社名:電通
代表:山本敏博、ディック・ヴァン・モットマン(電通イージス・ネットワーク)
所有者:株式公開会社
2017年の評価:B-
2018年の評価:B-
電通の自己評価:A₋
「ここ数年の成長は更に加速化。アジア太平洋地域における新規事業の成果は急速に拡大し、新たな分野でも重要な貢献を果たした。各広告賞でも優れた結果を残している」
評価内容の詳細:
1) 経営/リーダーシップ B
2) クリエイティビティー B-
3) イノベーション B
4) 新規事業と既存顧客維持 B-
5) 人材と多様性 B-
2018年、電通は引き続き国内の企業文化改革に注力した。結果として調整後営業利益が減少したが、同社は「持続可能性への投資」と見なす。
この改革が直ちに社員の満足度や生産性の向上につながったかどうかは、判断が難しい。だが同社は「クライアントからその効果を評価され、他の国内企業にとっても労働環境再考のきっかけになった」とする。注目すべきは、この取り組みがアジア太平洋地域全体ではなく、改革の必要性に迫られた日本でのみ集中して行われた点だろう。
国内では依然として広告・メディア分野で圧倒的な力を堅持。だが、テレビのメディアバイイングに依存したビジネスモデルは永遠に続かないことも認識する。新たな収益源の模索を続けたが、最も重要な分野はコンテンツ事業だろう。広告事業とは直接リンクしないが、クロスオーバーなビジネスの可能性を示唆している。人気の高いエンターテインメントの独占権取得だけでなく、有力な制作スタジオと提携して新たな部署を設立、クライアントのためのアニメコンテンツ制作を可能にした。
また、スポーツマーケティングの分野でも大きな地歩を確立。昨年発足したばかりの日本eスポーツ連合は、電通をマーケティング専任代理店に指名した。更に国内におけるイノベーションのサポート、海外のスポーツ系スタートアップとの連携を視野に入れ、アクセラレーションプログラムを展開。成長しつつあるスポーツテクノロジー分野でも主導権確保を狙う。
他の新分野 −− 電通以外の広告代理店も参入 −− では、2桁成長を遂げるビジネスコンサルティング(メディアバイイングに比べればまだ小規模)、AI(人工知能)、VR(仮想現実)、ブロックチェーン、そしてMaaS(Mobility as a service、車両の所有ではなくサービスの組み合わせによる交通体系)などがある。これらの事業のほとんどは現時点でどれだけの収益性があるか予想できないが、未来社会の考察をテーマとする電通にとってMaaSはその役割を示唆するものになろう。
他のアジア太平洋地域では事業の多様化はまだ進んでいないが、実績は堅調。昨年は大手飲料メーカーのグローバルキャンペーンや大手保険会社のローカルキャンペーンを獲得、新規事業面で成功を収めた年だった。母親視点で企業のマーケティング活動を支援する「ママラボ」の展開も、ヘルスケアや日用消費財分野のクライアントからの事業獲得に寄与。マレーシアと豪州では「ディーワークス(D’works)」と呼ばれるコンテンツ制作やアダプテーションサービスを試験的に開始、今年は他国での展開を予定する。
国内では、トヨタ自動車が電通に割り当てた広告費を削減。もはや電通にとって最大のクライアントではないと見られているが、「自動車メーカーからモビリティカンパニーへ、というトヨタのモデルチェンジに我が社は重要な役割を果たしている」と唱える。
広告賞に関しては、2018年はまずまずの成果を上げた。カンヌライオンズでは24の賞を獲得。その一つ、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者を支える活動を描いた「Project Revoice(再び声を取り戻す、の意)」ではBWM電通(本社・シドニー)がグッド(Good)部門でグランプリを獲得。だが、上位の受賞作品はいずれも大手企業向けではなかった。
電通は長年、国内の優秀な学生にとって人気の就職先で、さまざまなスキルの人材を集めてきた。だが、人材の多様性という点では注目されない。昨年は2人の女性役員が初めて誕生。よりバランスのとれたガバナンスを行うために社外取締役を増やし、中間層の専門職の採用も実施した。
今後もグローバル企業としての道を歩んで行く電通。事業上の課題は日本だけにとどまらない。将来を見据えれば、イノベーション改革を日本以外のアジア太平洋地域でも実現できるかが鍵となろう。
スポーツイノベーション
- スポーツビジネスの分野を2025年までに15兆円規模に成長させるという目標を掲げた日本政府。電通は「Sports Tech Tokyo」を立ち上げ、その後押しを図る
- アクセラレーションプログラムにより、スタートアップは東京・サンフランシスコの150〜200人のメンターへのアクセスが可能に
- スポーツテックサービスから得られる膨大なデータで、電通初となるスポーツファンとのエンゲージメントを目指す