Staff Reporters
2022年3月10日

エージェンシー・レポートカード2021:博報堂

博報堂はパンデミックによる業績悪化が底を打ち、クリエイティブの賞を数々獲得しているが、DEIの取り組みでは後れを取る。数々のイニシアチブについても、リターンを期待したいところだ。

ドラマ『絶メシロード』
ドラマ『絶メシロード』

博報堂は2021年の目標として、「生活者インターフェース市場」に新しい価値を提供することを掲げていた。同社は人を単なる消費者としてではなく「生活する主体」ととらえ、「生活者」と呼ぶ。生活者インターフェース市場とは、生活者とあらゆるものが常時インタラクティブに接続することを指す。凝ったユニークな表現で表現しているが、昨今のデジタル環境でクライアント企業と人々とをつなぎ、価値を創造しようという方向性は、基本的には他のエージェンシーの物と同様だ。

日本で2番目に大きなエージェンシーグループである博報堂は、「幅広いデジタルドメインで主導的なポジションを確立」する必要があり、「クライアントへのボーダーレスな企業活動」というケイパビリティ-を強化すべきと率直に認める。社内外で非常に多くのイニシアチブに取り組んでいるが、採算性は不透明だ。注意を払うべき課題も、他にいくつか見受けられる。

カテゴリー 2021 2020
業績 C+ C
イノベーション B- B
DEI&サステナビリティー D+ B-
クリエイティビティー&エフェクティブネス B B
マネジメント C+ C+
評価基準について

業績 (C+)

2021年の博報堂は、前年から順調に回復しているようだ。同エージェンシーグループの主要事業会社である博報堂は、事業成長について詳細を明らかにしていないが、親会社である博報堂DYホールディングスの決算報告によると、2021年上半期(4~9月)の収益は3,709億円(前年同期比28.8%増)。売上総利益は1,666億円(同28.5%増)で、その内訳は国内が29.2%増、海外が26.3%増であった。2022年3月期の業績予測によると、ホールディンググループの収益は13.4%増、営業利益は33.2%増となる見込みで、年度末までにパンデミック前の水準を超えるとみられる。

以上のことから、昨年は上昇傾向にあった他の広告会社と比較しても博報堂は好調だったといえ、この「業績」の評価が一段上がった。

同ネットワークは新規事業の拡大に積極的とのことだが、個別のクライアント獲得についてはあまり公にしていない。明らかになっている数少ない案件の一つに、グループ会社のi-dacインドネシアが、インドネシア通信最大手テルコムセル(Telkomsel)のデジタルエージェンシーに再任されたことが挙げられる。

イノベーション (B-)

博報堂のケイパビリティー開発は数が少なすぎると、批判できる者はおそらく誰もいないだろう。

2021年の注目すべきイニシアチブを一部挙げると、デジタルトランスフォーメーション(DX)を専門とする戦略組織「HAKUHODO DX_UNITED」の発足、新しい買い物体験を提供する「ショッパーマーケティング・イニシアティブ」の発足、BtoB企業のマーケティングとセールスの領域でDXを推進する「グリップ&グロース(GRIP & GROWTH)」の提供開始などがある。

Good-LoopドネーションADの日本における独占提供も始めた。これは英国を拠点とするスタートアップ企業「グッドループ社」が提供する寄付型の広告ソリューションで、ユーザーが動画広告を視聴すると広告主から特定の団体に寄付されるという仕組み。ネスレ、ナイキ、ユニリーバなどが参加している。

他にも、博報堂はロシア内外のクライアントに幅広いサービスを提供するデジタルクリエイティブエージェンシー「アイラブデジタル(Ailove Digital)」を連結子会社化した。インド大手ITサービス「ウィプロ(Wipro)グループ」のアピリオ社(Appirio)とも戦略的パートナーシップ提携を行い、セールスフォース・ドットコムなどのクラウドソリューションを幅広く提供していく。中国では上海博報堂が「Tモール(天猫)イノベーションセンター(TMIC)」のサービスパートナーとなり、膨大な購買データを事業に活かせるようになった。

これらの(そしてここでは紹介しきれないほどの)ベンチャーの多くは、ポテンシャルを秘めた興味深いものだが、最終的に収益にどのようなインパクトを与えるのかについては不透明だ。新しい分野を本当に開拓できるものは、ごくわずかだろう。むしろ弱点を補い、時代に遅れないようにすることを目指しているような印象を受ける。

DEI&サステナビリティー (D+)

