全米広告主協会(ANA)の2022年の調査によれば、消費者は1日に84分間も広告に接しているが、それらの広告に注目している時間はわずか9分だという。
アテンション(広告注目度)は、費用対効果(ROAS)やインプレッションといった従来の評価指標より有効なインサイトが得られるマーケティング指標として、話題に取り上げられることが増えており、ANAの報告書もその一つと言えるだろう。
だが、消費者の注目度を測定するというコンセプトは新しいものではなく、アテンションが本当にゲームチェンジャーとなるのか、それとも一時的なブームに終わるのかは定かではない。
アテンションの定義
アテンションは、露出度(ビューアビリティ、広告視聴時間、音声の有無など)と、エンゲージメント指標(クリック数、スクロール速度、動画の視聴完了率など)を含む、複数の指標で測定される。
「アテンションはこの2つを組み合わせているため、(中略)どの広告が消費者に刺さっているのかを、(中略)定量的な観点から、正しく理解するための優れた手段となりえる」と、パフォーマンスマーケティングネットワーク、リプライズ・デジタルでeコマース担当バイスプレジデントを務めるザック・ワインバーグ氏は言う。
アテンション指標に注目が集まり始めたのは最近のことだが、コンセプト自体は以前から存在する。
調査会社のガートナーでシニアディレクター兼アナリストを務めるマイク・フロガット氏によれば、ウェブページ上のカーソルの動きや広告の上にカーソルが置かれたかどうかを追跡する滞留時間(ドウェルタイム)も、長く用いられている同主旨の指標だという。
「以前との違いは、視聴者のアテンションが推測できるような指標やデータポイントが揃ってきていることだ」と、同氏は語る。
アテンションとビューアビリティの違い
アテンションには、標準的な定義はない。ビューアビリティの場合、監査機関のMRC(Media Ratings Council)によって、「広告が50%以上画面に表示されている状態が1秒以上続くこと(動画広告の場合は、50%以上表示されている状態が2秒以上)」といった明確な定義が定められている。
そのため、アテンションの場合は、プラットフォームや測定方法によって結果が変わることがある。
デジタルマーケティングプラットフォームのアカディアでリテールマーケットプレイス戦略責任者を務めるキリ・マスターズ氏によると、アマゾンはビューアビリティの定義が他のプラットフォームとやや異なるため、ビューアビリティ(ひいてはアテンション)を、リテールメディア間で公平に測定することが難しく、「今も未開拓な状態」なのだという。
「リテールメディア間に、統一された、一貫性のあるビューアビリティの定義は存在していない」と、同氏は語る。
その結果、アテンションの構成要素であるビューアビリティでさえ恣意的になる可能性があり、そのことがアテンションの測定をよりいっそう困難にしている。
「Forbes.comなどにアクセスしている人がディスプレイ広告の49%を目にしたときに、その人の脳内で無意識に起こっていることを測定するのはまず不可能だ」と、マスターズ氏は言う。「51%ではなく49%だったとしても、その人の脳内にその広告が留まっている可能性はある。つまり、ビューアブルかどうかの判断はかなり恣意的なものなのだ」
実際には、ノンビューアブルと判断されたインプレッションの中にも、視聴者の心を動かしたものはあるだろうし、ビューアブルとみなされたインプレッションでも、まったく印象に残っていないものもあるだろうと、マスターズ氏は考えている。
「高速道路に屋外広告を設置して(中略)その前を通過した人の数を測定しているようなものであって、実際に広告を見た人の数を測定しているのではない。広告を見た人の数を知ることは事実上不可能なのだ」と、同氏は付け加えた。
KPIとしてのアテンション
フロガット氏が、ブランド認知や商品検討を目的としたあらゆる広告で、アテンションをKPI(重要業績評価指標)として活用すべきだと考えているのも、ビューアビリティの限界が理由だろう。
「アテンションは、ブランドがファネルのどこに重点を置くかに応じて利用できる、いわばノーススターメトリック(ビジネスをより確実に成長させるために設定される指標)のような存在になっている」とフロガット氏は述べ、「アテンションはファネルの最上部に適している」と話す。
