仮想通貨の先行きはいまだ不透明だが、社会的な関心は高まる一方だ。金融分野における変化の速さに、ビザなどの企業は無関心ではいられないだろう。ビザカードは3億2千万人超が所有しており、同社は世界最大級のカード会社だが、その地位を維持するためにイノベーションを最重要と位置付けている。
その一つが、カードを使わない決済だ。ビザの日本におけるマーケティング責任者は最近のインタビューで、多くの人がビザをカード会社と認識しているが、自分たちは「ペイメント・テクノロジー企業」と考えていると発言している。アジアパシフィック地区を担当するCMO、フレデリック・コビントン氏は平昌五輪を「カードが不要となる初のオリンピック」と謳っている。
ビザは主要スポンサーとして、ステッカーや記念ピンバッジ、あるいは手をかざすことで決済できる手袋など、ウェアラブル技術を応用した決済を奨励している。「ビザがイノベーションを追求している企業であることがお分かりいただけるでしょう」とコビントン氏は話す。
ここではキーとなるのは、非接触で決済できるということと、クレジットカードでは味わえなかったような「楽しさ」だ。また決済処理の速さは、同社のパートナーである小売店舗などからも歓迎されるだろう。
カードそのものを必要としないスマートな決済を実現することにより、ブランディングにおいても新しい形が作り出されるだろう。スマートスピーカーの実用化が始まるなどデジタル変革の流れが加速する現在、将来性のあるブランド作りに重要なのは「音」だとコビントン氏は話す。決済完了の通知や、広告にも使用する特徴的な音の開発に、ビザはかなりの投資を行った。また、顔認証決済のためのモバイル振動システムの独自開発も検討している。
「ブランドは、消費者に自分たちの存在を知ってもらう機会を作ることが大切」とコビントン氏。ビザを象徴する音はとてもシンプルだが、これを作り出すのは簡単ではなかった。「さまざまな文化の違いに留意しつつ、200種類もの音を一つ一つ絞り込んでいきました」と振り返る。
「いかにも広告といった音は避けたかったのです。ブランド価値にふさわしく、ビザのパートナー企業のテクノロジーにも組み込める音を作るべく、共同で作業しました。長過ぎず、うるさ過ぎない音を作るには考慮すべき点がいろいろあります。音はさまざまな場面で聞かれる、まるで言語のようなもの。ある文化圏では心地よいとされる音も、別の文化圏ではそうでなかったりするので、数多くの音をさまざまな地域で試す必要がありました」
目指したのは、ユーザーに安心感を与えることと、決済時にブランドを連想してもらうことだった。「現金やカードを使わずに支払いをする際には、支払いがきちんと完了したかを確認したいもの。もしもまばたきによって一瞬で決済ができるとしたら、いかがでしょうか? この会社を信用しても大丈夫だろうか、処理は安全に行われたのかと疑問を持つでしょう。決済処理がますます簡素化されていく中で、我々のブランドの強みをユーザーにいかに認識してもらうかというのが、私たちの課題です」
今年の冬季五輪、そして2020東京大会を見据えて、ビザがスポンサーとして起こした最大の変化は、より高い体験価値の提供だという。「これまでのスポンサーは、ブランド名や商品名を掲げて知名度を上げるだけでした。でも消費者の観点に立つと、それでは十分ではありません」とコビントン氏。スポンサーは、イベントの体験価値を向上させる何らかの策を講じることが必要だという。
同社は平昌五輪で、新たな決済システムを促進する他、大会会場に行くことができないスタッフに、グーグルのダンボール製ヘッドマウントディスプレイ「Cardboard」のようなモバイルVR体験を提供する予定だという。
「スポンサーの視点で考えるのは、知名度のことです。一方で、体験価値の向上という観点からは、従業員とのエンゲージメント(関係構築)にも関心があります」とコビントン氏。「ブランドのこのような姿勢は、より大きな影響力や強固な関係構築につながるはずです」
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)