博報堂は、一丸となってDEI(多様性、公平性、包摂性)に取り組むことに関しては、依然として後れを取っている。同社はここ数年、新卒採用の約半数が女性であると謳っている。また地域全体のほとんどのオフィスで(ただしインドと日本を除いて)、女性の数が男性と同等か、それ以上いるという。

しかし女性役員の割合は10.5%に留まっており、取り組みはまだ十分とは言い難く、この状況を変えるための努力について、同社は言及していない。妊娠中の女性を支援する制度はいくつか実施されており、出産後も約8割が職場復帰するという。しかしエスニシティーやセクシュアリティー、ジェンダー・アイデンティティー、障害、ニューロダイバシティー(脳や神経の多様性)を定量化しようとせず、DEIのステータスについての社内認識を明らかにした従業員調査も挙げていない。至急対応すべきこのテーマについて、明らかな進歩は見られず、他社との差はますます広がる一方だ。今回の評価は、それを裏付けたかたちとなる。

サステナビリティーに関しては、廃棄物削減やリサイクルについての社内目標を達成し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)にも賛同するなど、十分に取り組んでいるといえる。

クリエイティビティー&エフェクティブネス (B)

博報堂のクリエイティブには安定感があり、特に近年は海外クリエイティブブティックの活躍が目覚ましい。ウルフ・バンコク(Wolf BKK)が手掛けたタイの小売大手「セントラル・デパートメント・ストア」の『Shop Unfriend』キャンペーンは、親友同士の女性がセール期間にあるバッグをめぐって戦う様子を描いた作品だ。この作品がアドフェストのフィルム・ロータス部門でグランデを受賞し、博報堂もネットワーク・オブ・ザ・イヤーを獲得することとなった。

博報堂インドネシアとユナイテッド・コミュニケーションズ(台湾)もアドフェスト、One Show、ロンドン・インターナショナル・アワーズ、アド・スターズといった権威ある広告賞で受賞している。ユナイテッド・コミュニケーションズはブラウンのシェーバーと、ヒゲの男性でおなじみの魯肉飯チェーン「フォルモサ・チャン(Formosa Chang)」がタッグを組んだクロスブランド・キャンペーンを手掛けた。

国内では、博報堂ケトルが「絶やすには惜しすぎる絶品グルメ」にフォーカスを当てるため2018年に立ち上げた『絶メシリスト』が、スパイクスアジア2021で賞を獲得している。テレビ東京系でドラマ化され、シーズン1が2020年1月から放送された(元日スペシャルは2021年1月放送)。

同社はクリエイティビティーを社内にも活用している。定期健康診断のデータを前年と比較して改善スコアを可視化し、改善度の高さで競うエンターテインメントに昇華した『健診戦』は、スパイクスアジア2021のPR部門でシルバーを獲得した。

マネジメント (C+)

博報堂は離職率が驚くほど低い。2021年には企業内大学「HAKUHODO UNIV.(博報堂大学)」に充てる予算を2倍(約2億円)に増やした。上記の『健診戦』はクリエイティビティーとデジタルの知見を創造的に活用しただけでなく、従業員のウェルビーイングに真摯に向き合いたいという前向きな姿勢の表れともいえる。

DEIは依然として、同社の明らかな弱点だ。経営層は会社としてこの課題に真剣に取り組んでいることを示すため、リーダー層のポジションにもっと女性を登用し、目標を設定し、効果の測定を求める必要がある。そして、ダイバーシティーへの取り組みに従業員があらゆる面で満足しているということを、証明する方法を模索すべきだ。これらが実施されるまでは、たとえ前述したような素晴らしい要素が数多くあったとしても、博報堂の評価の足を引っ張り続けるだろう。

スキルのギャップを埋めるため、そしてイノベーションの開発を可能にするため、リーダー層はさまざまな社内向けのイニシアチブやパートナーシップを遂行している。パンデミックの影響が収束していくにつれ、これまでのさまざまな施策が新規事業やオーガニックな成長として結実していくことだろう。

博報堂は事業概要について明らかにしていない

データドリブンマーケティング及びイノベーション
統合型マーケティングソリューション(戦略、リサーチ、キャンペーン、PR)
メディア及びコンテンツ制作

グーグル
花王
マクドナルド
三井物産
日産自動車
NTTドコモ
パナソニック
ソニー・エンタテインメント
サントリー
トヨタ自動車

(博報堂は主要クライアントを公表していない。
Campaignは公開されている情報をもとに上記のリストを作成した)

B+: パンデミックによって激変する環境に対応し、マーケティングサービスを拡大して新規事業を積極的に推進した。このことによって、収益も利益もパンデミック前の水準に戻すことができた。

(文:Campaign Asia-Pacific編集部、翻訳・編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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