Campaign Staff
2018年10月26日

世界マーケティング短信: 躍進するインドネシアブランド

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

小さなスタートアップ企業だったゴジェックは8年間で、インドネシアを代表するブランドの一つへと急成長を遂げた。(写真:Shutterstock)
小さなスタートアップ企業だったゴジェックは8年間で、インドネシアを代表するブランドの一つへと急成長を遂げた。(写真:Shutterstock)

高まるインドネシアブランドの価値

カンター・ミルウォード・ブラウンの調査「ブランドZ」の最新レポートによると、インドネシアのトップ50ブランドの価値は合計800億米ドル以上、昨年から13%増(これはGDP成長の2倍以上)であることが分かった。上位10ブランドが、ランキング全体のブランド価値の7割近くを占める。インドネシアブランドの中でのトップはバンク・セントラル・アジア(BCA)で、同国ブランドがグローバル・トップ100にランクインしたのはこれが初めて。同国ブランドのトップ10の多くは銀行やたばこ会社だが、ジャカルタの交通渋滞の緩和を目指す革新的なバイクタクシー配車サービス「ゴジェック(Go-Jek)」もランクインした。

ニュースの視点:
インドネシア市場は徐々に成熟している。BCAがグローバルランキング入りしたことは、新興市場からも独自の強いブランドが生み出されることを証明している。新ビジネスであるゴジェックの快挙は、実用的なサービスと、思慮に富むブランディング(例えばドライバー個々のストーリー紹介など)の賜物だ。市場のますますの成熟化や、既存事業の売上鈍化、そして差別化への投資の必要性を痛感する企業が増えるにつれ、今後トップブランドの業種は多様化が進むだろう。

WPPの売上減少、CEOは「適応力のなさ」を指摘

WPPの第3四半期の売上が1.5%減少し、過去5四半期で最悪となった。アジア太平洋地域や南米の売上は2.4%伸びたが、北米では5.3%、英国で2%、西欧で0.4%の減少。それとは対照的に、インターパブリック・グループ(IPG)は同期5.4%の増収を発表した。WPPは報告書の中でリサーチ会社のカンター(Kanter)を売却するとしているが、株の保有は続けるという。9月にCEOに就任したマーク・リード氏は、状況を好転させるために「断固とした行動と斬新な発想が必要」とコメント。「我が社は適応に時間がかかる。構造があまりにも複雑で、重要な分野への投資も不十分だ」。

ニュースの視点:
広告業界全体が直面する課題に加え、WPPには取り組むべき独自の課題がある。この結果を受け、ロンドンのリブラム・キャピタル社でアナリストを務めるイアン・ウィテカー氏は「WPP幹部は非常に憂慮している」とコメント。「問題の根幹はマージンの小さいクリエイティブ分野にあるのではなく、マージンの大きなメディアバイイングにあるのです」。逆にリード氏は、「クリエイティブエージェンシーの売上が悪化している」と指摘。業績回復のために今後同社がどのような対策を優先させるのか、興味深いところだ。

フェイスブック、欧州で大幅なユーザー減

フェイスブック社の四半期決算発表を来週に控え、同社が今期中に300万人のユーザーを失った可能性があると、モルガン・スタンレーが推計した。考えられる原因の一つは、GDPR(一般データ保護規制)。4月 から施行されたGDPRによってフェイスブック社は、同社サービスを今後も使いたい場合は個人情報収集について合意する必要があると、数百万人ものユーザーに問わねばならなくなったためだ。

ニュースの視点:
GDPR施行は今後もさまざまな企業にとって頭痛の種となるだろう。だが、一般ユーザーが自分自身の個人データをよりコントロールできるようにする流れに、反論の余地は無い。フェイスブックのようなプラットフォームは、サービスを利用し続けることのメリットを明確に示す必要がある。増え続けるユーザーにとって、自分たちのデータが不正に利用されるリスクを負うことについての説得性が、あまりにも欠ける。

不正広告対策で、広告主に第三者機関の監査を義務付け

英国では、ウェブ標準化のための共同産業委員会(JICWEBS)に加盟する広告主は来年から、独立機関による監査を実施する必要がある。委員会が目指すのは広告詐欺の防止と、デジタル広告取引の透明性の達成、そして業界の自浄能力を示すことだ。既に米国でも、同様の対策がとられている。

ニュースの視点:
広告に投じた予算の使途を明確にしたい広告主にとって、独立機関による監査は必要だ。透明性の確保にはブロックチェーン技術の活用も期待されるが、幅広い適用にはまだ時間を要する。監査は現時点でとり得る堅実な手法であり、それは日本にとっても同様だろう。日本ではまだソニーなど一部の企業しか、デジタルメディアへの全面監査を実施していない。

禁煙を奨励する、たばこ会社

フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)が「Hold My Light」と題するキャンペーンを英国で開始した。「喫煙者の友人に禁煙の手助けをしよう」と呼びかけるもので、映画「ミッション:インポッシブル」を思わせる動画と新聞広告を使っての展開。一見善意に基づく広告のように思えるが、反喫煙団体からは強い非難の声が上がった。「たばこの宣伝が禁止されている国で社名を喧伝する卑劣なやり方」「PMIはたばこの宣伝が法的に許可されている国では宣伝を行っており、偽善的な行為」という意見が出ている。

ニュースの視点:
たばこへの規制が強まり、たばこ会社は「社会的責任」のアピールに余念がないなか、この手の取り組みは業界内で今後増えていくだろう。たばこ会社は当然ながら、消費者にたばこを買い続けて欲しいと考えている。だがたばこへの風当たりは強まり、たばこ会社は消費者に「健康により害のない」製品に切り替えさせようと画策する。今週、PMIはアイコス(IQOS)の新製品2種類を日本から世界に向けて発表した。同社は「世界をより良い場所に(make the world a better place)」とうたっている。その主張を消費者に真剣に受け取って欲しいのであれば、通常のたばこの宣伝は全面的に廃止すべきだろう。いまだにその実現は程遠いようだが……。カンター・ミルウォード・ブラウンが行った調査レポート「ブランドZ」によれば、インドネシア(たばこに対して比較的寛大な市場)で最も価値の高いブランド、トップ10のうち上位4社がたばこ会社だった。これは偶然の結果ではないのだ。

今週のその他のニュース:
英・チャイム(Chime)社傘下の広告及びコミュニケーションエージェンシー「VCCP」がシンガポールにオフィスを構え、アジアに進出を果たした。同社の主要クライアントはロイヤル・ダッチ・シェル。また中国では、WPP上海支社のすぐ外で起きた激しいやりとりを記録した動画がソーシャルメディアで流布している。動画では何人かの女性が、あるプログラマティックバイイング・エージェントに対して支払いをしていないと、グループエム(GroupM)中国支社のCIO(最高投資責任者)を激しく非難。「あなたは人の亭主を死に追いやったんだ!」「人間にはモラルがあるのよ!」と叫ぶ様子が映し出されている。この件に関して、グループエムは公式声明を用意している模様だ。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子、水野龍哉)

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