Matthew Keegan
2022年5月27日

コロナ禍で減少した間接費の再増加に、エージェンシーはどう対応すべきか?

出国規制が緩和され、オフィス再開計画も進み、エージェンシーの間接コストはコロナ禍の前に戻りつつある。このことが、エージェンシーの収益や職場文化にとって何を意味するのか探っていく

コロナ禍で減少した間接費の再増加に、エージェンシーはどう対応すべきか?

通勤が不要になってお金と時間の両方を節約できたことは、パンデミック中、在宅勤務をしていた人々にとっては間違いなくメリットだった。しかし節約できたのは、従業員だけではなく、企業も同じだ。例えばグーグルは、従業員が自宅で仕事をするようになったことで、出張、交際、販促費のほか、オフィス内で従業員に提供していた特典などのコストも減少し、1年間に10億ドル(約1270億円)も経費を節約できた。

また、広告エージェンシーもパンデミック中に収益を急増させており、中にはここ数年で最大の利益を記録したところもある。「パンデミック中のコスト低減は、エージェンシーに大きな利益をもたらしている」と、トリニティP3のCEO、ダレン・ウーリー氏は指摘する。「上場企業である持株会社は、業績に対するプレッシャーを受けているため、削減されたコストは基本的にそのまま利益に還元されるからだ」

だが、パンデミックからの脱却とオフィス再開計画が進むなかで、エージェンシーの間接費はパンデミック前のレベルにまで戻るのだろうか?

マッキャン・ワールドグループ日本法人のCEOで、APAC(アジア太平洋地域)のCFOも務めるジー・ワトソン氏は「当社の間接費はこれから増えるだろう。しかし、すぐにパンデミック前のレベルに戻ることはない」と話す。

ワトソン氏によると、マッキャンの場合、この2年間で最も減少したコストは交通費と交際費だったという。多くの市場で、都市のロックダウンや厳しい国境規制が行われたからだ。だが、数カ月前から出国規制が緩和されたことで、出張が再開され、以前よりコストがかかるようになった。

左:ジー・ワトソン氏、右上:ダレン・ウーリー氏、右下:ミシェル・デ・ライク氏

「フライトとホテルが限定され、コロナ関連の検査もあり、出張費は大幅に増えている」と、ワトソン氏は話す。「さらに、世界的な雇用トレンド(大離職時代)のなかで、当社の離職率も上がっている。そのため、今後は採用コストと人件費の両方に上昇が見られるだろう」

BBDOの場合、影響は今のところ最小限にとどまっている。「私たちはそれほど大きな変化を感じていないが、最も大きな間接コストは、オフィスの賃貸料とその関連費用になると思う」と、同社でアジアおよび日本のCFOを務めるスー・シオン・ケオイ氏は話す。「だが、パンデミックに見舞われてから半年後、傘下の多くのエージェンシーがオフィススペースを縮小した。在宅勤務に慣れた人も多いので、ハイブリッドワークがますます一般的になり、その結果オフィスとその関連費用は今より減るかもしれない」

出張費と交際費は元に戻るか

当然ながら、ホテルや航空会社のクライアントは、広告業界の支出がパンデミック前の水準に回復するか、さらに増えることを望んでいる。だが、パンデミック後の出張が、これまでと同じかそれ以上に増えることはあるのだろうか?

「私の見解では、出張がパンデミック前のレベルに戻るには、あと2年ほどかかる。しかし、出張のない2年間を経て、そろそろ対面での面会が必要になっているのは間違いない」とケオイ氏は言う。「ただし、出張はより厳選されるようになるだろう。すでに多くのエージェンシーが承認プロセスを導入しており、必要不可欠な出張だけが行われるようになっている」

今年のカンヌライオンズに先立って発表されたあるレポートによると、企業のCMOの多くは、インフレや新型コロナウイルス感染症に対する健康上の懸念、そしてウクライナ戦争等を考慮して、特に欧州で開かれる業界イベントへの参加については、見直しを進めているようだ。

「市場が開放され、出張がクライアントやエージェンシーにとって再び日常になるにつれ、仕事に関連した出張も増えてくるだろう」と、トリニティP3のウーリー氏は予想する。

