Brandon Doerrer
2022年12月16日

メタバースのエキスパートは必要か?

メタバースやWeb3が進化を続けるなか、この分野のエキスパートは、自らの戦略立案能力や、新しい技術に対する理解力、顧客への説明能力によって、その立場を維持できると考えているようだ。

メタバースのエキスパートは必要か?

ブランドやエージェンシーはメタバースに本腰を入れている。仮想世界に関する調査研究や戦略立案を専門とする「最高メタバース責任者」という役職を設けていることが、その何よりの証拠だ。

ディズニー、P&G、LVMH、クリエイティブ・アーティスツ・エージェンシーの4社は、いずれも最高メタバース責任者を任命している。コンサルタント企業のジャーニーでは、創設者のキャシー・ハックル氏自らがこの役職に就任した。ピュブリシスでは、「レオン・アバター」と名付けた仮想のライオンにこの役職を与え、レオンのリンクトインページとメールアドレスも作成し、仮想世界関連の問い合わせに対応できるようにしている。

その他のエージェンシー各社も、メタバースに関わる役職を設けている。ピュブリシスメディアは先ごろ、同グループのコンテンツやイノベーションを手がけるフューチャースペース担当マネージングディレクターとしてケイティ・ハドソン氏を採用し、Web3とメタバース技術を専門とする1000人ほどのチームの責任者に据えた。また、メタビジョンのように、事業のすべてを仮想世界に振り向けているエージェンシーもある。

だが、エージェンシーがメタバースの専門家を採用し、メタバースに特化した事業に乗り出す一方で、メタバースとは一体何なのか、人々が有意義な時間を過ごしているのはどこなのか、メタバースは将来どのように進化していくのかといった疑問に、多くのエージェンシーは今も明確な答えを見いだせないでいる。

2021年に社名をフェイスブックから変更し、メタバースにすべてを賭けているメタでさえ、メタバースの将来性や自社がその開発を担う必然性に疑問を感じているようだ。メタが実施した1万1000人規模のレイオフに関する匿名のアンケート調査では、「メタバースは我々を少しずつ死に追いやるだろう」や、「マーク・ザッカーバーグは、メタバースで自ら会社を滅ぼすことになる」といったコメントが社員たちから寄せられていた。

「メタバース」と「Web3」という言葉は区別なく使われることが多いが、両者には微妙な違いがある。「メタバース」は、ユーザーが互いにやり取りできる仮想世界やそのプラットフォームを指す言葉だ。これに対し、「Web3」は、ブロックチェーンなどの技術で構築された分散型インターネットという、より幅広い概念を示している。

専門家は、この分野が発展するにつれて、人々は徐々にメタバースという言葉を口にしなくなり、Web3という言葉の方が優勢になるだろうと考えている。

このようにメタバースの先行きが不透明なことが、新たに登場した専門家たちを悩ましい立場に追いやっている。一時的な流行に終わるかもしれない役職に、いつまで自分のキャリアを捧げるべきかわからないからだ(「最高モバイル責任者」が存在した時代を覚えているだろうか)。

だが、エージェンシーの幹部は、仮想世界がどのように進化したとしても、戦略的な見方ができるこれらの人材を活かせる場所はあると考えている。

たとえば、メタバースに精通している人は、次の新しいテクノロジーを使いこなす能力にも長けていると、バイトデプトで技術ディレクターを務めるイザベル・ペリー氏は言う。

同氏は、「クライアントの課題解決にどう役立つのかという観点で技術仕様を説明できる人材は欠かせない」として、「新しい技術で実現できることをすべてリストアップするのは、その技術で解決できる課題自体を説明するよりも簡単だ。価値のある目的を達成するには、さまざまなスキルを組み合わせる必要がある」と説明した。

ペリー氏の場合は、自動化によってどれほど安価で効率的に価値を生み出せるかをクライアントに説明してきた経験を通じて、技術を説明するスキルを磨いてきた。現在メタバースに取り組んでいる同氏は、研究開発予算を組んだり、プロジェクト完了までに必要な現実的なスケジュールを計算したり、技術を購入する場合と構築する場合のメリットとデメリットを比較したりすることを得意としている。

また、ブランドが継続的な取り組みとして仮想世界への参入を目指すなかで、メタバース戦略の専門家は、技術的な専門用語をわかりやすいビジネスプランに落とし込むスキルも持ち合わせていると、ピュブリシスメディアでプレジデント兼最高コンテンツ責任者を務めるエリック・レビン氏は言う。その上で、メタバース事業に取り組んでいる人は、その手法を実世界のキャンペーンにも応用できると付け加えた。

メディアモンクスでリアルタイムおよび仮想世界担当SVPを務めるティム・ディロン氏によれば、クライアントに未知のプラットフォームの利用を促すには戦略的な思考が不可欠だが、これは従来のエージェンシーのさまざまな仕事にも欠かせないスキルだという。また、メタバース上のプレイヤーたちを観察することで、他のエージェンシー業務に応用できる顧客体験の知見も得ることができる。

メディアモンクスは4月、ロジテック・フォー・クリエイターズのキャンペーンを手がけた際、モーションキャプチャーで撮影した歌手のリゾを、ロブロックスのプラットフォームで開催された音楽コンテスト「ロジテック・ソング・ブレイカー・アワード」に出演させた。ディロン氏は、メタバースの取り組みがより多角的になり、メタバース専門家がメタバース以外のスキルも身につけた例としてこのキャンペーンを挙げた。

このアワードにはまず「従来型の戦略とクリエイティブワーク」が必要だったと述べ、「仮想化」は、それらの作業が一段落した後に着手したのだと、ディロン氏は付け加えた。

メタバースの専門家がエージェンシーのさまざまな職種に通用する戦略スキルを備えているとしても、これら専門家の多くは、この職種特有の問題から完全には逃れられないだろう。

メタバースの専門知識の中には、他の分野にほとんど転用できない独特な知識もある。たとえば、ロブロックスでゲームを作るには、「ルア」と呼ばれる難解なプログラミング言語を学ぶ必要があるが、この言語は他の分野ではほとんど使われていないと、バイトデプトのペリー氏は指摘する。

また、この分野の専門用語の多くは極めて曖昧なため、メタバースに特化した職種以外では通用しないと、ピュブリシスメディアのレビン氏は言う。

いずれWeb3という言葉が支配的になれば、「メタバース」という単語を冠した職種は時代遅れと思われるようになるかもしれない。

「元最高メタバース責任者という肩書きで応募してくる人の採用を、真剣に考えるのは難しくなるだろう。そのこと(そのような肩書きを名乗ること)が、Web3の持つより大きな可能性を理解していない証拠とも考えられるからだ」と、レビン氏は述べた。

 

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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