インド・ムンバイの私の自宅から12キロ離れたところに、デオナー処分場はある。ここは市の中心部にあるアジア最大のゴミ廃棄場だ。このエリアに住む人々の平均寿命は39歳に過ぎない。世界有数の大都市に住む我々は、大気汚染による健康被害を日常的に受けている。大気汚染や海洋汚染が原因で早世した人々は、インドでは2019年に230万人を超えた。
今年6月、カナダの山火事から出た煙でニューヨークの空はオレンジ色に染まった。非常事態宣言が出たマンハッタンの街を歩いていた私は、それでも空気質がムンバイとあまり変わらないと感じた。そして、(空気が澄むとされる)冬のデリーよりきれいだとも思った。
ムンバイの空気質はWHO(世界保健機関)が定める安全基準値の3〜10倍に達するのが通常だ。AQI(空気質指数)は300で、1日に11本のたばこを吸うのに等しい悪影響を人体に及ぼす。
汚染の現状
気候変動はすでに切迫した問題だが、アジアの人々は他のどの地域の人々よりもそれを肌で感じている。2021年、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラは、「世界で大気汚染が最もひどいワースト100の都市は全てアジアにある」と報道した。我々はゴミの山と隣り合わせで生活しているが、それらの大半は欧米から送られてきたものだ。では、どうすれば世界中のゴミを処理しながら、自分たちの国をきれいにできるのだろうか。
先週、クリーンクリエイティブスは化石燃料企業と取引をするアジアの広告・PR会社のリスト「アジアFリスト」を公表した。広告業界でよく知られる「Fリスト」のアジア版だ。その結果、2022年から23年にかけて100以上の取引案件が明らかになった。このリストはアジアの業界に警鐘を鳴らし、有効な気候変動対策を進める重要なきっかけになると考えている。
アジアが抱える問題
この数十年間、化石燃料の生産と消費が最も急速に伸びた地域はアジアだった。その結果、地理的特徴と社会経済的条件が多くの国々を危機的状況に追いやった。先進国と発展途上国の間で著しい違いはあるものの、それぞれの国土は次世代に継承されていく。そして、その国土は気候変動に対して極めて脆弱だ。
化石燃料は気候危機を生み出したが、多くのアジア諸国にとっては国の発展のプロセスでなくてはならないものであり、エネルギー戦略と密接に関わってきた。したがって化石燃料のキャンペーンに関わることは、アジアでは欧米のように汚名の象徴にならない。エージェンシーやPR会社の多くは、これまで制作した化石燃料企業のキャンペーンを堂々と世に誇示する。だがこうしたキャンペーンの多くは偽情報やグリーンウォッシングに基づくものであり、化石燃料企業は環境意識が高いという誤解を消費者に植え付けているに過ぎない。化石燃料企業はむしろ気候危機をエスカレートさせているのだ。
真実を隠すキャンペーン
「幻想」ではなく、真実を示すツールを業界に示そう。そうした思いで我々はアジアの11の国と地域 −− 香港、インド、インドネシア、日本、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、韓国、タイ、ベトナム −− で化石燃料に関するキャンペーンの調査を実施した。
その結果、それらキャンペーンには2つの大きな特徴があることがわかった。1つは、消費者に化石燃料の購入を積極的に働きかけるもの。もう1つは、社会的に正しい行為を行っていると欺く意図的なグリーンウォッシングだ。
これらのキャンペーンは善意を装い、欺瞞に満ちている。例えばシェルやカルテックス(シェブロンの石油ブランド)、デンコ(Denko、ミャンマー)は消費者に賞金や賞品を用意し、購買意欲を煽る。利益を分配し、消費者にさも特別な地位を与えるかのような策略で欺瞞を覆い隠すのだ。
気候危機の「首謀者たち」はナラティブ(物語)を巧みに使い、汚染を広めている責任に一切向き合おうとしない。PTT社(タイ)は「生物多様性の促進」を公言して植樹活動を行いつつ、原油を流出させて生態系を破壊している。アダニ(Adani、インド)は「CO2排出量を減らそう」と消費者に呼びかけ、気候変動の責任を個人に転嫁しようとしている。その裏で、化石燃料への投資を強化する。アジアの化石燃料企業はキャンペーンで真実を隠し、偽情報の拡散に余念がないのだ。
早急な行動を
広告エージェンシーやクリエイティブにたとえ善意があっても、これら企業と協働していては偽情報拡散の「共謀者」になってしまう。化石燃料企業は気候変動など意に介さず、汚染を広げているのが実情だ。だからこそ彼らとの協働を拒むことで、広告業界は明確な意思表示ができる。
化石燃料のキャンペーンは止めなければならない。気候変動対策はアジアでも本格化しつつある。広告業界も一致団結し、地域に適したソリューションを見出し、模範を示していかねばならない。今回の我々のリストがきっかけとなり、業界が良い方向に変わっていくことを希望してやまない。
ナヤンタラ・ダッタ氏はグローバルネットワーク「クリーン・クリエイティブス」の調査ディレクター。同団体は、気候変動を憂慮し、化石燃料企業との仕事を拒否しようという広告業界の人々をサポートしている。
(文:ナヤンタラ・ダッタ 翻訳・編集:水野龍哉)