2023年、業界トレンドを読む
年末から年始にかけては、多くのエージェンシーや調査会社が新たな年のトレンドを予測する。これまでに発表された、注目すべきものをいくつかご紹介しよう。
まずアクセンチュアソングが挙げるのは、クリエイティブ界におけるAIの役割の増大。コロナ禍から「ウィズコロナ」へと時代が変遷する中、アジア太平洋地域(APAC)でもテクノロジーへの比重がますます高まっていることは言うまでもない。それはクリエイティブプロセスにおいても然り。AI(人工知能)の進化のスピードは凄まじく、今やスキルや知識がほとんどなくても、AIで動画や音楽の作成が可能だ。
「破壊的イノベーションで、人間は自分たちがコントロールしてきた領域に疑問を持つようになった。イノベーションの進化は止まりません。AIはより重要な局面で活用され、ブランドや企業により大きな影響を及ぼすようになるでしょう」(同社ソートリーダーシップ、メタバース及びサステナビリティ部門責任者マーク・カーティス氏)
クリエイティブエージェンシー「160over90」が着目するのは「ジェニュインフルエンサー(genuinfluencer=本物のインフルエンサー)」だ。ジュニインフルエンサーとは、これまでのように商品やサービスを紹介して購買を煽るのではなく、メンタルヘルスや人種差別といった社会問題をテーマにオーディエンスを啓蒙するインフルエンサーを指す。
彼らが特に有効だと考えられるのは、Z世代へのアプローチ。Z世代はブランドに対して信頼性や透明性を求め、高度な情報にも通じる。彼らを惹きつける手段として、ジェニュインフルエンサーへの依存度が増すと予測する。
人材サービス会社「シエロ」とソーシャルメディア管理プラットフォーム「スプラウト・ソーシャル」の共同報告書では、イーロン・マスク氏の買収以降、話題が絶えないツイッターについて言及。昨年末、「来年は1日のユーザー数を1億人増やす」と発表した同社。そのためには現在の成長率の50%増が求められるが、「契約者数を増やすことに何ら障害はない。過去数年における弊社の急速な成長は、有料ユーザーにとって大きな魅力」(同社サイトより)と強気の姿勢だ。
大手広告主の撤退や企業価値の低下といった逆風が吹いても、テキストでリアルタイムにメッセージをやり取り出来るプラットフォームはツイッターの独壇場。他のソーシャルメディアが動画などのビジュアル性に注力する中、そのポジショニングは揺るがないという見立てだ。
日本発、貝から生まれた「“シェル”メット」
ホタテの産地として知られる北海道・猿払村では、年間4万トンの貝殻が廃棄される。放置しておけば土壌汚染の要因ともなる廃棄貝殻のリサイクルに目を付けたのが、TBWA Hakuhodoだ。
同社が甲子化学工業(大阪)、大阪大学と共同開発したのが貝殻を活用したヘルメット、名付けて「シェル(shell)メット」。貝殻を殺菌・煮沸し、ペレットにしてリサイクルプラスティックと混ぜ合わせ、ヘルメットに仕立てる画期的な取り組みだ。
貝殻の形状を模したこのヘルメットは造形的に美しいだけでなく、通常のデザインよりも強度が33%アップ、耐久性は30%高いという。さらに製造のプロセスではCO2排出量をプラスチック製ヘルメットより36%、エコプラスティック(生分解性プラスチックなど)
製より20%抑えられるとも。
TBWAでは今春からシェルメットのプロモーションを開始。猿払村の漁師が試着し、自治体の防災プログラムにも役立ててもらう予定だ。価格も1個4800円と手頃。廃棄物を使い、人間の安全を守る −− 漁業に限らず、様々な産業がこうした知恵を絞ることを期待したい。
EU、メタに550億円の制裁金
アイルランドのデータ保護委員会(DPC)は、メタが欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)に違反しているとして、3億9000万ユーロ(約550億円)の制裁金を科すと発表した。同社の行動ターゲティング広告に関し、ユーザーに十分な説明がなされておらず、不正に個人情報データを取得していたという。
2016年にEUでGDPRが施行された後、メタはフェイスブックとインスタグラムの規約を改定。個人情報の取得に関して「ユーザーと契約上の同意が必要」としていた。
DPCは4年をかけてメタの動向を捜査。制裁金の支払いとともに、今後3カ月以内にユーザーのデータを利用しないアプリケーションの作成を求めた。ただし、広告主である企業に対してメタのプラットフォーム使用禁止は求めていない。
アドテク企業「クリアコード」のマーケティング責任者を務めるマイケル・スウィーニー氏は、「メタの欧州における広告収入は過去4年間で800億ドル(約11兆円)。それに比べれば、制裁金は大海の一滴です」と話す。「それでも、今回の措置はメタにとって打撃となる。欧州での広告収入に間違いなく悪影響を及ぼすでしょう」
メタは今回の決定に「全く同意できない」とし、不服を申し立てる考えを示している。
皆様、明けましておめでとうございます。本年も、Campaign Japanを宜しくお願い申し上げます。
(文:水野龍哉)