テイラー・スウィフトとバービーが経済を背負っていると言っても過言ではないと、私は思う。
グレタ・ガーウィグ監督がメガホンを取った、興行収入10億ドルに達する大ヒット映画から、各国経済に活力を与えながら、文字通り大地を揺るがしたテイラー・スウィフトの「エラス」ツアーまで、この2人の象徴的な女性像はそのスター性だけでなく、若く熱狂的な女性オーディエンスの旺盛な購買力も示してみせた。
景気の先行きは暗く不透明で、数ヶ月に及ぶ記録的なインフレもやっと落ち着きはめたばかりだ。それでも、若い女性消費者は、パワフルな女性たちがもたらすエンターテイメント体験のためになら喜んで財布の紐を緩めるだろう。
モーニング・コンサルトが行った3月の世論調査によれば、スウィフティ(テイラー・スウィフトファン)の半数以上(52%)は女性であり、45%はミレニアル世代だという。また、ハリウッド・レポーター紙によれば、公開初日の週末に『バービー』映画を観た人の69%は女性だったという。
スウィフトのツアーは、マドンナやエルトン・ジョンなどの歴代ア-ティストの記録を打ち破り、10億ドルの興行収入を達成する勢いだ。連邦準備制度理事会(FRB)ですら、ビーズや友情ブレスレットといった産業だけでなく、フィラデルフィアやボストンといった都市の観光産業も活性化させたとして、スウィフトの経済効果を高く評価している。
一方、『バービー』の成功によって、ガーウィグ監督は男性優位が続くハリウッドの業界で、Aリスト(名前だけで観客を呼べる)の地位に上り詰め、女性監督としては史上最高の初日興行収入を記録した。
これら女性クリエイターたちの総合的な経済力は、苦労して稼いだお金で彼女たちへの支持を示そうとする大勢の女性たちからもたらされたものだ。そしてこのような多大な影響力を目にしたことで、社会もようやく女性の購買力の大きさに目覚めた。
女性は何十年も前から、家計消費の決定権を支配しており、しかも、働きに出る人が増えるにつれ、徐々にその購買力も大きくなった。それにもかかわらず、女性は、エンタメ業界からもメーカーのマーケターからも、いまだにしばしば無視されがちだ。しかし、フォーチュン500企業の中に女性経営者が10%しかいないことを考えれば、これも当然のことなのかもしれない。バービーやテイラー・スウィフトが女性ファンにとって魅力的なのは、豊富な経済力や社会的地位を持ちながらも、女性が何に興味を持っていて、どのように話しかけられたいのかを、心から理解していることだ。
バービーのホットピンクのフィルム包装の下には、女性が中心に居て、男性がその周りを取り巻く世界を思い描く、フェミニスト思想が隠されている。そして、スウィフトのアルバムには、失恋ソングというステレオタイプな見せかけの裏で、何度蹴落とされても、再び立ち上がり、彼女とともに成長してきた同世代の女性たちの気持ちや心情が的確に表現されている(同じスウィフト世代の女性として、私にはそれがはっきり分かる)。
バービーが公開されて数週間が経ち、エラス・ツアーも、先週、アメリカでの最終公演を終え、今はヨーロッパに向かっている。そして来年秋にはまたアメリカに戻ってくる。
これからは気温も徐々に下がり、世界中が友情ブレスレットやホットピンクのメガネをはずす季節になる。しかし、賢明なマーケターは、女性顧客の購買力を忘れてはいけない。そして、女性が生み出すブランドストーリーの影響力を頭に刻みつけておくべきだろう。