世界広告主連盟(WFA)の最高経営責任者を務めるステファン・ローク氏は、広告業界は今「過去30年にわたる富の形成と運用のあり方」について、その報いを受けていると語る。
ローク氏はCampaignのインタビューで、業界はプーチン体制を間接的に支えてきたロシアのオリガルヒ(新興財閥)や国営メディアとの業務上の関係について、直視せざるを得なくなったと述べた。
さらに同氏は、ブランドが「プーチン政権に、意図せず資金提供したり、支援したりすることがあってはならない」と警鐘を鳴らす。
ローク氏は、2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻に対する世界の反応を、3つのフェーズに分類した。
第1フェーズでは、企業はプーチン政権との「直接的な事業提携関係」を断った。ローク氏は、英国の石油・ガス企業であるBPをその一例として挙げ、同社がロシア国営エネルギー企業ロスネフチ(Rosneft)の保有株式をすでに20%手放したことに言及した。同業のシェルもすぐさま同様の対応をとったという。
アップル、アディダス、フォルクスワーゲン、イケアなどのブランドも、ロシア国内での販売を停止した。
第2フェーズは、ロシアのオリガルヒが所有する民間チャネルからの広告費の引き上げであり、一部のブランドや広告主は現在これを検討している。
ローク氏はここで、元ロシア首相のビクトル・チェルノムイルジン氏が創業し、現在はアレクセイ・ミレル氏が率いる、ガスプロムメディア(Gazprom-Media)を例にあげた。同社は国営メディアへの影響力も維持している。
「私が会話をした広告主たちの考えは、『我々はオリガルヒとの仕事はしていない。だがそれでも、ブランドとして、プーチン政権とつながりのある民間テレビネットワークに広告費を投じることは正当化できるのだろうか?』というものだった」と、ローク氏は言う。
オリガルヒが所有するチャネルに広告費を使うことで、メディアバイヤーやプランナーは「間接的にプーチン体制を支援する」ことになると、ローク氏は指摘する。広告費支出で世界トップ30に入るブランドのあいだで、こうしたチャネルからの撤退に向けた検討がなされているところだという。
誰もが「未知の領域」にいると同氏は述べ、ほとんどの広告主はやがて、「ロシアで事業を続けることをいつまで正当化できるだろうか」という問いに向き合わざるを得なくなるだろうと予測した。
第3フェーズは、今まさに進行中の、ブランドによる企業活動の一部またはすべてのロシアからの撤退だ。マクドナルド、コカ・コーラ、スターバックスなどが、すでにこうした決断に踏み切った。
ただし、WFA自体、およびWFAによって設立された「責任あるメディアのための世界同盟(Global Alliance for Responsible Media:以下GARM)」の対応は、偽情報に対抗する新たなブランドセーフティ基準の導入と、ウクライナ・ロシア情勢についてブランドの理解を促進するための包括的支援に留まっている。
GARMのブランドセーフティ評議会およびサステナビリティフレームワークは、11の有害コンテンツ分野を挙げ、どのような悪影響が考えられるか、どこへの広告提示を避けるべきかといった、一般的な指針だけを示している。
偽情報に特化した新たなフレームワークは現在策定中で、3月末の公開が予定されている。またWFAは、業界の透明性およびアカウンタビリティ基準を定める欧州委員会行動規範に共同署名し、こちらも3月末に公表される予定だという。
だが究極的には、業界は「マーケティング活動を客観的に見つめ直し、業界の利益よりも危機にさらされている人々を尊重すべき」という結論に至るだろうと、ローク氏は言う。
「現在の文脈においては、マーケティングやブランドの位置づけについて、我々は極めて謙虚になる必要がある」と、同氏は述べた。