アジア太平洋地域を代表する広告代理店やメディア、デジタルエージェンシーを総合的に査定する「エージェンシー・レポートカード2017」。業績やイノベーション、イニシアティブ、作品、受賞歴、人材、そしてリーダーシップといった観点から、博報堂には以下のような評価が下された。
社長:水島正幸
持ち株会社:博報堂DYホールディングス
2017年の評価:C+
2016年の評価:C+
博報堂は各市場での活動に関する情報をほとんど開示しないため、査定がしにくい。その姿勢が機密保持を前提としたクライアントとの契約によるものなのか、(従来の代理店モデルの変革に国内で努めるがゆえに)海外市場で目立った成長を遂げていないからなのか、判然としない。
その一方、2017年は例年よりも良い1年であったことを示す事実もあった。クライアント情報を一切開示しない同社だが、Campaignが把握するところでは日本でのプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)との事業が昨年30%あまり成長。また、インドネシアや韓国でも現地の新旧クライアントとの事業を増やし、存在感を高めた。
更に、買収による成長も果たした。シンガポールに本社を構え、アジア太平洋地域12カ国に支社を置くインテグレーテッド・コミュニケーションズ・グループ(ICG)を昨年2月に買収、アクティベーション機能が向上。また、アジア諸国で事業を展開するタイのメディア企業メディア・インテリジェンスとも提携関係を結んだ。
クリエイティブ面では、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのために制作したキャンペーン「GRAVITY CAT 重力的眩暈子猫編」が成果を生み、カンヌライオンズやスパイクスアジアで評価を高めた。クリエイティブ面は一層の強化を目指し、元ワイデン+ケネディのヤン・ヨウ氏を博報堂ケトルの木村健太郎氏とともに共同チーフクリエイティブオフィサーに任命した。
ヤン氏は昨年4月に博報堂に加入したが、今のところ目に見えるような効果は出ていない。同氏の任務について博報堂は、「内外企業の多様化するニーズに応えること」と説明。同氏が最初に手がけた業務の1つは、アジア太平洋地域及び中国市場を対象とした博報堂初のクリエイティブに関するフォーラム −− 本来はクリエイティブ発信に関する社内向けコンファレンス −− の開催だった。
ヤン氏の存在が新規事業に貢献し、本社と各地にある支社との橋渡し役になっていることは確かだ。日本の代理店は本社と支社が一体となって事業を進めることが不得手なので、情報や知識の流れが改善すれば双方にとってメリットとなろう。
国内における興味深い動きの1つが、5人のメンバーで構成されるコンサルティングユニット「TEKO(テコ)」の設立だ。より価値の高いビジネスソリューションの提供を掲げ、社内の様々な部署からクリエティビティーを引き出すことを目的に作られた。比較的保守的で規模の大きな企業の中では極めて小さく、実験的存在だが、「このモデルが我が社の事業の将来を担っていく可能性がある」と同社は喝破する。コンサルティング事業は多くの代理店にとって素晴らしいPRとなるものの、跡形もなく消えてしまうケースはこれまで多々あった。
それでも博報堂の前向きな姿勢は評価でき、今後1年間、このユニットが力を発揮できるようなサポートを社内で十分得られるかどうか興味深いところだ。
日本で今注目が集まる働き方改革に関しては、博報堂は電通やADKとは対照的にあまり話題にならない。同社は4月に「働き方改革部」を新設、改善に着手した。競合2社に比べると改革案の内容はそれほど厳格ではないようだが、子どもを持つ母親の社員が在宅勤務できる要項などが含まれる。同社はまだその効果を計測していないようだが、1年以内にはその確認が必要だろう。
概況報告:新たな収入源の獲得
・ 博報堂は独自の商品開発に関して1つの方針を持ち、それに基づいてクライアントのビジネスプロセスの理解に努めている。
・ 商品開発とマーケティング双方に対応できることをベースに、より多くのプロダクトデザインの仕事の獲得を図る。
・ TEKOは新たなビジネスベンチャーを通じ、他社と収益を共有する事業モデルの確立と拡大を目指す。
(文:Campaign Asia-Pacific 翻訳・編集:水野龍哉)