Matthew Keegan
3 日前

クリエイティブの人材採用に、履歴書は必要か?

従来の採用方法に固執するエージェンシーは、デジタルネイティブの多様な人材プールを引き付けることができていない。現代のニーズに適応するため、広告業界の採用慣行はどの程度進化しているのだろうか。

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* 自動翻訳した記事に、編集を加えています。
 
広告業界は文化の最先端を走り、その状態を維持するために人材に頼る業界であるにもかかわらず、人材採用の多くの慣行が過去の形から抜け出せていないのは驚くべきことだ。

私たちが慣れ親しんできた履歴書が普及したのは1930年代だった。しかし今は2024年で、ほとんど全てのものが以前とはすっかり変化した。それにもかかわらず、昔ながらの「履歴書」は依然として応募者と雇用主の最初の接点として頻繁に使用されている。

しかし、状況はゆっくりと変わりつつあるのかもしれない。例えばホガース(Hogarth)は、従来の採用方法を根本から変えるというミッションを掲げている。同社はザ・オリジナルズ(The Originals)というプログラムで、履歴書不要の教育インターンシップ制度を豪州で開始した。この有給インターンシップは経験よりも才能を重視しており、匿名の提出物によって純粋に創造性のみで審査される。課題は「TikTokを使って私たちにアボカドを売ってください」といったものかもしれない。

このプログラムを率いる同社の豪州担当コンテンツ戦略ディレクターのリリー・ロルッソ氏は、広告業界が競争力を維持するには採用方法の抜本的な見直しが必要だと述べる。

「社会やテクノロジーは非常に急速に変化しましたが、採用方法は必ずしもそれに追いついているわけではありません」とロルッソ氏。「ペースの速いコンテンツ制作やソーシャルメディア関連の場合、時代遅れの資格よりも才能の方が重要なことがほとんどです」。
 
 

また、多くのエージェンシーでは従来の採用方法に固執することで、デジタルネイティブの多様な人材プールを引き付けることができていないとも指摘する。

「新しいプラットフォームやトレンドでは、コンテンツの制作方法にまったく異なるアプローチが求められます。ブランドファーストでなくコミュニティーファーストで考える必要性がますます高まり、そのためには全く異なるタイプの才能の組み合わせを見つけてスキルアップさせる必要があるのです」。

ロルッソ氏は、従来の履歴書を中心としたアプローチを必要に応じて廃止し、スキルに基づく評価、オンラインでのポートフォリオレビュー、バーチャルチャレンジを導入することを支持している。

「つまり、ソーシャルメディアやオンラインコミュニティー、リモートファーストの採用活動など、応募者にふさわしい方法でつながるということです」と同氏は付け加える。

「ザ・オリジナルズの採用方法は、他のポジションでも確実に応用できるもので、採用チームと社内で検討しているところです。また、応募者の氏名や性別、出身校、その他のアイデンティティーの項目を削除する匿名採用などの取り組みもすでに実践しています」。

ホガースと同様に他のエージェンシーも、従来の履歴書では応募者の潜在能力や職務への適性を十分に把握できないことに気付いている。

「履歴書を完全に廃止したわけではありませんが、採用プロセスでは他の側面をより重視するようになりました」と語るのは、VCCPシンガポールのマネージングディレクターであるカティア・オボレンスキー氏だ。「私にとって、信頼できる情報源からのクチコミや推薦は非常に重要で、人柄や意欲、創造性を本当に理解するには直接会って話すのが一番です。これらの要素に重点を置くことで、書類上では必ずしも際立っていなくても、当社の環境で成長できる多様で興味深い人材を集めることができると確信しています」。

また、独立系クリエイティブエージェンシー「ブルフロッグ(Bullfrog)」でECDを務めるダニエル・スパークス氏は、履歴書は勤務先や勤務期間、身元照会を正式なものにするためにのみ必要だと述べる。

「採用に至るには、ポートフォリオと経験の組み合わせが重要」とスパークス氏。「時間をかけた面接は貴重です。応募者の能力や性格を見極めるのは難しく、じっくりと1時間半かけてお互いを知り合うことで内面をしっかりと把握できるのです。しかし、これを無償で依頼することはなく、応募者には報酬を支払います」。

才能は経験に勝る

職務への適性を示す指標として、履歴書、過去の経験、資格よりも適切な要素があると考えるのは、ロルッソ氏、オボレンスキー氏、スパークス氏だけではない。 TBWAメルボルンの最高クリエイティブ責任者であるポール・リアドン氏は、経験よりもクリエイターの才能や気質が重要な場合が多いことに気付いたという。

「私が採用してきた中で最も優秀な人材の一人は、広告業界で働いたことが全くない若いクリエイターでした」と同氏。「彼はファッション業界で働いたことがあり、アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)などのショーのデザインを手掛けていました。その2年後に彼は、カンヌライオンズでグランプリを含む7つの賞の獲得に貢献しました」。

重要なのはクリエイターの経験よりも才能や気質であることが多いと語る、ポール・リアドン氏(TBWAメルボルン 最高クリエイティブ責任者)。

破壊的創造には多様性が必要だと、リアドン氏は強く確信している。その観点で同氏が採用したアート部門の元責任者も素晴らしい人材だった。サンパウロ出身のブラジル人で、TBWAのクラフト&デザイン部門を率いるため豪州に到着したころは、ほとんど英語を話すことができなかったという。

