David Blecken
2018年6月19日

有意義なブランデッドコンテンツとは

ハフポストのブランデッドコンテンツ統括責任者によれば、マーケターのほとんどが今も、押し付けがましいアプローチのコンテンツを制作しているという。

6月13日、都内で行われた「BRANDED SHORTS 2018」で語るサラ・アーマンド氏(写真は主催者提供)
6月13日、都内で行われた「BRANDED SHORTS 2018」で語るサラ・アーマンド氏(写真は主催者提供)

Campaign は6月13日に都内で開催された国際短編映画祭「BRANDED SHORTS 2018」にて、コンテンツにおけるテクノロジーの役割、そしてブランドが手掛けるコンテンツの大半がなぜいまだに説得力に欠けるのか、その理由をサラ・アーマンド氏に聞いた。米ロサンゼルスを拠点とする同氏は、2015年よりハフポストとAOLでコンテンツ統括責任者を務める。

なお「BRANDED SHORTS」の受賞作品は以下の通り:アップル「Three Minutes」(インターナショナルカテゴリー)、講談社「玉城ティナは夢想する」(ナショナルカテゴリー)、リクルートライフスタイル「」(SUNRISE CineAD Award)

この1年あなたが仕事をした中で、最も革新的だったものは何でしょうか。また、そこからどのようなことを学びましたか。

最も革新的だと思ったプロジェクトは、ゲーム会社のために開発していた拡張現実(AR)を体験するものでしたが、実現には至りませんでした。ARはともすれば商業的になりすぎますが、そのプロジェクトではARを使ってストーリーを伝え、ゲームに文脈を与えることができると考えたのです。またクライアントも、広告メッセージを強く押し出す必要がないことを理解してくれ、ストーリーテリングのようなオーガニックなものを作り出せるのではないかと考えたのです。

なぜARは「過度に商業的に」なり得ると思うのですか。

時に押し付けがましくなるのが、ARの特性です。車でもソファーでも何でもいいのですが、ARで見せられると、プライバシーに踏み込まれたように感じます。ARはストーリーテリングの媒体として使われるべきもの。同じ空間の中に存在しているかのように感じさせて、ストーリーの中に入り込めるように活用されれば、この上なく強力なものとなるでしょう。

先ほど話に出たARのプロジェクトは、なぜ実現しなかったのでしょうか。

結局クライアントが、Snapchatを選んだためです。でも、そのおかげで違う考え方をすることができました。

そのプロジェクトから学んだ最大の教訓は何ですか。

過度に強制的だったり、あまりに記事体広告らしく感じさせるものであってはならないということでした。

それは至極当然のことのようにも思いますが、まだクライアントは理解していないのでしょうか。

理論的に分かっていても、実際には今日のマーケターの多くは、厳しいKPI(重要業績評価指標)を追わねばなりませんし、ウェブサイトの閲覧者数とか、購買につながった人数とか、そういった数字を満たさねばなりません。ですから頭では消費者心理を理解していても、ウェブサイトに確実に来てもらうことを優先させてしまう。つまり、自らコンテンツの消費者であるということを忘れてしまうのです。マーケターとしての考えがあまりに強くなり、押し付けがましくなってしまうのです。

彼らにアドバイスするなら、どのようなことを?

一歩引いてみて、自分がシェアしてみたい、自慢したくなるようなコンテンツを作るよう努めることです。不信感が渦巻くこの世界で、より本物の、信頼できるコンテンツを作れば、もっと目的を遂行することができるでしょう。

これまでのご自身のキャリアで学んだ、最も重要な事は何でしょうか。

限界の壁を越えることを忘れてはならない、ということです。私が関わった案件の中でもとりわけ成功したのは、ブランドが自身の態度を明確にし、自分たちが重要だと考えるものを明らかにしたものでした。