また、インプレッション数などの一般的なKPIではなく、アテンションに向けてキャンペーンを最適化すれば、大規模なマルチチャネルキャンペーンや複数のクリエイティブを使用したキャンペーンで特に効果を発揮すると、同氏は付け加えた。
「例えば、オープンウェブのリアルタイム入札を利用していると、自社のキャンペーンに普段はあまり目にしないようニッチなサイトが登場してくることがある」と、フロガット氏は言う。「それは、そのキャンペーンが、リーチやクリック数だけでなく、より多くのデータポイントを処理するアテンション指標に向けて最適化されているためだ」
アテンションへの注目
しかし、クライアントがより深い分析を求めてきた際、「利用できそうな指標について議論を始めるきっかけ」となったのは、まさにビューアビリティだったとフロガット氏は述べている。
「私の考えでは、こうした要求は広告をもう少し定性的な観点から定量的に評価したいという思いから来ている。(中略)そのため、私たちは集計された総数だけに目を向けるのではなく、実際に閲覧された数に加えて、人々が広告とどう関わっているのかを分析する方法を模索しているところだ」と、フロガット氏は付け加えた。
こうした変化が起きているのは、データ共有が制限された「ブラックボックス環境」のウォールドガーデンによって、得られるデータがごく限られてしまったことが一因だと、フロガット氏は言う。
「(グーグル広告の目標ベースのキャンペーンタイプである)P-MAXは、比較的多くの包括的なデータが得られる場所の一つではあるが、決定論的な1対1のデータが得られるわけではない」と、フロガット氏は付け加えた。
リプライズのワインバーグ氏によると、アテンションへの関心が高まっている背景には、YouTube、インスタグラム、TikTokといったプラットフォームのショートフォーム動画の存在もあるという。これらの動画広告の尺は6秒しかないため、ブランドやエージェンシーは、パフォーマンスの成否を正しく判断するために、複数の指標を組み合わせたKPIに注目するようになったのだ。
「そのため、これらのキャンペーンではアテンションを向上させることが重要になる。そして、アテンションを向上させると、商品検討やブランド親和性が高まることは証明済みだ」と、ワインバーグ氏は説明した。
アテンション人気の持続性
ワインバーグ氏は、アテンションのような指標は以前から存在しており、今後も存在し続けると考えている。消費者が広告に注目したかどうかを把握するというコンセプトは、決して新しいものではないからだ。
「米国のマーケターは、いつも同じものに新しい名前を付けたがる。アテンションは以前から存在していたが、アテンションという名前では呼ばれていなかっただけだろう」と、同氏は語った。
マスターズ氏は、アテンションが、業界が必要としている魔法の解決策だとする考え方には否定的だ。
「これはあらゆる人に役立つ新たな指標だ、と言うと、クリックベイト(釣りタイトル)のように聞こえるだろう」と述べた上で、「私たちの調査によれば、ブランドの半数は成長を目標としているが、残りの半数は収益性を目標にしている。したがって、あらゆる人に適した魔法のような解決策になるとは思えない」と語った。
一方、フロガット氏はもう少し肯定的な評価をしている。
「より優れた指標、より優れたレポート、より正確なパフォーマンス評価を求めるニーズは常にあると思う」とフロガット氏は言う。「したがって、アテンションも長く人気が続く可能性がある」
フロガット氏は、「テクノロジーの成熟度と採用率」をグラフ化したガートナーのハイプサイクルを示して、アテンションは、イノベーションのトリガーとなる黎明期の終盤、つまり「期待のピークとなる流行期」に近い時期にある、と語る。実際、マーケターはこの指標がキャンペーンの測定を向上させるのに役立つかどうか、今もテストを重ねている。
「とはいえ、マーケターは、今ある指標に対処するだけでも精一杯だろう」と、フロガット氏は言う。「今のところ、(アテンションは)必須ではなく、あれば助かるという程度のものだと思う」