注意:以下、Netflix映画『ドント・ルック・アップ』のネタバレあり。
アダム・マッケイ監督によるNetflixの映画『ドント・ルック・アップ』の中では、メディアがどうしようもなくひどいことは紛れもない事実だ。この映画は、メディア(と政治家だが、この記事では後者には深入りしない)が、世界を救うはずのメッセージをいかに巧妙に握りつぶしてしまうかを描いている。
未視聴の人のためにあらすじを紹介しよう。天文学者のランドール・ミンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)と大学院生のケイト・ディビアスキー(ジェニファー・ローレンス)は、直径9kmの彗星が地球に接近しており、6カ月後に地球に直撃して全人類を滅亡させる見込みであることを発見する。2人は必死にこの事実を大衆に伝えようとするが、この「コミュニケーション」の試みは、ことあるごとに失敗に終わる。
大統領は破滅が現実であることを受け入れられず(「死ぬ確率100%なんて、国民に言えるわけがない!」)、情報番組のキャスターは事態を真面目に受け止めず(「どうせ落ちるなら、元妻の家に落ちてくれないだろうか?」)、大衆は2人を笑いものにする(ケイトはネット上で「被害妄想」と叩かれる)。主人公の2人は、人類滅亡の脅威を世界に伝えようと試みる過程で、幾多の試練に直面することになる。
ミンディ博士はメディア業界に懐柔され、警鐘を鳴らすのを控えて人気者になり、笑顔で広告にまで登場するようになる。一方のケイトは、危険を過剰に煽っているとみなされ、相手にされなくなる。世界が終わりに近づいているのに、誰も危機をまともに取り合わない。
たいていの米国映画とは異なり、本作は悲しいエンディングを迎える。そう、世界は破滅するのだ。
どうすればこの結末を避けられたのだろうか? 主人公らがうまくメッセージを伝えることができていたら、どうなっていただろうか? もし2人が、世界にメッセージを伝えるための適切な訓練を受けていたらどうだっただろうか? これほど重要なメッセージを伝えるならば、すべてを完璧に準備しておかなければならなかったはずだ。
こういう言い方をすると、私がメディアの立場を考慮して、メディアの、悪者という印象を薄めようと試みていると思われるかもしれない。だが、そんなつもりはない。メディアはメディアであって、裁判所とは違うという現実を知ってほしいだけだ。メディアは決して「公平」ではない。彼らはただ彼らの原則に従いつつ、メディア自身とオーディエンスにとって、最も分かりやすいストーリーを語るだけなのだ。
好むと好まざるとにかかわらず、メディアには以下の特徴がある。
1. 強い主張やバイアスがある
2. 「スクープ」と締切のプレッシャーに追われている
3. ストーリーを描くための手がかりを必要としている
4. 大衆もまた同様である
したがって、メディアにどうアプローチすべきかを知り、メディアのエコシステムを理解して、より良い方向にアジャストすることが重要になる。好むと好まざるとにかかわらず、メディアは私たちにとって重要であり、善の力として利用することもできる――ただし、そのやり方がわかっていればの話だ。
では、世界を救うような重要なメッセージが正しく伝わるようにするには、どうすればよいのだろうか?
