今日のソーシャルメディア環境において、インフルエンサーマーケティングはとても重要だ。高級品を販売するブランドであれ、日用消費財を取り扱うブランドであれ、インフルエンサーはブランドとターゲットオーディエンスとの真のつながりを築く力を秘めており、それゆえマーケティングミックスの重要戦略のひとつになっている。昨今、インフルエンサーマーケティングのそうした高評価への反論はほとんど聞かれなくなったが、実施における倫理的問題についての議論はしばしば発生している。
バーチャルインフルエンサーから、ステルスマーケティングに至るまで、インフルエンサーマーケティングのさまざまな倫理的課題に対処できるベストプラクティスを網羅的に検討することは、ブランドにとって不可欠だ。とはいえ、消費者の価値観が変化し、インフルエンサーの新たな活躍の場が日々生まれているなか、こうした倫理的配慮を維持し続けることは決して容易なことではない。
ブランドがインフルエンサーの活動にどの程度責任を負うべきなのかを議論したいと思う人も多いかもしれないが、いずれにせよこれにはブランドのイメージがかかっているということには重々留意すべきだ。あらゆるインフルエンサーは、良い意味でも悪い意味でもブランドを代表する正当なスポークスパーソンとしての役割を担っている。このことを念頭に置き、ブランドの目的を全うするために考慮すべきインフルエンサーマーケティングの3つの課題を見ていこう。
スポンサードコンテンツとタグ付けによる透明性
インフルエンサーマーケティングの倫理的課題について考える時、スポンサーシップの透明性がたいてい最初に思い浮かぶだろう。これは新しい問題ではなく、米国では連邦取引委員会(FTC)、英国では競争・市場庁(CMA)や広告規準協議会(ASA)などの組織がすでに、インフルエンサー投稿の透明性やブランドとの関係性に関するガイドラインを示している。一見すると、この問題は解決済みのようにも思える。
アジア太平洋地域(APAC)はどちらかというとややグレーゾーンだが、法的な義務ではないものの、同地域のブランドも欧米のガイドラインを応用できるだろう。とはいえ、すでにこれらの規制が適用されている国であっても、FTCやCMAが定めた規制ガイドラインをすべて満たしている投稿は15%未満にすぎないという調査結果もある。規則に違反すると、罰則や罰金、訴訟費用が発生するだけでなく、消費者の信頼を取り返しのつかない形で失うリスクがある。これは、活動全体が信頼に基づいて成り立っているインフルエンサーにとって大きな問題だが、結果的にはブランドの名声にも汚点を残すことになる。
適法な有償コラボレーションと違法なリベートとの境界は曖昧だが、その線引きが適切な情報開示の有無にかかっている以上、すべてのブランドは現行の規制を熟知し、パートナーのインフルエンサーがそれらに従っていることを確認する必要がある。1つの選択肢は、投稿されたコンテンツの冒頭に目立つハッシュタグをつけてパートナーシップを開示するか、各プラットフォームが提供する特別な告知機能を利用することだ。万能薬のようなベストプラクティスはないとしても、このように明確なガイドラインはあるのだから、どの地域で活動しているとしても、現在のインフルエンサーマーケティングにおいて、透明性の欠如に対して言い訳は通用しない。
レピュテーションマネジメントと倫理条項
ブランドがパーパスに基づく取り組みを強化したいなら、自らの価値観を反映したコンテンツ制作者と組むべきだ。当たり前のように聞こえるかもしれないが、現実的には膨大な選択肢の中から選ぶことになるため、ブランドは時間をかけてインフルエンサーを調査し、倫理観が自社に沿った人物かどうかを確認するという非常に重要なステップを省略してしまう可能性がある。
たとえば2020年には、新型コロナウイルスのパンデミックによって、旅行が人の命を危険にさらす身勝手な行動になってしまった。そのため、旅行カテゴリーのインフルエンサーと彼らのスポンサーになっていたブランドは窮地に陥った。こうした状況では評判を一気に落とすリスクがある。だからこそ、ブランドはインフルエンサーを選ぶ際に厳格なプロセスを設け、自らの価値観に沿わない言動をする人物を起用しないことが求められる。
潜在的な問題や危険な投資を避けるためには、インフルエンサーをブランドのスポークスパーソンであると明確に位置付けるべきだ。優れたインフルエンサーマーケティングエージェンシーなら必ず行っているように、ブランドは十分な調査を行い、提携しようとする相手が信頼できることを確かめるべきだ。さらに、契約書に倫理条項を追加するなど、安全性を高める方法を模索することも求められる。
AIの進展から生まれたバーチャルインフルエンサー
テック業界で、AI(人工知能)がもてはやされる状況の中、あるトレンドが今後数年で拡大していくことが予想されている。そのトレンドとは、バーチャルインフルエンサーだ。CGで生成された“人間”は架空の人物であっても、ソーシャルメディアでの存在感は現実そのものだ。「リル・ミケーラ(Lil Miquela)」やプーマの「マヤ(Maya)」のようなバーチャルインフルエンサーは、共通の価値観に基づくリアルなコミュニティを構築している。物珍しさは別にしても、このようなバーチャルヒューマンは、ブランドと消費者のあらゆるやり取りを有意義なものに変える可能性を秘めている。
大半のブランドは、過去数年のあいだ、バーチャルインフルエンサーから距離を置いていたが、人々がかつてないほどデジタル上のつながりを求める中、さらに進化を遂げることで急速に関心を集めるようになってきた。ただし、バーチャルインフルエンサーには独自の倫理的配慮が必要になる。誰が知的財産権を保有し、どのように法的な契約を結ぶのかなど、生身のインフルエンサーよりも複雑な理解が必要になる。また、バーチャルインフルエンサーを制作する人物や企業が匿名であることは、透明性を重視する今日の消費者から問題視されるかもしれない。さらには、アフリカ系の女性を模したバーチャルヒューマン「シュドゥ・グラム(Shudu Gram)」のクリエイターが直面したように、文化の盗用問題が生じる可能性もある。
バーチャルインフルエンサーの背後には、デザイナー、開発者、ライター、コンテンツ制作者などのチームが控えている。したがって、他のインフルエンサーと同様に親近感や信頼感を生み出せたとしても、ブランドはこの違いがパートナーシップやそのインパクトに影響することを認識する必要がある。倫理をめぐる議論は技術の進歩のペースに追いつけないのが常だが、それでもこの問題は検討しなければならない。そこで専門的なパートナーの役割が求められる。インフルエンサーマーケティングの新たなトレンド、インサイト、ベストプラクティスを常に注視しているパートナーなら、ブランドが必要とする保護とガイダンスを提供できるだろう。
バーチャルであろうとなかろうと、インフルエンサーは、ブランドがオーディエンスとより有意義なつながりを生み出すための信頼感を築く可能性を秘めている。ただし、消費者の価値観が変わり続け、技術的な可能性が増えていくなかでも、ブランドが常に倫理的な配慮を怠らず、自らの価値観を正しく反映したコンテンツ制作者と提携している場合にのみ、こうしたソーシャルコラボレーションはポジティブで持続的なインパクトを与えることができるのである。
ソフィー・クラウザー氏は、メディアモンクスでシニアインフルエンサーマーケティングマネージャーを務めている。