Sonal Patel
2021年9月03日

エージェンシーは、ここから何処へ向かうのか?

今、エージェンシーに必要なのは、オーディエンスの微妙な違いを理解し、その差異をROI向上に活かす方法を提示してくれるプラットフォームに注目することだと、クワントキャスト(Quantcast)の東南アジア担当マネージングディレクターは述べている。

エージェンシーは、ここから何処へ向かうのか?

広告の歴史は古代文明までさかのぼることができ、古代エジプト人がパピルスに宣伝文句を書いたのが起源だとされている。しかし、現在のようなエージェンシーが誕生したのは1800年代に入ってからで、最初のエージェンシーは、ボルニー・B・パーマーによって設立された。そしてそれを、現代広告の父として広く知られるアルバート・D・ラスカーらが発展させていった。

それから100年以上が過ぎ、今もエージェンシーは繁栄を続けている。これからも人々がインターネットやその他の場所でコンテンツを消費する限り、広告は生き残り、それゆえエージェンシーも生き残るだろう。

しかし、エージェンシーモデルの未来には、業界の変化や、AIを含むテクノロジーの利用拡大といった試練が待ち受けている。

アテンションエコノミー(関心経済)における競争から、迫り来るCookieレス世界への対応や、厳格さを増すプライバシーとデータ利用に関する法規制(EUのGDPRタイシンガポールの個人データ保護法など)まで、現在のエージェンシー組織は変化の圧力に直面している。

データが主要な取引通貨となり、新しい法規制や市場制限の影響を受けやすくなると、この変化はさらに増幅される。つまり、消費者との1対1のつながりを求めるマーケターは、自社のファーストパーティデータを用い、商品を顧客に直接訴求することが増えていく。実際、データを活用し、そこからビジネス上の意思決定に必要なインサイトを得ている業界では、データ収集や活用方法に広範な変化がすでに起きている。そしてそれは他の業界でも、いずれ起きることだ。

内製化の台頭

広告の未来においては、データが重要な役割を担うことになるため、デジタル戦略をより細かく管理したいと望むブランドマーケターが広告のインハウス化(内製化)を考えるようになるのも当然だ。

例えば、英国の広告市場ではすでにインハウス化が拡大している。ロイズ・バンキング・グループ(LBG)や、マークス&スペンサー、ペプシコなど、広告やマーケティングの一部をインハウス化するブランドは増えてきている。

オーストラリアでは最近、オーストラリア郵便公社、オプタス(Optus)、スポーツベットアイオー(Sportsbet.io)といった同国の最大手ブランドらがインハウス・エージェンシー・カウンシルを設立した。インハウス化を実現し、社内チームにベストプラクティスを浸透させたいと考えるマーケターを支援することが目的だ。

世界広告主連盟(WFA)とオブザーバトリー・インターナショナルが発表した最新レポートによると、デジタル広告の増加に伴い、世界的にインハウス・エージェンシーが増加しており、それらの内74%が過去5年以内に立ち上げられたものだという。また、マーケターは、コスト効率(30%)、システム統合の推進(64%)、ブランド認知度の向上(59%)など、おおよそ想定される理由により内製化を推進していることがわかっている。

欧州やオセアニアでは、すでにインハウス化がトレンドとなっており、このような新しい仕事の仕方がアジアに拡大するのも時間の問題だ。

未来のエージェンシーの姿は

広告やクリエイティブを扱うエージェンシーの業績は、いつの時代もマーケターの役に立つかどうかにかかっていた。筆者はエージェンシーで働いたことがあり、エージェンシーがクライアントのためにどれほど努力しているか、価値交換が平等でないことがどれほど多いかをじかに体験してきた。

エージェンシーのビジネスモデル自体も脅威にさらされている。時間単位の請求ではなく、バリューベースの価格設定を好む広告主が増えているのだ。

アジアの労働市場はまだ、(世界の他の地域に比べると)コスト効率が比較的高く、若い労働力の割合が高いので、エージェンシーモデルは生き残り、繁栄し、進化することが可能だ。しかしそのためには、エージェンシーは次のことを実行しなければならない。

1. 自らの価値を把握して示す

エージェンシーは、自社が提供できる価値を把握し、その価値に見合う対価についてマーケターに納得してもらわなければならない。

しかし、説得に必要な指標について考えると、経験豊富なエージェンシーでも自身の正当な価値を示すことは至難の業だろう。現在、多くのマーケターがゼロベースの緊縮予算で稼働しているので、このような会話をスムーズに進めるのはさらに難しい。そして往々にして、ただクライアントの扱いを維持するためだけに、エージェンシーは過大な成果物と過小な請求を余儀なくされる。

エージェンシーは自分たちが何を提供できるかをきちんと示すべきであり、それに見合った対価を請求することを恐れてはならない。さもないと、不自由、不当評価、不採算のビジネスを続けることになるだろう。

プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のマーク・プリチャード氏は、より公正で透明性の高いメディアエコシステムを提唱している。エージェンシーが提供する価値に見合った公正な料金を請求できるようにすることが狙いだ。

2. メディアプランニングとバイイングを結び付ける

プログラマティック広告では、企業はデータを活用して最も関連性が高いオーディエンスを特定し、アドエクスチェンジで利用可能なインプレッションを通じて、そのオーディエンスに広告を表示する。このような環境を考えると、プランニングとアクティベーションが分離された旧来のエージェンシーモデルは危機にさらされているといえる。この2つのプロセスが緊密に連携しているほど、エージェンシーはリアルタイムのデータを即時に活用し、キャンペーンを最適化するための変更を素早く実施できる。

エージェンシーはプラットフォームを積極的に活用し、インタラクティブなツールを提供して、自社だけでなくマーケター(クライアント)とそのメディアプランナーがオーディエンスの微妙な差異を理解し、その違いを投資利益率(ROI)の向上につなげられるようにする必要がある。

サードパーティCookieの廃止により、エージェンシーが適切なプラットフォームを用いる必要性はますます高まる。また、データの急増、コンピューティング技術の進歩、データとそのつながりを活用するためのアルゴリズムなど、多くのディスラプション(創造的破壊)が起きており、それらすべてが現在のアドテクに集約されている。

メディアプランニングとアクティベーションを結び付けるためのデータ基盤を構築することができるアドテクプラットフォームを用いることで、エージェンシーはクライアントのROIに対し、リアルタイムに効果をもたらし、より多くのクライアントと関係を構築し、急速に変化する消費行動にも対応できる。

エージェンシーが向かう先

筆者の目から見ると、新しいデジタル世界にも、エージェンシーに代わるものはほとんど存在しない。しかし、時代に即した付加価値を未来のデジタルマーケターに提供し続けるためには、より強固なプロセスとフレームワークを構築する必要がある。また、データを活用し、クライアントがオーディエンスとのエンゲージメントを高める方法を見出す必要もある。こうしたことは、適正な対価のもとエージェンシーが自身の能力で行うことも、必要なイノベーションを提供できるアドテク企業と提携して行うことも可能だ。

複数のパートナーシップを構築しているエージェンシーは、技術、データ利用、ベストプラクティス等に関して、インハウス・エージェンシーより豊富な視点を示すことができる。マーケターが投資に最高の結果を求めるのであれば、この事実に留意すべきだろう


ソナル・パテル氏はクワントキャストの東南アジア担当マネージングディレクター。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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