簡単なことではない、それは確かだ。カメラの前に立つ前に、多くの要素を考慮し、訓練しておくべきだ。ここから具体的に課題と対処法を見ていこう。
ケイト・ディビアスキー向けのメディアトレーニング
率直に言って、話を脱線させ、実質的に「ダークサイド」に堕ちてしまったミンディ博士には失望した。
一方、ケイトは映画の中で、大勢から不当な扱いを受ける。ケイトにもしアドバイザーがいて、多少のコーチングを受けていたら、彼女は世界を救うことができたかもしれないと、本気で思う。彗星を発見した科学者であり、その名前を取って「ディビアスキー彗星」と命名されたこともあり、ケイトは心からメッセージを伝えたいと思っていたはずだ。だがおそらく、そのやり方がまずかった。
彼女には以下のようなアドバイスを送りたい。
1. まず、彼女にこう話しかける。「ディビアスキーさん、世界の終わりを知ってパニックになるのはわかります。無理もないことですが、冷静さを保つことが肝心です。あなたのメッセージはとても重要ですし、人々に聞いてもらう必要があります。そうでないと人類は全滅してしまうでしょう。ですが、話を聞いてもらい、対策が実行されるためには、明瞭に、冷静に、理路整然と伝えなければなりません。そこでおすすめしたいのは、彗星についての議論やインタビューに臨む前に、少し時間をとって心の落ち着きを取り戻すことです。呼吸を整え、深呼吸し、10数えて、少し瞑想するか、あるいは自然と触れ合ってから、インタビューを受けてください」
2. それから、訓練とリハーサルがいかに重要かを念押しして、鏡や(彼女自身が所有している)カメラの前で伝えたいことを語ってもらう。何より最も重要なのは、本番直前まで妥協せずに取り組み、納得がいくまで訓練を積むことだ。
3. 誰かにレポーター役をしてもらい、答えにくい質問を投げかけてもらおう。自分の答えを確認して、満足のいく受け答えができるまで訓練を重ねる。そうした難しい質問にうまく答えることで、誤解や矛盾や事実の歪曲を修正することができる。肝に銘じるべきは、この件についての専門家はケイトであり、何が起きているかを最も正確に理解しているのは彼女であって、大衆ではないということだ。
4. 鍵となるメッセージをケイト自身が十分に理解していることを確認しよう。彼女は何を伝えたいのか? どんなふうに伝えるのが最も効果的なのか? 要点を伝えるのに効果的で、記事に引用されることも見込める印象的なフレーズはあるか? これらを事前にチェックし、肝に銘じておく。
5. メディア関係者は、興味の優先順位が一般人とは異なることから、彼らが投げかける質問が、ケイトが伝えたいトピックや主要なメッセージとは別のところに向かってしまうかもしれない。そんな場合は、会話の方向を転換する「ブリッジング」が有効だ。例えば、こんな言い回しで話題を転換することができる。「その通りですが、このことから私たちが留意すべきことがあるとすれば……」「この問題を別の角度から見ると……」。あるいは、ジャーナリストの質問を利用しながらも、直接的ではない回答をする方法もある。「Xについての質問をいただきましたが、その意味合いを膨らませて答えるなら……」
6. また、ケイト自身を友好的で協力的な人物として印象づけるのに有効な方法は、ジャーナリストが関心を持つ特定の話題に言及し、発言の機会をもらえたことへの感謝の意を伝えることだ。そうすることで、対立ではなくコラボレーションの状況を生み出し、会話の行方をより柔軟に操れるようになる可能性がある。
7. 誰もが、科学的事実を正しく理解できる科学者というわけではない。インタビューの前に、科学の素養のないオーディエンスにとっては把握しにくい事実を拾い出し、理解できるような表現に置き換えるのもいいだろう。例えば、直径9kmの彗星は「フットボールグラウンド100個分」のように説明することができる。
8. メッセージの本質を際立たせよう。インタビュアーや大衆が覚えやすいように、重要だと思う要点を強調しよう。例えば、こんなフレーズが使える。「お聞きの皆さんが1つだけ覚えておくべきことがあるとすれば、それは……」
9. (映画の中での)真実だとしても、彗星の衝突によって地球上の人類が100%死ぬなんてことは、誰も知りたくないというのが本音だろう。ケイトには、もっと元気が出るような伝え方を検討してもらいたい。例えばこんな言葉はどうだろう。「私たちにはまだ、世界を救うチャンスがあります。力を合わせて今すぐ行動しましょう」
以下の画像では、情報番組に出演したケイトとキャスター2人が実際に交わしたやり取り(左側)と、ベロが提案する望ましい受け答え(右側)を示している。
キャサリン・ナパライ・フォールダーは、ベロのASEAN地域ストーリーテリングディレクター。