David Blecken
2019年5月31日

アドバタイジングウィーク・アジア:スポーツコンテンツへの提言

東京で開かれた今年のアドバタイジングウィーク・アジア。スポーツ関連のセッションでは、スポンサーシップの効率化がテーマとなった。鍵となるのはブランドの包摂性と適応性、そしてコストへの発想だ。

(左より)富士通マーケティング戦略本部の本多達也氏、スノーボーダーの成田緑夢氏、TBWA HAKUHODOの浅井雅也氏
(左より)富士通マーケティング戦略本部の本多達也氏、スノーボーダーの成田緑夢氏、TBWA HAKUHODOの浅井雅也氏

パラリンピックの「情緒的価値」を見逃すな

「パラリンピックには五輪よりも強い感情を観客に呼び起こす力がある」 −− こう語ったのは、平昌冬季パラリンピックのスノーボードで金メダルを獲得した成田緑夢氏だ。

同氏はトランポリンの練習中の事故で左膝下に麻痺を負った。健常者の頃は「パラリンピックをレベルの低い大会」と見ていたが、自分が参加するようになって意識が変わったという。「観客の感情移入の激しさに感銘を受けた。アスリートと観客の距離感の近さは、五輪とは比較になりません」。

その一方で、「日本ではパラリンピックに対する関心が極めて低い」と話したのはTBWA HAKUHODOのグループ・クリエイティブ・ディレクター、浅井雅也氏。「前回のパラリンピックを観戦した人々は人口の1%にすぎません」。

「競技の質において五輪とパラリンピックとでは全く差異はない。日本の人々はパラリンピックに対する見方を変えてほしい」と成田氏。そしてマーケターに対し、独特のメッセージを繰り返した。「五輪は結果が全て。しかしパラリンピックで最も大切な要素は感動なのです」。

「パラリンピアンは人々に勇気を与える。この点こそ、ブランドにとってのパラリンピックの最大の魅力です」

スポーツ関連コンテンツの「修正」

動画広告配信プラットフォーム「アンルーリー(Unruly)」とソーシャルビデオスタジオ「ブレイブ・バイソン(Brave Bison)」は、異なる市場のオーディエンスに向けてスポーツコンテンツをどのように活用すべきかをディベートした。例として挙げられたのは、イングランドとニュージーランドのラグビー代表チーム主将のパーソナルなストーリーを紹介した米オーディオ機器ブランド「ビーツ(Beats)」のキャンペーンだ。

アンルーリーのアジア太平洋担当COO、フィル・タウネンド氏は「8カ国でのキャンペーンの成果を分析し、そこから多くのことを学んだ」と話した。まず「極めて重要なのが、考え抜いたターゲティング」。ラグビーがトップスポーツであるニュージーランドではマスオーディエンスに訴求できたが、サッカーやクリケットより人気が劣る英国では同様の効果がなかったという。

次に、「微妙な文化的差異がオーディエンスのコンテンツの受け止め方に影響を及ぼす」。このキャンペーンは個人主義的傾向が強いとされる国では効果を発揮した。だが日本のように集団主義的な国では、「主将個人よりもチームにスポットを当てる方がいいでしょう」。

また、「ブランドは各五輪を総括する情緒的テーマを活用するべき」。曰く、ロンドン大会は「インスピレーション」、リオ大会は「高揚」。「今年のラグビーW杯と来年の東京五輪のテーマは、データが示すところによれば『プライド』です」。

さらに、「商品が短期間に売上げを伸ばすこととブランド価値は別物」とも。英国で行われた調査研究に言及し、「短期的に売上げが伸びる現象は、しばしばネガティブな側面と関わりがある。その反対に、『驚き』などポジティブなものは長期的利益につながることが多いのです」。

「ホスピタリティー」のコスト

「ブランド構築を目的としたスポーツイベントで、日本企業はコーポレートホスピタリティーの可能性をまだ十分に理解していない」と語ったのは、CSM傘下のイベントエージェンシー「iLUKA」のディレクター、山口克之氏だ。

特に「ブランドはスポンサーシップを決めた後、必要な予算を低く見積もっているケースが多い」とも。

「ホスピタリティーを実行する際には、十分な予備費が必要です。スポーツスポンサーシップは巨大なビルを買って、多くのテナントを呼び込むようなもの。ただビルを買うだけでは不十分です。ビルの中に優れた環境や設備、利便性、機能といったさまざまな要素を揃えなければなりません」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

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Campaign Japan

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