「しかし、パンデミックもビデオ会議もすでに幅広く受け入れられ、もはや日常となっている。そのため、特に大規模な業界イベントでは、多くの企業が対面での参加に以前よりはるかに慎重になっており、そのことが、複数のレポートでも示されている」
― トリニティP3 ダレン・ウーリー氏

パンデミック前は、出張費だけでなく、従業員への特典や接待費も間接コストのかなりの割合を占めていた。リモートワークやハイブリッドワークが一般的となった現在でも、オフィスでの特典を復活させなければ、人材の引き留めや新しい人材の獲得に影響が及ぶのだろうか?

「クリエイティブなテック企業では、オフィスが依然として非常に重要な役割を果たしている。当社では、『ランチを兼ねた勉強会』など、チームビルディングやビジネスコラボレーションに役立つ、さまざまなイベントや機会を復活させようとしている」と、メディアモンクスでAPACのCEOを務めるミシェル・デ・ライク氏は語る。「私たちは、チームをまとめて文化を生み出す必要がある。パンデミック中に入社して仕事を始めたが、まだ何も文化を感じられていない状況を想像してみてほしい。若い人材にとっては、自分も企業文化の一部だと感じられることが極めて重要なことなのだ」

一方で、オフィス再開に消極的なエージェンシーでも、何らかの形で社員への特典を設けることは可能だと考えている。

「パンデミック以前の時代にあった特典は一部変わるかもしれないが、ハイブリッドワークモデルが続けば、新たな特典が生まれるのは必然だ」と、ケオイ氏は予想する。「エージェンシーが既存社員を引き留めたり新しい人材を獲得したりするには、彼らが仕事環境に何を求めているのかを理解し、現在のニーズにふさわしい特典を提供することが必要だと思う」

新たに加わるパンデミック関連のコスト

その一方で、パンデミックへの対応や、脱パンデミックのために、新たなコストが加わる可能性もある。このコストに対するエージェンシーの備えは十分だろうか?

「中国を除けば、APACにある当社のオフィスの大半は、ハイブリッドワークモデルでオフィスを再開している。そのため、新たなオフィス要件に対応するため、オフィススペースを改装し、オフィス設備等への追加投資を行う必要が生じるかもしれない」と、マッキャンのワトソン氏は懸念する。

「また、ワクチン、清掃・洗浄用品、マスク、検温システムなど、すべてのスタッフに安全な職場環境を提供するための追加コストも発生する」

トリニティP3のウーリー氏は、エージェンシーの人件費や間接費は増加すると予測している。しかし、エージェンシーの手数料を引き下げるための競争入札が採用されており、どうすれば管理部門はこうした経費を抑制できるだろうか?

「過去10年以上にわたって、クライアントとの手数料交渉が、エージェンシーの間接コストを圧迫し続けてきたという事実を改めて認識することも重要だ。つまり、多くの市場で経験されているようなインフレに直面し、手数料が増加した場合にのみ、初めてこうした間接経費の増加にも向き合うことができるだろう」と、ウーリー氏は言う。

ただし、ポジティブな面もある。一部のエージェンシーは、パンデミック中に節約した資金を、従業員のために他の分野に再投資している。「全体的に見れば、パンデミックによって間接コストは減少していると思う」とケオイ氏は語る。

「(パンデミックに関連して)節約できた資金の一部が、他の領域、例えば従業員のウェルビーイングなどに再投資されている。メンタルヘルスのセッションを行ったり、医療保障を理学療法にまで広げたりといったことだ」
― BBDO スー・シオン・ケオイ氏

メディアモンクスのデ・ライク氏も、パンデミック中に節約できた資金を人材に再投資する機会がもたらされたと考えている。

「間接コストは、何らかの形でパンデミック前のレベルに戻るだろうが、当社は、スタッフのオフィス体験を見直し、節約で生まれた資金の再投資先を再考するという貴重な機会を得ることになった。企業ができる最善策は、この2年間の教訓に学び、それを従業員にとって最良の方向へ活かしていくことだ」と、デ・ライク氏は語った。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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