Shawn Lim
2022年12月22日

アテンション指標の強みと弱み

マーケターがアテンション測定を試みるなら、求める価値と目的をきちんと理解すべきだ。なぜならアテンションは広告商品でも通貨でもなく、捉えにくいことで名高いものだからだ。

アテンション指標の強みと弱み

ここ数年、アテンションベースの広告ソリューションが次々と市場に投入されている。プランニングツールからキャンペーンをリアルタイムで最適化する製品まで、キャンペーンのさまざまな段階で広告主を支援するための幅広いソリューションが提供されている。

ダブルベリファイの「アテンションラボ」や、モバイル広告プラットフォーム、カーゴの「ベンティ」といった製品は、自社の戦略に合う媒体や方法でアテンション製品をテストしたいという広告主の需要に応えるものだ。

しかし、IABオーストラリアの「Ad Attention Measurement Landscape Report(広告アテンション測定の現状報告書)」によれば、広告業界はアテンション指標だけに注目が集まりすぎているという。

この報告書では、アテンション(広告注目度)の高さとビジネスの成果に相関関係があることを示す新たな証拠が明らかにされた。だが、広告のアテンション測定は特効薬ではなく、広告主が広告投資の全体的影響を理解するためには、さまざまな指標を用いる必要があると結論づけている。

では、広告主はアテンション指標にどうアプローチすべきなのだろうか?プレイグラウンドXYZ(PlaygroundXYZ)のアジア担当セールス責任者、ケビン・スミス氏は、新しい技術がすべてそうであるように、アテンションソリューションを試すための第一歩は、その仕組みと解決してくれる問題を理解することだと述べている。

スミス氏はCampaign Asia-Pacificの取材に対し、「粒度の細かいキャンペーン測定であれ、パフォーマンスの低い広告プレースメントの特定であれ、既存の課題と利用可能なソリューションを突き合わせることで、テスト実施に向けた理論を構築することができる」と説明する。

「次の一歩は、結果が出ると思われるツールを使ってテストキャンペーンを行ってみることだ。テストキャンペーンは、理論を立証または反証するためのもので、やがて有効な製品とそうでない製品が明らかになってくるはずだ」(スミス氏)

スミス氏は広告主に対し、あらゆるチャネルにアテンション測定を適用し、そこで得られたインサイトを、現在用いている指標と比較してみることを推奨している。

「ビューアビリティ(可視性)、クリック率(CTR)などの標準的な指標に比べて、アテンションシグナルは広告全体の効果を測定するうえで、はるかに有効であることがわかっている」とスミス氏は補足する。

カレン・ネルソン=フィールド氏(左上)、ケビン・スミス氏(右上)、ジョーダン・クー氏(左下)、ポール・シガロフ氏(右下)

アンプリファイド・インテリジェンスの創業者で、CEOを務めるカレン・ネルソン=フィールド教授は、アテンション指標のパートナーや手法を選択する際、アテンションを装った間違った指標を販売するベンダーがいて、それが市場に混乱と変化への躊躇をもたらしていると述べている。

ネルソン=フィールド氏は、業界は「これで十分」であることに甘んじてきたと指摘したうえで、アテンションベースのオーディエンス測定機能を構築する場合、アテンション測定製品のデータ品質のガイドラインに従うべきだと警鐘を鳴らす。データ品質の原則は、人のデータであること、プライバシー、安全、自然、正確、そして一貫性だ。

「今、市場には多くのベンダーが存在する。しかし、データ品質の違いを把握するための最も簡単な方法は、モデル化されたアテンションデータか、実際の人間によるアテンションデータかを判断することだ。言い換えれば、人と機械の違いは主に、モデルか、人間かの違いなのだ」と、ネルソン=フィールド氏はCampaign Asia-Pacificに語った。

例えば、広告サイズ、スクロール速度、閲覧時間などのメタデータを使用して、人が広告に注目しているかどうかを推定するベンダーもある。しかし、人間の行動は複雑で、少数の単純な因子だけで簡単に予測できるものではないため、この考え方では誤った結果を導く可能性がある。

モデル化されたアテンションだけを用いた製品では、人間の行動の現実をより正確に反映する必要性から、結果的には、精度やテスト全体を見たとき、一貫性に欠けるものになりがちだ。

「カメラ技術を使って本物の人間のアテンションデータを収集し、このデータをベースに、製品のモデルを訓練しているベンダーもある。これはメタデータモデルだけのものとは大きく異なる。実際の人間の行動に基づいて継続的に訓練することで、アテンションモデルの精度が高まり、テスト全体で一貫した結果を得られるようになる」とネルソン=フィールド氏は説明する。

ビジネス成果とクリエイティブに与える影響

アテンション指標は、濃密で高品質なデータによって広告がオーディエンスにどれくらい響いているかを広告主に示すためのものだ。広告主はアテンション指標を用いて、ブランドの成果、特に認知度と想起を測定し、最適化できる。

