この国の常識に照らすと、答えは「イエス」だ。新製品の発表イベントは中止。テレビCMも放送を差し替え、代わりにACジャパンの公共広告を流す。2011年の東日本大震災のように大規模な災害が起こったときは、以前からそれが流儀だった。先月の熊本地震後も、自粛傾向が目立った。
東日本大震災では、最も多くの消費者が集中する東京も大きく揺れた。そして、日によっては地上波5局のCMの85%が、ACジャパンの広告に差し替えられた。
だが『日経ビジネス』誌によると、熊本地震後に広告を自粛または自主規制した企業の数は、震度や被害規模の差を考慮しても、東日本大震災後に比べて非常に少ないという。
広告主が自粛を決めた地域に、大きな変化が見られると同誌は指摘。東日本大震災後は全国的に広告を取り下げた企業が多かったが、熊本地震後は自粛対象を九州7県の放送ネットワークに限定するケースが目立った。また犠牲者への哀悼の意というよりも、地震の影響で通常の購買活動ができない被災者が多く、商品の流通もできない被災地周辺に対しては広告活動を行う意味がない点を、自粛理由として挙げた企業もあった。
これは「不謹慎だから」という、空気のように日本社会に浸透し、その曖昧さゆえに国内外の企業を困惑させてきた理由に比べ、より合理的な考え方だろう。一方で「消費者の怒りを買いたくない」と即座に自粛する企業は、家電製品や自動車メーカーなど多岐にわたって存在するのも事実だ。
だが広告や自粛傾向について、被災者や視聴者がリアルタイムで自由にコメントを発信する中で、企業が予期せぬ批判を受けることもある。『J-CASTニュース』は、熊本地震後にCMが激減したことに関し、「(被災地を支援する意味でも)こんな時こそ経済活動しないと」「ACのCM、震災を思い出すからやめてほしい」といったツイッターのつぶやきを紹介している。
地震大国の日本で企業は、広告を自粛すべきか否か。ひとつの選択肢として、広告は中止するものの、役立つ情報や励みとなるコンテンツは発信し続け、その見返りを求めないという方法がある。被災者に対して不謹慎でないことを確認してから、広告の発信を続けるという手もある。
まずは全方位を見渡し、消費者に限らず全てのステークホルダーが何を求めているのかを、社会的、倫理的、そしてCSR(企業社会責任)の観点から理解することが第一歩だ。従業員、地域社会、ステークホルダー、救助隊員、そして被災者に対し、最も効率良くリソースを配備できるよう綿密な計画を練り、準備する。それができれば、企業ブランドはいずれ大きな恩恵を受けるだろう。
(編集:田崎亮子)
関満亜美氏はオグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンのコンテント ディレクターを務める。