Ryoko Tasaki
2024年10月11日

世界マーケティング短信:アセンシャルがエフィーを買収する理由

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

アセンシャルCEOのフィリップ・トーマス氏(左上)と、エフィーCEOのトレイシー・アルフォード氏
アセンシャルCEOのフィリップ・トーマス氏(左上)と、エフィーCEOのトレイシー・アルフォード氏

※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。 
 

「マーケティングの力の証明に役立ちたい」 アセンシャルCEO

カンヌライオンズを運営するアセンシャル(Ascential)によるエフィー(Effie)買収は、双方が持つ数十万件ものアーカイブを統合し、データを有効活用するためだという。アセンシャルCEOのフィリップ・トーマス氏と、エフィーCEOのトレイシー・アルフォード氏がCampaignに語った。 

1954年に設立されたカンヌライオンズと、1968年に設立されたエフィーは広告界における重要な賞だ。今回の買収によって「クリエイティブやマーケティングへの投資の必要性を主張するマーケターに役立つでしょう」とトーマス氏は言う。「マーケティングへの資本配分を増やそうとマーケターは戦っており、私たちはこの問題を解決しようとしています。懐疑的なCFOやCEOに対し、マーケティングの力を主張するのはとても難しいのです。」 

また「マーケターは必ずしもクリエイティビティーそのものに関心を持っているわけではありません」とも。「彼らはクリエイティビティーが組織を前進させる原動力であることを理解していますが、それを証明できなくてはならないのです」。そのために必要なのはデータとエビデンスであり、アセンシャルとエフィーのデータが統合して「クリエイティビティーと効果を結び付けられるようになる」ことこそが買収の核心だという。 

また、エフィーがアセンシャルに加わることで規模が拡大し、エフィー・ライオンズ財団など非営利の活動にも「多くの機会がもたらされるでしょう」とアルフォード氏。マーケティングを学ぶ学生や、特に過小評価されているグループに教育と支援を提供する活動を継続していくと述べた。 

なお、アセンシャルは英インフォーマ(Informa)による買収が完了し、ロンドン証券取引所から今月9日に上場廃止になっている。 
 

オープンAI、シンガポールにオフィス開設へ

生成AI「ChatGPT」を手掛けるオープンAI(OpenAI)が、シンガポールにオフィスを開設する予定だ。同社は4月にアジア初の拠点を都内に立ち上げており、シンガポールオフィスはアジアで2番目、海外オフィスとしては4番目になる。 

同社CEOのサム・アルトマン氏は声明で「技術面でリーダーシップを発揮してきたシンガポールは、AIのリーダーとして頭角を現しています」とコメント。「アジア太平洋への進出にあたり、シンガポール政府や同国の活気あるAIのエコシステムと提携できることを嬉しく思います」。 
 

認知症患者の記憶からAIが画像を生成

FCB傘下のベルギーのエージェンシー「ハピネス(Happiness)」がコダック(Kodak)と共に、認知症患者の昔の記憶からAIで画像を生成する「メモリーショット(Memory Shots)」を公開している。 

これは認知症の療法の一つ「回想法」を取り入れたもので、患者と会話しながら思い出の内容や時期を入力すると、その年のコダック製カメラのスタイルでAIが画像を生成する。そしてプロンプトを追加しながら、画像を記憶に近付けることができる。 

認知症の特徴といえば記憶障害だが「コミュニケーションの問題でもあると気付きました。ある時点でコミュニケーションが途絶えてしまうからです」とハピネスの最高クリエイティブ責任者、ジェフリー・ハントソン氏は語る。同氏にもチームメンバーにも認知症の親がいることが、プロジェクトを立ち上げた動機となった。「そして、認知症の人には大切な素晴らしい記憶があるのに、その記憶の写真が無いことがあると気付きました」。そこで記憶から画像を作ることを考えたという。 

回想法は音楽や絵、物語などがトリガーとなって記憶を呼び起こし、不安やストレスを軽減したり、認知症の進行を遅らせるといった効果が期待される。メモリーショットは一般公開されており、無料で使うことができるが、既にベルギーでは認知症の疾患医療センターの7割で採用されているという。 

(画像提供:コダック)


生成AIに高い倫理性を ブランドテック・グループ

ブランドテック・グループ(Brandtech Group)が、エシカル(倫理性の高い)生成AIのパッケージの提供を開始する。このパッケージには、バイアス(偏向)を除去する独自開発の基盤モデル「バイアス・ブレイカー(Bias Breaker)」や、エシカル生成AIの指針を示すブループリントなどが含まれる。 

同社の調査によると、いくつかの主要な基盤モデルにCEOの画像を生成するよう指示したところ、98~100%が男性(あるいは男性に見える人)という結果に。だが昨年の企業の経営幹部の28%は女性(マッキンゼー調べ)、フォーチュン500企業に占める女性CEOの割合は10.4%だった。バイアス・ブレイカーは、年齢や人種、障害、性自認、宗教などダイバーシティー(多様性)の一般的な要素を設定。ユーザーの指示に対し、インクルーシビティー(包摂性)を考慮したイメージを生成する。 

「生成AIを早い段階から導入した企業として、業界を牽引していく責任があります」と語るのは、同社のパートナーで新興テクノロジー部門の責任者を務めるレベッカ・サイクス氏。「生成AIを導入する全ての企業は、AIの利用目的を明確にし、悪用しないことを明言しなければなりません。そして透明性も高めなくてはならない。マーケティング・広告業界におけるAIの未来を、より責任ある倫理性の高いものにするため、積極的に関与していきます」。 
 

見過ごされがちなDVの兆候を明らかに 

レストランで食事をとろうとするパートナーに「これがいいよ」と別の皿を押し付ける。スマートフォンを監視する。パートナーが他の男性を見ただけで、激しく嫉妬する――。動画の中に登場するカップルは、身体的な暴力を振るってはいない。だがドメスティック・バイオレンス(DV)にはさまざまな形があり、支配や孤立化など「強圧的なコントロール(coercive control)」もDVとなり得ると、西オーストラリア州政府の公共広告は示す。企画・制作は303マレンロウ・パース(303 MullenLowe Perth)、カラWA(Carat WA)、メディアハブ(Mediahub)。 

303マレンロウ・パースの最高戦略責任者であるマット・オークリー氏は、このように語る。「これまで支配的な行動を否定してきた男性であれ、家庭内暴力を経験した当時は何が起きているのか分からなかったという人であれ、強圧的なコントロールを認識するのは非常に難しいことです」。 

(文:田崎亮子) 

提供:
Campaign Japan

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