをサイロ化させることなく全体的なマーケティングキャンペーンを実施し、最もパフォーマンスの高いメディアに迅速に予算を移すといったことが可能になっている。測定は広告費をより効果的に使うためのパズルの主要なピースのひとつだ。キャンペーンの複合的な効果を追跡するために、異なるチャネルを統合し一貫性を持って測定する方法が、刷新され確立してきたことは朗報だ。

例えば、OOHの効果を測定することは従来とても困難だった。だが、プログラマティックによる合理的なレポートと測定によって、デジタルOOH(DOOH)は結果を明示できるようになってきている。米ヤフーの調査によると、広告主の91%は、DOOHはファネルの上部と下部の両方で効果指標を示せる、と考えているという。オムニチャネルメディア戦略の一環として、DOOHは他のチャネルの効果を増幅させる利点もある。広告スクリーン上にQRコードやソーシャルハッシュタグを表示し、その反応からスマートフォンのユーザーをリターゲットしたり、エンゲージメントを促進したりすることが可能だ。また、DOOHであれば、広告スクリーンへの表示が来店に与える影響も測定できるので、ブランドは外出中のオーディエンスの行動も把握できる。

マーケターは、自社の戦略を将来性のあるものにする方法について検討している。優位に立つためのイノベーションは、広告購入の効率性や柔軟性、またパフォーマンスを測定して追跡するためのインサイトなどをサポートしている必要がある。これらすべてが、2023年に遭遇するだろう変化を乗り越え、成功するためには不可欠だと言えるだろう。


ポール・シガロフ氏は、米ヤフーのバイスプレジデント兼APAC責任者。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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