エージェンシーやアドテクベンダーが効果を証明するツールやインサイトを構築するにつれ、アテンション指標は、その洗練度を増しつつあるが、コストや相互運用性などが障壁となり、広告主が共通通貨としてこれを採用することを阻んでいる。
広告業界の測定システムは現在、消費者の生活習慣の変化に合わせて激変しつつある。消費者がオンライン環境とリニア環境を行き来し、常に何かに気を取られていることを考慮しなければならないからだ。
広告が表示されていても、ちょうど部屋を出ていたり、友人と話をしていたり、別の画面を使っていたりしていて、その広告を誰も見ていないとしたら、広告主はその事実を知りたいだろう。しかし、それらを明らかにするのは容易なことではない。
数年前に広く支持された、ビューアビリティという指標がある。ユーザーの画面に表示された広告の最小ピクセル数に基づいて、インプレッションを測定するというものだ。しかし、アテンション測定企業アンプリファイド・インテリジェンスの創業者、カレン・ネルソンフィールド氏によれば、ビューアビリティは、「複雑な行動の測定に対し、あまりにも単純なアプローチ」だという批判があるという。
ネルソンフィールド氏はCampaign USの取材に対し、「測定方法の変更は指標争奪戦の様相を呈している。悪い指標は、混乱を招き、変化を躊躇させる」と述べている。
ネルソンフィールド氏は、良い通貨の核心は良いデータにあると信じ、メディアエージェンシーのOMDやさまざまな技術プラットフォームと連携してきた。何がアテンションを高めるのか、プラットフォーム、年齢層、広告フォーマット、広告の長さ、クリエイティブ等によってどう変化するのか理解するため、1年にわたってテストを行ってきた。
その目的は、効果のニュアンスをより深く示すことができ、機能的で持続性の高い指標(通貨)に投資することの重要性を、広告主に知ってもらうことだ。
OMD米国法人のCEO、クリシー・ハンソン氏は、「アテンションは、測定技術に、改めて厳密さを要求する素晴らしい指標だ」と話す。
時間の長さ ≠ アテンションの大きさ
マーケターは消費者の注目をできるだけ多く集めたいと思うかもしれないが、アンプリファイド・インテリジェンスとOMDが実施した調査によれば、わずかな注目が大きな成果につながることも珍しくないという。
例えば、ソーシャルメディアのフィードに合わせた短尺の広告は、長尺の広告ユニットより効果的かつ効率的だ。今回の調査では、ツイッター、TikTok、フェイスブック、インスタグラムで、能動的アテンションと受動的アテンションを測定している。
「オンラインサイトに長い尺の広告を表示しても、アテンションがそれ以上に高まることはない。つまり、無駄だ」とネルソンフィールド氏は話す。「一方、テレビは長尺の広告に適したスペースであり、尺が長いほど、より多くのアテンションを獲得できる」
この調査結果は、Yahooの7つのドメインを使った、もうひとつの調査によっても裏付けられた。15秒動画に注目した時間(3.3秒)の方が、30秒動画の注目時間(1.2秒)より、3倍近く長いという結果が出たのだ。
これらの調査では、アンプリファイド・インテリジェンスの技術が用いられた。広告を見るユーザーの顔を記録し、能動的なアテンション(広告に目を向ける)と受動的なアテンション(画面に目を向ける)のレベルの違いも判別している。
広告主は、どれくらいのアテンションが必要かについて「もっと公正かつ抑制的」であるべきだとハンソン氏は述べている。
「私たちの仕事は注目を集めることではない。望ましい結果に導くために顧客にエクスペリエンスを提供することだ」とハンソン氏は話す。「顧客の認識を変えるのに必要な時間を得られれば良い。ただそれだけのことだ」
例えば清涼飲料水の広告であれば、2秒のアテンションで十分かもしれないし、新しいサービスや不動産の広告であれば、もう少し長い時間が必要かもしれない。
「これでようやく、アテンションは3~4秒でも十分だという助言ができるようになった。絶えず人々の注目を集める必要はなくなり、人々に時間を返すことができるようになる」とネルソンフィールド氏は補足する。
アテンションのレベルは、プラットフォームによって異なる。ある調査によれば、受動と能動を合わせた総合的なアテンションはツイッターが最も高く、能動的なアテンションはTikTokが最も高かった。フェイスブック広告のアテンションは、音声があると飛躍的に高まった。
年齢が高いほどアテンションも高い
アテンションのレベルは、年齢とともに大きく上昇する。Yahooを使った調査では、55歳以上の人の能動的・受動的アテンションのレベルは、18~24歳に比べて1.5倍高いという結果が出た。今の若者たちが、短い動画と素早いスクロールを駆使するソーシャルメディアの環境で育ったことを考えれば、これは決して意外な結果ではないだろう。
一方、スクロールが遅く、没入感のある環境で、ユーザーが最も強く反応するのは、スクロールで通過するとフルスクリーン広告になる「インタースクローラー」広告フォーマットだ。バナー広告より高いパフォーマンスが期待できる。
第3の指標から主要指標へ
年齢や広告の尺といった要素がアテンションに与える影響への理解が深まり、アンプリファイド・インテリジェンスとOMDは現在、アテンション指標を活用できる広告製品の拡充に注力している。
「次の段階では、ブランドの規模に応じたキャンペーン目標を設定し、これまでに学んだことを生かしてプランニングやバイイングを実行していく。安定的に運用できるようになれば、アテンションが主要指標になっていくと思う」とネルソンフィールド氏は述べている。
OMDには、アテンション指標を活用するクライアントが7つの市場に25社あるが、ほとんどが、第2、第3のKPIとしての採用だ。
メディアバイイングチームを説得し、新しい指標により多くの資金を投じる意義を理解してもらうのは容易ではない。
「バイイングチームのブリーフは、CPMを可能な限り下げることに終始しているが、それでは品質が向上しない。品質に投資することの価値を、まずバイイング関係者に理解してもらう必要がある」とネルソンフィールド氏は話す。
ハンソン氏は、それゆえアテンションが主要指標として広く採用されるまでにはしばらく時間がかかるだろうと予想している。
「さまざまな関係者に賛同してもらうことが、最も時間のかかるところだ。アテンションが十分に活用されるには、ブランドマネージャーレベルだけでは不十分だ。CMOがこれを使いこなし、成長の原動力にする方法を理解しなければならない。また当然、バイイングチームの賛同も必要になる」とハンソン氏は説明する。
アテンションが主要指標の仲間入りを果たすための「最大の課題」は、組織文化の変革だ、とハンソン氏は考えている。
プロハスカ・コンサルティングのCEO兼マーケティングコンサルティングプラクティス担当プリンシパル、マット・プロハスカ氏によれば、もう一つ障壁があり、それは相互運用性だという。
「アテンションへの関心は高まっているし、ユニークで実績のある測定手法を持つテックプロバイダーが複数社あるのも確かだ」とプロハスカ氏は述べる。「しかし、こうした特性の違うソリューションをサービスに適用した場合、その測定結果が、ブランドにとって実際どんな意味を持つのか理解することが、常に課題となっている」