Arthur Altounian
2022年6月02日

ブランドパーパスをウォークウォッシュと批判されないためには?

インフルエンサーマーケティングを通じて、ポジティブで社会的な意識を広めることは、ブランドへの信頼とエンゲージメントを築くための効果的なアプローチだ。ただし、こうしたキャンペーンが実質的な内容を伴わなければ、かえって顧客の離反を招く恐れがあると、INCAのアーサー・アルトゥニアン氏は警告する。

ブランドパーパスをウォークウォッシュと批判されないためには?

4月22日、APAC(アジア太平洋地域)の多くのインフルエンサーが、トレンドのハッシュタグ「#EarthDay」を添えて、環境に優しいライフスタイルの目標や夢を投稿した。気候変動や環境破壊への反対を呼びかけることで、インフルエンサーらは、今日の世代にとって、自分たちこそが、明晰で啓発的なインスピレーションの源泉であると示したのだ。彼らはオーディエンスから信頼と尊敬を集めているが、同時に重い責任も負っている。

今日、ポジティブで活動的なメッセージを発信するインフルエンサーやブランドは、不誠実でウォーク・ウォッシング(社会問題に取り組んでいるように見せること)だと批判され、オーディエンスから反感を買うリスクを負っている。インフルエンサーとマーケターの双方にとって、その線引きは微妙だ。しかし、マーケターが労を惜しまず、真に高い意識を有するインフルエンサーを起用するなら、そのキャンペーンから得られる長期的な利益は、そのリスクをはるかに上回るだろう。

ストーリーテリングにおける強み

APACのオーディエンスは、気候変動対策への関心が高く、国連のSDGs(持続可能な開発目標)などのイニシアチブについてもすでに豊富な知識がある。

ただし、意識は必ずしも行動に結びつかないため、その橋渡しをインフルエンサーが担える可能性はある。APACの著名インフルエンサーの多くは、膨大なフォロワーに向けて、気候変動対策について啓発し、喚起している。Kポップのブラックピンクやレッド・ベルベット、シンガポール在住の女優ナディア・フタガルン、オーストラリアのクリケット選手パット・カミンズなどの著名人は、再生可能エネルギー、エコロジー、プラスチックフリーの生活といったテーマで、オーディエンスを惹きつける重要な役割を果たしている。

インフルエンサーの強みはストーリーテリングにある。彼らはクリエイティブなアイデアを次々に生み出し、売り込みや説教臭さを感じさせることなく、オーディエンスと容易にコミュニケーションをとることができる。フォロワーは、これらインフルエンサーのコンテンツやニッチな興味、ライフスタイル、そして何よりもオーセンティシティ(真正性)に引き込まれる。つまるところ、関係を構築するのは広告ではなくコンテンツなのだ。

インフルエンサーからの推薦は、有名人からというよりも、身近な仲間からのお勧めに近いように感じられる。したがって、SGDsや気候変動対策の取り組みを推進するブランドマーケターにとって、インフルエンサーの活用はごく自然なことだ。

しかし、インフルエンサーがブランドと本格的に提携するようになると、往々にしてこの貴重なオーセンティシティが失われてしまう。「ウォーク・ウォッシング」という概念が認知されてきたことで、この傾向は近年ますます高まってきている。これは皮肉にも、消費者から支持を集めるために、広告で進歩的な価値観を用いているブランドに押されてしまいがちな烙印だ。

消費者は、不誠実なものや、美徳シグナリング(自らの美徳をアピールすること)とされるものをすぐに見抜くため、ブランドとインフルエンサーの両方にダメージが及ぶ場合がある。

では、APACのブランドは、どうすればこのような事態を避けられるだろうか。その第一歩は、自国のインフルエンサー、もしくはその国で強い存在感があるインフルエンサーを起用することだ。次に、ブランドのメッセージとインフルエンサーのソーシャル上の言動を一致させるために、そのインフルエンサーのバックグラウンドや過去の投稿をしっかり調査することも重要だ。

例えば、フィリピン系オーストラリア人の女優ジャスミン・カーティス・スミスは、ソーシャルメディア上で長い間、サステナビリティと反貧困の提唱を行ってきた。また、インドネシアのアユ・マウリダ氏は、自身のプラットフォームにおいて、へき地での教育や医療、電力やインターネット利用を可能にすることを目的としたNGO、「#SenyumDesa(笑顔の村)」を応援している。

マーケターはこうした実情をしっかり調査することで、自らの目的に適合しないインフルエンサーは避けることができ、ウォーク・ウォッシングと反発されるリスクも低減することができるだろう。

選択的なアプローチ

ただし、インフルエンサーを選ぶ基準は、過去の投稿だけではない。マーケターは、インフルエンサーが誰のために、どれくらいの頻度で投稿しているかについても見極める必要がある。アジアでは近年、多くのインフルエンサーが、自分にとって適切かどうかを判断しないまま、ブランドや企業が持ちかけてきた話を安易に引き受ける傾向があることが明らかになっている。

その結果、インフルエンサーは、無分別で提携先をきちんと選んでいないという印象を持たれるようになってきた。インフルエンサーは、ブランドやオーディエンスに忠実であることよりも、金銭を得ることを重視するようになった、という批判もよく聞かれる。

実際、こうした無分別なインフルエンサーは、信用度も信頼度も低い。一方で、自らのオーセンティシティとオーディエンスとの関係を真に考慮するインフルエンサーは、アプローチしてくるブランドやエージェンシーを評価し、その価値観が自らの志向に適合しているかどうかを確認するはずだ。一貫性が鍵であり、テーマが社会であれ環境であれ、自らの価値観と一致するブランドと継続的な仕事をしてきたインフルエンサーなら、組む相手としてリスクは小さいはずだ。

ブランドはデータを活用することで、インフルエンサーの調査を簡略化でき、関連するトレンドや話題性、それらを促進する適切なインフルエンサーも見極められるようになる。データを効果的に活用することは、適切なインフルエンサーを絞り込むのに役立つだけでなく、グローバルな問題やキャンペーンに、現地の感覚を取り入れることにもつながる。APACにおいても、インフルエンサーは、SDGsの様々な課題に具体的な変化をもたらす大きな可能性を秘めている。適切な調査と見識、そして地域のニュアンスを取り込むことで、ブランドもその会話の一部となり、新しい世代に良い影響を与える力になれるだろう。


アーサー・アルトゥニアン氏は、グループエム傘下のINCAのAPACクライアント戦略および成長担当バイスプレジデント。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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