ブルーカレント・ストラテジー代表の永川芳仁氏(右)と、本田哲也氏 ブルーカレント・ジャパン(以下、ブルーカレント)といえば、商品そのものを売り込むのではなく、消費者に受け入れられやすいよう世論を作り出す「戦略PR」が、注目されるきっかけを作ったことで知られる。そんな同社が、戦略PRという手法にとどまらず、コミュニケーション全体の戦略策定を行う新組織、ブルーカレント・ストラテジー(以下、BCS)を設立したのはなぜか。
ブルーカレントは3年前より担当チームを立ち上げ、これまでに50を超えるブランド戦略、コミュニケーション戦略の策定に携わってきた。同社の代表取締役社長、本田哲也氏は「近年、戦略PRを求めるクライアントとの対話の中で、抜本となるブランド戦略の策定や、見直しが必要なケースが少なくないことを強く認識した」と語る。
そして、戦略関連の発注が増えるにつれニーズが明確になってきたことと、「PRのみの戦略」という印象をもたれがちだったため、別ブランドとして独立するに至ったという。 ブルーカレントが5月に実施した調査によると、「10年前に比べ、知らないブランドが増えた」と感じている人は6割にも及ぶという。生活者とネットの距離が縮まり情報への接触が増えたことや、ブランドの数が増えたこと、コモディティー化によって差別化が困難になったことなど、さまざまな理由が考えられる。 「戦略PRとコミュニケーション全体の戦略では、事業のレイヤーは異なる。それでもブランドマネジャーの抱えている悩みの根源は同じところにあると考えた」と、大手広告会社を経てブルーカレントに入社し、このたびBSC代表に就任した永川芳仁氏は話す。
コンテクストありき
BSCが戦略策定において重視しているのは、コンテクスト(文脈)作りだ。PRや広告といった手法にとらわれることなく、生活者とブランドとの関係性を中心に据える。
「生活者にとってそのブランドがどのように必要か気付いてもらい、買ってもらい、“これがあるといいよね”という気持ちになってもらうことが、ブランドへのロイヤリティーを高めていく」と永川氏。そのために大切なのは、「クライアントのアイデンティティや、何を届けたいのかを理解し、生活者の受容性やインサイトをしっかりとらえること」だという。
もう一点、同社が重視するのが、メディアニュートラルであることだ。「全体の戦略を当社が作ったからといって、PRも当社で、ということでなくてもいい」(永川氏)というくらいの覚悟を持ち、中立的な視点でコンテクストに合ったタッチポイントの戦略を策定していく。それも、コンシューマージャーニー(認知、購入、情報シェアまでの、生活者の態度変容フロー)を、クライアントのカテゴリーの特性ごとに設定する徹底ぶりだ。
「純粋に戦略策定のフィーだけで成り立たせようという試みなので前例は少なく、特に日本においては大きなチャレンジとなるだろう」と本田氏。「しかし、手段が多様化した今こそ、戦略の持つ価値を喚起することが業界にとって重要で、新組織のミッションだと考えている」
今月で設立から10周年を迎えるブルーカレントは、節目となる年にまた一つ、大きな挑戦に出る。
(文:田崎亮子)