ほとんどのブランデッドコンテンツが、いまだにエンゲージメント力が弱いのはなぜでしょうか。

大きな理由は、製品についてあまりにも強引に言及するからです。いまだに商業的すぎて、読みたいとか見たいとか思うコンテンツにはなっていないのです。また、インフルエンサーをあまりにも使いすぎですね。こう考えた方がいいとか、これをした方がいいなどといったインフルエンサーの声に、うんざりしている人が多いのです。もちろんインフルエンサーを正しく使う方法はありますが、ブランドに何の関係もないインフルエンサーを使うのが当たり前になってしまっています。スキンケア商品の会社と仕事をしたことがありますが、彼らが起用したインフルエンサーは、ラップスターやスポーツ選手でした。確かに響きはいいですが、消費者は見透かしますよね。

ブランドにとって、VR(仮想現実)の可能性は、もう十分に発揮されているのでしょうか。

ブランドに関しては、まだそこまで到達していないと思います。VRには人々を引き込み、ストーリーの中に浸らせる力があります。特に、時事的な内容を伝える際に力を発揮する傾向がありますが、ブランドは必ずしもそのようなコンテンツを求めていません。でもVRはコンテンツのゲーム化において、大きな可能性を秘めていると思います。ただ、特にVRが必要なコンテンツではないにも関わらず、「VRをもう使った」と言いたいがために使っているマーケターが、まだ多いようです。

なぜブランドは、時事性のあるコンテンツ制作に及び腰なのでしょうか。

そういったコンテンツは論争を呼ぶことがあり、リスクのあるものだと捉えられています。ブランドはたいてい、全てのオーディエンスとつながりを持ちたいと考えているので、特定のスタンスに立つことで一部のオーディエンスが離れていってしまうのでは、と不安に思っているんです。

全ての人にアピールしようと努めるのは現実的だと思いますか。

いいえ。自分たちのオーディエンスが誰であるかを見極め、そのオーディエンスに向けてコンテンツを作ることが大切です。一般のオーディエンスに幅広くアピールできるブランドは、ほとんどありません。

あなたにとって最もやらねばならないこと、そしてやってはならないことは何でしょうか。

技術を無理やり適用しようとしないこと。単に「やるべきだから」という考えだけで、インフルエンサーや没入型技術など新しいものに飛びつかないこと。新しいトレンドを押し付けないこと。

オーディエンスの消費行動を、きちんと理解するよう努めることが大切です。オーディエンスがいつ何をどのように見ているのか、それを把握するよう注力するのです。またオーディエンスの身の回りでの動きや、世界的な動きと関連づけて、共感できるコンテンツを作ることも重要。自分の考えを示してリーダーシップを発揮する「ソートリーダー」となることも大切です。全てのブランドが、何かしらのエキスパートなので、自分たちの意見や専門知識を表明することを恐れる必要はありません。

今年のカンヌライオンズでは、どんなコンテンツが注目を浴びると思いますか。

アメリカの人種偏見について語っているP&Gの「The Talk」は、映像も美しいですね。ひどい一日を過ごした女性が登場し、音楽がその気分をいかに瞬時に変えることができるかを表現したアップルの「HomePod」も、共感できる作品で大好きです。どちらの作品も感情をかきたてられ、大いに感情移入することができました。広告的要素の扱い方が自然なので、ブランドが作ったものだということを感じないのです。

近い将来、コンテンツはどのような形で作られるようになるでしょうか。

オーディエンスがいて、そうですね……人々はもっとメッセージアプリを見るようになるでしょうか。特に今、ソーシャルネットワークが信頼されていない時代ですから。この不信感が人々を、より質の高いジャーナリズムへと導き、Apple NewsやGoogle Ampの人気がさらに高まるでしょう。ソーシャルプラットフォームから人々が離れるようになってきているからです。

フェイスブックのようなプラットフォームに、不信感はありますか。あなたの習慣はどう変わりましたか。

信頼とプライバシーは重要な問題ですね。私はパブリッシャーが発信するものをもっと直接取り入れるようになりました。ニュースに関しては、個人的に読みたいものをもっと選ぶようになり、特定の配信元のものを見るようになっています。また私の最近の傾向としては、ニュースを知る上でもっとポッドキャストを利用するようになりました。古いとされたものが、また新しくなっているんです。ポッドキャストには、何カ月もかけて調査活動をし、深く掘り下げたジャーナリズムが反映されていると感じています。

(文:デイビッド・ブレッケン 編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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