テクノロジーを起点とした新しい表現開発に取り組む制作集団「電通ラボ東京」が、MI( = Machine Intelligence、機械知能)を応用し、ブライアン・イーノ氏が4月にリリースした最新アルバム「The Ship」のタイトルトラック用ミュージックビデオを制作した。電通は、AI(人工知能)とMIという言葉を区別して用いている。
この映像作品、いわゆるミュージックビデオとは趣が異なる。プロジェクトを手がけた木田東吾氏曰く、「唯一無二のジェネレーティブ・フィルム」、すなわち見るたびに映像が変化するのだ。イーノ氏によればこのアルバム、特にタイトルトラックのコンセプトは、繰り返される歴史における「奢りとパラノイアの微妙なバランスの表現」。木田氏は一般的名称のAIではなくMIと呼ぶ理由について、「人間とテクノロジーとの間の緊張関係や、テクノロジーの洗練化、すなわちマシンラーニングの進化を強調することを意図しています」と語る。
この作品は21分間の曲に合わせ、100年前から今日に至るまでの様々な出来事の映像がインターネット上から自動的に選ばれて、刻々と変化するコラージュとなって展開される。MIはそれらの工程を司り、「人間では思いつかない方法で人類の記憶と現代社会の出来事をつなぎ合わせている」と木田氏。「歴史の中で何度も同じことを繰り返す人間の性(さが)を表現しています」。
意外なのが、この作品は携帯端末向けに最適化されておらず、視聴のためにWindowsやMac OS Xが想定されていること。木田氏は「映像がモバイルフォーマットに適さないので、プラットフォームをパソコンに制限した」と言うが、「物理的なインストールへの拡張を妨げるような理由はありません」とも。「今後も様々なプロジェクトをイーノ氏と共に手がけていきたいと考えています」。
Campaignの視点:非常に好奇心をかき立てられるアイデアだ。作品自体の娯楽性は必ずしも高くないが、深く考えさせられる側面がある。実験的かつ型にはまらないという点では、音楽との相性も良い。AI、あるいはMI(その呼び方はさておき)は、将来のマーケティングに必ず大きな影響をもたらす。ただし今の開発段階では、広告というよりむしろアートと定義すべきこの作品のように、抽象的なものを生成するのに適していると言えるだろう。
(文:(デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)