食品と飲料の好みが変化
日本のトップ100ブランドの調査結果から明確になる傾向の一つに、消費者の食品&飲料ブランドの好みの変化がある。確かに明治(総合3位)、サントリー(5位)、森永(6位)といった乳製品・飲料の国内大手への支持は厚く、今年も上位に入った。だが10位以降では、様子が変わってくる。日清食品(昨年11位→今年12位)、ポカリスエット(36位→37位)、カルビー(39位→40位)、キッコーマン(48→49位)、サッポロビール(85位→86位)はそれぞれ順位を1つ、ドトール(68位→72位)とカゴメ(94位→98位)は4つ下げた。アヲハタ(31位→43位)、湖池屋(56位→68位)、キリン(70位→87位)、伊藤園(65位→90位)は大幅に順位を下げている。
食品・飲料ブランドの中で順位を上げたのはアサヒビール(32位→31位)とグリコ(54位→53位)が1つ、マルハニチロ(100位→97位)も4つ上げている。外資系ブランドでは、コカ・コーラ(18位→16位)、ネスレ(26位→22位)、リプトン(83位→80位)などが順位を上げた。マクドナルド(58位→47位)は11つ上がり、トップ50にランクインした。
多国籍企業のマーケティングの強み
日本のトップ100を分析した記事でも指摘したように、重要な要因となるのは資金力だ。上述したアヲハタ、キッコーマン、湖池屋といった日本のブランドはマスキャンペーン、特にテレビCMにあまり予算を投下していない――このように指摘するのは、電通 ソリューション開発センターの緒方玲子氏だ。日清食品(2019年には大坂なおみ選手を起用した広告が「白人化」して描いたとして論争が起きた)やポカリスエットはこの1年間、強力なデジタルマーケティング策を展開してきたが、ターゲットが絞られていたため、幅広い層から視聴された訳ではない。
「コカ・コーラやマクドナルドなど多国籍ブランドは、最近広告への支出が最も多い企業です」と緒方氏。特にコカ・コーラは、東京2020オリンピック聖火リレーのプレゼンティングパートナーとしての地位を活かし、国内での知名度向上のため、開催が延期される中で宣伝に重点を置いている。(下の動画は、同社のオリンピック関連CMをまとめたもの)
グローバルな食品会社は、規模の効率性の高さを活かした、製品のより良い価格での生産、流通、販売も可能だ。これは日本経済が苦境に立たされる中で、コスト意識が高い日本の消費者にとって優先順位が高い項目である。
多国籍企業は規模や広告予算の大きさだけでなく、マーケティングスキルそのものも優れていると考えられる。ウルトラスーパーニューのディレクター、村上智一氏によると、キッコーマンのようなブランドは世界中で知られており、日清食品やポカリスエットは東南アジアで存在感を強く印象付けていが、他の大多数のブランドはそうではなく、戦略的に販売する上で妨げとなっている可能性があるという。「コカ・コーラ、ネスレ、マクドナルド、リプトンには、これまで世界中の市場を攻略してきた中で、豊富な知識を得てきました。これらのブランドは、日本のブランドよりも優れたマーケティング策を展開していると思います」。日本ブランドは今も、製品の品質やパッケージデザインについては優位を保っていると村上氏は語る。「でもマーケティングの面では、これらのグローバル勢がはるか先を行っています」
好みの変化への適応
世界規模でマーケティングを展開してきた経験は、食品・飲料ブランドをさまざまな面から支えている。まず、ローカルの市場に合わせて適応してきた経験が豊富なため、変化に慣れている。マクドナルドを例に挙げると、大野智(嵐)などの著名人を起用し、日本に合わせたメニューを展開するなど、日本のカルチャーをマーケティングに継続的に取り入れている。夕食にお米を食べたいというニーズに応え、今年2月からはごはんバーガーも発売した。「消費者は、日本にやってきたアメリカのブランドとは感じていません。同社は最近、地元のレストランのように振る舞っています」
日本のブランドが、革新や適応を実践していないわけではない。日本では季節限定の商品が高く評価されるため、日本の食品ブランドは新しい味やレシピを頻繁に発表している点に、複数のオブザーバーたちが言及する。実際のところ、熟慮されていない商品があまりにも頻繁に発表されることもある。カルビーや日清食品などのパッケージ食品メーカーは「すぐに店頭から消えそうなクレイジーな新フレーバーを、次から次へと“新発売”するのはやめた方が良い」と、ゆず兄弟の創設者&共同CEOであるマーカス・ウィンター氏は感じているという。
グレイワールドワイドの代表取締役兼CEO、落合由紀子氏もこれに賛同する。「日本のメーカーも新フレーバーやレシピを頻繁にアップデートしています。しかし、凍らせたコカ・コーラや塩レモン味のフレーバーウォーターを発売したコカ・コーラ社のように、季節限定商品の発売でめざましい成功を収めたのは多国籍企業です」
もう一点、多国籍食品会社が戦略的に有利なのは、さまざまな市場で商品を販売していることを活かし、新しい味を投入できることだ。最近は、新しい味が歓迎される傾向にあると落合氏は語る。
「日本の消費者は、海外からもたらされた新しい味を、より積極的に受け入れるようになっています。新しいスパイスやメニューが、パッケージ食品の領域でも次々発表されています。タイ料理、メキシコ料理、インド料理、モロッコ料理、トルコ料理、その他さまざまな国の料理が入手可能になり、人気を集めています。マクドナルドやドミノ・ピザのように、この新しい潮流を予測してメニューを開発し、国際的に事業展開する強みを活かしたブランドは、ファストフード市場で急成長しました」
指摘されたように、トップ100以内にランクインした日本のファストフードブランドは、マクドナルドのように昨年より順位を11つ上げたサイゼリヤ(99位→88位)のみだった。スパゲティやピザなどを低価格で提供するサイゼリヤは、全国各地に店舗展開をしている。また最近は、マスクと紙ナプキンを組み合わせ、食事中も感染リスクを抑えられる食事用マスク(下の写真)を開発し、発明のセンスを披露した。
変化するライフスタイル
社会の変化も、食品業界の再編に大きく貢献している。落合氏とウィンター氏によると、女性の就業率が高くなるにつれ、調理を簡単かつ便利にしてくれる製品への需要が高まり、冷凍食品や調理済み食品が受け入れられやすくなってきているという。ピカール(仏冷凍食品専門店)がイオンとの提携を2016年に発表した後、冷凍食品のカテゴリー自体が力強く成長していると、ウィンター氏は述べる。
「しかし、家族に健康的で高品質な、バランスの取れた食事を提供するというコアバリューは変わっていません」と落合氏。
ライフスタイルの変化を理解し、衛生的で安全な食品を提供できる味の素のような企業が、業界を牽引し続けることができると考えている。
食費を増やすことなく健康的な食事をとりたいという需要が高まっており、このニーズに応えることができる企業は成功する可能性が非常に高いと、スベン・パリス氏(ゆず兄弟 創設者&共同CEO)は示唆する。成功例として挙げたのは、健康的な食材を便利に届けるオイシックスや、新鮮な野菜や果物をお値打ち価格で提供する旬八青果店。これらの会社は、軽微な傷や不ぞろいな形などといった理由でスーパーマーケットでは流通しない商品を、手ごろな価格で販売しており、「素晴らしいビジネスモデルです」とパリス氏は称賛する。
(文:ロバート・サワツキー、翻訳・編集:田崎亮子)