日本産品の進出を阻む、言葉の障壁
日本酒などの伝統文化を世界に発信する活動を行う中田英寿氏。基調講演では、「海外の消費者は日本語のラベルが読めないので、銘柄で選ぶ意識が低い」「高価格のワインやシャンパンを扱う欧州のレストランには、低価格の日本酒がフィットしなかった」といったこれまでの課題を挙げ、「日本酒の飲み手と作り手がつながるプラットフォームを作り、世界に日本酒の素晴らしさを伝えていきたい」と述べた。また、GMOインターネット代表取締役会長兼社長の熊谷正寿氏は、「日本では中途半端にやっていける市場が存在しています。co.jp ドメインは4.8%しか他言語化されていませんが、今後のビジネスに多言語化は欠かせません」と指摘した。
LGBT市場とどう向き合うか
総人口の5~10%とも言われるLGBTをターゲットとした市場に関するパネル。「いきなり商品開発から入るのではなく、LGBTの人々のことをよく勉強してからメッセージを送らなければ、当事者には響きません。こうした取り組みを始めた企業にLGBTの人々が関心を寄せている今こそ、少しずつ着実にチャレンジしていってほしい」と語るのは、当事者としてマーケティング的視点のサポートを行うLGBT総合研究所代表取締役社長の森永貴彦氏。企業側の取り組みとして、保険受取人に同性パートナーも可能としたライフネット生命保険マーケティング部長の岩田慎一氏は、「当事者との対話が何よりも大切です。有志の勉強会から始め、このサービスの発足まで2年半かかりましたが、反響の大きさから、いかに必要とされていたのかということを実感しました」と語った。
AIがマーケティングにもたらすもの
ヤフーのチーフストラテジーオフィサーである安宅和人氏は、「人工知能(AI)の活用によって、これまで見えなかったロングテールのデータがリアルタイムで見られるようになり、デジタルマーケティングに応用されています」と述べ、「AIは、実は新しくない。検索広告などでずっと使われている技術です」とも。また、東京大学の大澤幸生教授は、「AIそのものはあまり役に立たないということが、理論上わかってきました。しかし、データを組み合わせて応用すれば、時系列の分析、異常値の検出、チャンス発見のためのデータ分析などが可能となります。例えば、市場データと会議のコミュニケーションデータを分析すれば、今後のマーケティングチャンスの発見などに生かせるでしょう」と語った。さらに、Cerevo代表取締役CEOの岩佐琢磨氏はIoTに関連して、「データは大きくないといけない、というわけではありません。コンパクトデータでも重要な知識を学習する技術がある」と言及した。
日本のスポーツの未来
アドテック初となるスポーツに関するパネルでは、日本女子プロ野球機構事業理事の石井宏司氏がこのように発言。「日本には今、世界から投資が集まりつつあります。日本のスポーツの未来は、この機会をうまく捉えられるかどうかにかかっている」。さらに、「グローバル戦略を考えたとき、女性プロスポーツは世界で起きている女性解放の潮流と連動して、さらに伸びるでしょう」と熱く語り、JICAが発展途上国で指導を続ける野球が現地女性の学力向上につながっていることに言及した。また、パシフィックリーグマーケティングの根岸友喜氏は、「今は変革のとき。コンテンツホルダーも広告主も、『意志』を持つことが何よりも重要」と述べ、欧米型コンテンツビジネスの可能性を示唆した。
(文:土山美咲 編集:水野龍哉)