
メッセージムービー「技術篇」で、「WHAT WOWS YOU.」というスローガンのもとに描かれるのは、未来のある日、運転することを諦めていた老人がトヨタの自動運転技術を搭載した車によって再び人生の喜びを見出すというストーリーだ。
そして「ドライブの歓びをすべての人に」とナレーションが続く。言語や歴史、生活環境などの垣根をたやすく乗り越えるものとして、技術が描かれているのだ。
それ自体も素晴らしいことなのだが、自動車専門の英文ニュースサイト「Jalopnik」は別の点に着目する。このムービーの最も興味深い点は、主人公の老人が外国人であり、日本で家庭を持ち、老後を過ごしている点なのだという。確かに日本のCMでは、まだ珍しい設定だ。
日本の標準的な家庭像として、生粋の日本人ではない人たちを起用したこのキャスティングが「変わりゆく日本の顔」として、Jalopnikは注目しているという。果たして、深読みのしすぎなのだろうか? 瑣末なことのようにも見えるが、これまで単一民族国家であることを強調してきた日本で放映されたことの意味は大きいだろう。
また、このようなメッセージを発信するのが日本を代表する大企業であり、社会の変革を反映し、時には牽引するブランド、トヨタであるという点も興味深い。今後、人口減少に拍車がかかり、日本への移民の間口が広がれば、さまざまな民族的背景の人々が日本社会に根付く日が、やがて来るのかもしれない。
同時に、このようなメッセージを発信するにはリスクも伴う。例えば2年ほど前、食品会社Honey Maidが多様な家族の姿を紹介したCMシリーズ「This is Wholesome(これが健全/健康だ)」を展開。しかし拒否反応を示した人も少なくなかったという。インクルーシブネス(多様性の受容)を謳う米国ですら、このような状態なのだ。
Campaignの視点:メッセージの中に感動と社会的洞察を織り込んだトヨタの取り組みには、ブランディングを製品と同様に重視する企業姿勢が感じられる。また、自動車が道路を駆け抜けていくだけという、自動車CMのお決まりのパターンに飽き飽きしている視聴者の目には、面白いCMとして映るだろう。
(文:デイビッド・ブレッケン 編集:田崎亮子)