日本企業は東南アジアではしっかりと事業基盤を築いているが、南アジアではまだ十分とはいえない。投資のリバランスに着手すべきということか?
次の10年、南アジアは大きな成長を遂げる。この機会を見過ごさないよう、日本企業は投資戦略を見直す必要がある。
日本企業はこれまで、東南アジアとは強固な関係を築いてきた。その背景には歴史的、文化的、地理的な近さなど、さまざまな理由がある。一方で南アジアとなると、地理的にも遠く、文化的背景も日本とは随分異なるため、日本企業にとっては馴染みが薄い。
向こう10年の間に、インドでは4億人の新たな中流層が生まれる。これにパキスタンとバングラデシュを合わせると、その数は5億人を上回り、南アジア地域が中流層の成長の中心として台頭してくる。
日本企業はこれらの国々と関係を構築するよう努力しなければならない。さもなければ極めて重要な、次の世界的成長の波に乗り遅れてしまう。
日本企業がパキスタン、バングラデシュ、ナイジェリア、メキシコのような市場で確固たるブランドを構築するには、どのような課題があるか?
日本企業はまず、流通とサプライチェーンマネジメントに注力しがち。しかし、成長や変化の速度(Velocity)が著しい12の市場(V12市場)で成功したければ、ブランド構築に集中することだ。これには各市場の消費者を深く理解すること、特に中流層の社会通念や態度が変化するスピードを見通すことが欠かせない。
つまり、「未来志向のイスラム教徒」を成長セグメントとして理解する必要があるのだ。複数のV12市場ではイスラム教徒が大半を占めるか、あるいは重要な少数派だからだ。またV12市場全体にわたって、女性が購買決定力を強めており、日本企業は女性に対する理解も深める必要がある。
これらV12市場のほとんどは、一つの国でも地域ごとの違いが大きい。従って、日本企業はこれらの市場で地域性の課題(好みやセンスの多様性)にも取り組まなくてはならない。
このレポートの中で、マーケターが肝に銘ずべき最も重要な教訓は何だと思うか?
旧来の欧米諸国の中流層と比較すると、V12市場の中流層は民族、言語、文化、宗教の多様性に富み、複雑な社会的背景を持つ。マーケターは、あまり馴染みがなくとも個々の市場を深く理解し、より幅広い多様性に対応する術を身につけなくてはならない。
V12市場の中流層は、グローバルな商業・影響力・社会交流の舞台であるネットワークにつながり、恩恵を享受している。つまり、成長や変化が速い市場では多くの消費者が、高所得な市場の消費者と同じ情報や選択肢にアクセスできる。そのためマーケターは、かつての「新興市場」で展開されたものよりも先進的なオムニチャネル戦略やソーシャル戦略、メッセージ発信を行い、これらV12市場にアプローチしなければならない。
今後10年の中流層は、旧来の中流層と比べて自らの選択肢について把握し、好みや意見を広く訴求する手段を持つだろう。マーケターに求められるのは、影響力をより発揮できる戦略や、利害関係者(政府、消費者、従業員など)との関係構築の戦略をしっかり持つことだ。ここで言う戦略は、単なるコミュニケーションや広告の戦略に止まらない。
V12市場ではローカルブランドが好まれるようだが、外国ブランド(特に日本ブランド)にとってどのような影響があるか?
V12市場の消費者の大半(回答者の約3人のうち2人)は、ローカルブランドとグローバルブランドの両方を購入しているが、いくつかの市場ではローカルブランドの方が圧倒的に強い。実際にV12市場では、ローカルブランドを好む消費者の割合(24%)は、グローバルブランドを好む消費者の割合(13%)の2倍近い。各市場のローカルブランドは、地元での追い風を受けながらますます洗練され、ニーズに素早く対応するだろう。つまりこの数字は、多国籍ブランドが今後ますます厳しい競争に駆り立てられることを示唆している。
一方で、ある一定のカテゴリーや地域ではグローバルブランドの方が好まれる市場もある。市場単位で見ると、グローバルブランドを好む傾向が最も強いのは、長年の経済制裁が解除されたミャンマーだ。カテゴリー別に見ると、ミャンマー、ナイジェリア、エジプトでは、ほとんどの調査対象カテゴリーでグローバルブランドを好む傾向が見られるが、特に日用品でその傾向が最も強い。
V12市場の回答者の圧倒的多数が、グローバルブランドの方がローカルブランドよりも革新的で高品質だと思っている。さらに、グローバルブランドと各市場のローカルブランドの間には、新たな競争が展開されつつある。消費者の意見が最も分かれたのが、環境配慮の観点だ。中国、エジプト、ベトナム、ミャンマーの消費者は、グローバルブランドの方が優れていると回答し、ブラジル、フィリピン、メキシコ、インドネシア、インド、ナイジェリアの消費者はローカルブランドの方が優れていると回答した。
日本ブランドには、高品質と革新性を強調することと併せて、環境配慮の面でも評価を得るための配慮も求められる。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)