「私にとって、彼が英語を話せなかったことは全く問題ではありませんでした」とリアドン氏。「創造性のビジュアルランゲージは普遍的です。彼の視覚作品の技術と力は誰の目にも明らかでした」。

彼は最終的にエージェンシー全体の、世界クラスの作品とはどのようなものであるべきかという考え方を変えることとなった。そして、TBWAに在籍した6年間のうち最初の数年間は、片言の英語で仕事をこなしていたという。

「彼はかつて私に、あらゆるリスクを承知で採用して豪州に連れてきたのは『クレイジーだ』と言ったことがあります」とリアドン氏。「正直なところ、リスクなど感じたことはありませんでした。文化的な障壁を誤って認識してしまったために彼の素晴らしい才能とリーダーシップを見逃すことの方が、よほど大きなリスクだったでしょう」。

TBWAメルボルンは現在、難民や避難民の雇用機会を見つける組織「タレントライズ(Talent RISE)」と提携している。

「このおかげで、ある若い男性と知り合うことができました。彼はTBWAで秘書を手伝うキャリアをスタートさせ、ツールの使い方をきちんと学び、シリントン(Shillington)のデザインコースを受講。その後、スタジオデザイナーの職に就く様子は、見ていて素晴らしいものでした」。

採用活動において、受賞歴は履歴書よりも重要か?

広告業界が得意とするものがあるならば、それはアワードだろう。この業界は自画自賛が大好きだ。この業界で働く人の数よりも多くの賞が授与されている可能性すらある。しかしカンヌライオンズやD&AD、The One Showで選ばれたことが、人材採用にどのような影響を与えるのだろうか? また、クリエイティブな人材を探す際に、受賞歴は履歴書よりも重要なのだろうか?

「受賞歴は有ればいいですが、素晴らしいアイデアがあることを証明するために賞を獲得する必要はありません」とスパークス氏は言う。「最高のアイデアが賞に応募されていないということも、広告業界の外にあることも多い。受賞作品の一部に関わっただけで、リーダーシップを発揮したわけではないというのも、よくあることです。どのようや役割を果たしたかについて話し合う方が、その人の能力を把握する上で良いことが多いのです」。

VCCPのオボレンスキー氏は、受賞歴は個人にとってもエージェンシーにとっても非常に重要だと考えている。しかし採用プロセスにおける広告賞の受賞歴は、扱いが難しいという。

「受賞歴や履歴書よりもポートフォリオの方が重要というのが、私の考えです」とオボレンスキー氏。「私にとってポートフォリオは、最も重要な情報を提供してくれる決め手となるものです。私がこれまでに見てきた中で最も印象的なポートフォリオや応募者の中には、受賞歴がほとんどない、あるいは全くない人もいました。それでも私は即座に採用を決めるでしょうし、実際にそうしたこともあります」。

才能を審査する上で、最も一般的なのはクリエイティブポートフォリオのようだが、ピュブリシス(Publicis)でアジア太平洋の最高人材責任者を務めるポーリー・グラント氏は、ポートフォリオ審査は主観的なプロセスになり得ると主張する。

「ポートフォリオは、その人の可能性を限定した見方でしか判断できません」とグラント氏。「適切な環境と適切なリーダーシップのもとで、その人がどのような成果を上げるかまでは示してくれません」。

また、ポートフォリオ審査に特有のデメリットも無視されがちだという。

「例えば、母親であることがクリエイティブ部門に与える影響は、業界全体で知られたテーマです。でも非常に才能のあるシニアクリエイターで、育児休業中に手掛けた最も重要な受賞作品をポートフォリオに載せていない人がいるという、厳しい現実があるのです」。

偏見を排除するためにポートフォリオ不要の採用を行っているエージェンシーもあると、グラント氏は聞いたことがあるという。

「豪州のアワードスクール(AWARD School)は、ポートフォリオから氏名と性別の項目を削除しました。それまでは女性が過小評価されていましたが、シニアレベルで男女比がより均等になったそうです。これは業界として、真に才能のある人材を見つけ出すには、まだ長い道のりがあることを示しています」。

採用担当者が応募者を選考する際の項目が、才能、過去の経験、履歴書、ポートフォリオ、受賞歴のいずれであったとしても、あまり取り上げられない重要な観点がある。それは、ECDが何を求めているのか、というものだ。

「採用担当者は、優秀な人材となり得る応募者の素晴らしいポートフォリオをよく私に送ってくれるのですが、私は断らなければなりません」とオボレンスキー氏。「才能や受賞歴が不足しているからではありません。現時点で私たちが求めている要素が欠けているからです」。

特にシニアレベルの人材の採用は、ニーズに基づいて行われるものが多い。

「特定の経験や経歴を持っている人材や、特定のタイプの顧客に対応できるスキルセットを持つ人材を主に探していることがほとんどです」とオボレンスキー氏。「そのニーズが最も重要なフィルターになることが多く、受賞歴は採用を決定する要素の一つに過ぎないのです」。

 

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