例えば、オレオ、キャドバリー・デイリー・ミルク、トブラローネなどのブランドを有するモンデリーズは、アテンション指標に投資した結果、目立つインプレッションの場合、ブランド好感度が9%、ブランド考慮率が8%上昇するという相関関係を確認している。

ヤフーのバイスプレジデントとしてAPAC地域を統括するポール・シガロフ氏は、広告は注目度が高いほどインパクトがあり、購入につながる可能性が向上すると説明する。たとえ広告主の目的が認知度向上であっても、エンゲージメントが高まれば、記憶の定着率も高まる。

ただし、注目度の高さは、それが重要な場合にのみ価値があり、ビジネス成果に影響を与えるとシガロフ氏は強調する。たとえ注目度が高くても、そこにブランドやメッセージが存在しなければ、せっかくの注目も無駄になる。広告主がいくら注目度を重視しても、その広告が競合相手のものと誤認されているなら、結果的には損失ともなりうる。

「アテンションをポジティブなビジネス成果につなげるには、オムニチャンネル、フルファネル戦略によって、カスタマージャーニー全体を理解する必要がある」とシガロフ氏はCampaign Asia-Pacificに語った。

「努力の結果、注目を手に入れたのであれば、その利益を享受し、前向きなビジネス成果につなげなければ意味がない。特に、ファネル上部、中間部のマーケティングでは、消費者をファネル下部へと導く戦略で、カスタマージャーニーを完結させなければならない」(シガロフ氏)

また、広告主はアテンション指標から得られたインサイトをクリエイティブの改善に使うこともできる。こうしたインサイトを活用することで、同業種の競合他社と比較してクリエイティブがどれだけ優れているかを理解し、ブランドの存在を人々にアピールする助けにもなる。

ネルソン=フィールド氏は、主観的創造性とはクリエイティブ自体の良さを理解することであり、多くの人が知っているテストだと説明する。このテストでは、クリエイティブの好感度や面白さが反映される。一方、客観的創造性は、人々がブランドと広告をどのくらい結び付けて見ているかの「程度」を測定するもので、ブランドの成長にとってはさらに重要だ。

「心に強く訴える良いクリエイティブであっても、ブランディングに失敗していて、販売には結びつかないことがよくある」とネルソン=フィールド氏は言う。

「マーケターは、メッセージ/ストーリーとブランド訴求の両方を調整するため、アテンションデータの活用を検討すべきだ」(ネルソン=フィールド氏)

従来の指標とプライバシー

アテンションはインプレッションごとの価値の違いを補正するのに不可欠な指標だが、リーチのように、それ自体がカレンシー(通貨)となるものではない。本物のアテンションは現実の人間を測定することでわかるものであり、データ収集にはカメラを使うため、プライバシー上の倫理的な課題がつきまとう。

そのため、人間のアテンションデータの収集が、プライバシー侵害の少ない従来のリーチ測定ほど普及することはないだろう。このように、アテンションはメディアエコシステムの重要な構成要素のひとつになろうとしているが、リーチに取って代わるものではなく、付加的なものであり続けるだろう。

スミス氏によれば、ビューアビリティ、CTR、閲覧時間、動画完了率はほとんどの広告主にとって依然として重要だが、アテンションシグナルはその有効な検証手段だという。

「キャンペーンで2つの広告フォーマットを使っていると想像してほしい。どちらも各指標に対するコストはほぼ同じで、CTRもよく似ている。しかし、そこにアテンションデータを重ね合わせれば、注目を集めるうえで、どちらが費用対効果の高いフォーマットか判断でき、どのように最適化すべきかがわかる」と、スミス氏は説明する。

ユーザーデータが劣化している今、広告主が消費者プライバシーに影響を与えることなく広告を際立たせ、成功を最大化するためのツールを手に入れることは、これまで以上に重要になっている。シマンテックのサイバーセキュリティーサービス部門が実施した調査によれば、インターネットユーザーの83%がプライバシーを懸念しているという。

ダブルベリファイでAPAC担当マネージングディレクターを務めるジョーダン・クー氏は、EU一般データ保護規則(GDPR)や米カリフォルニア州消費者プライバシー法など、プライバシーの懸念に対応するさまざまな業界規制が、オーディエンスターゲティングや成果の測定に影響を及ぼしていると指摘する。

クー氏は、「アップルのIDFA(広告識別子)の制限により、アプリ開発者はユーザーを追跡するために許可を求めなければならなくなった」とCampaign Asia-Pacificに語る。

「オプトイン率が低ければ、ターゲティングとアトリビューションに課題が生じる。さらに、すべての主要ブラウザでCookieが廃止された場合、ウェブトラフィックの80%、モバイルトラフィックの30%で、パーソナライズド広告が制限されると予想されている。しかし、より深いアテンション指標があれば、キャンペーンのパフォーマンスとビジネス成果を高めることができるだろう」

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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