グーグルは、プライバシー管理をより広範に拡張する一環として、Androidデバイス上でのクロスアプリトラッキングを制限していくことを計画している。これは、アップルのポリシー変更に追随する姿勢を強めている結果といえる。
グーグルは2月16日、今後、複数年の取り組みで、アプリのトラッキング識別子を廃止し、Androidにおけるユーザーデータのサードパーティとの共有を制限していくと発表した。その目的は、アプリのエコシステムにおけるユーザーのプライバシーを向上させるためだとしている。
この制限はAndroidの識別子であるAdvertising IDに適用される。Advertising IDは、デバイスに固有の文字列を割り当てることで、ユーザーがアプリ間を移動する際の行動を広告主が追跡できるようにする技術だ。
そしてこれは、アップルデバイスにおいてランダムに生成されるコード、IDFAと同じ機能をもつ技術だ。
アップルは2021年4月、アプリ開発者に対し、ユニークなデバイスコードを収集する際、ユーザーの同意を得ることを義務化した。ユーザーが自分のデータをコントロールしやすくすることが目的だ。初期の調査データでは、iPhoneユーザーの大多数(推計95%以上)がトラッキングをオプトアウトしていることが明らかになっている。
この動きは、モバイル広告の測定、アトリビューション、ターゲティングのために、アプリ間やデバイス間でユーザーを自由に追跡できることに依存してきた広告業界に重大な影響を与えた。特に、フェイスブックを所有するメタのようなテクノロジー大手には深刻な打撃となった。膨大なデータプールとターゲティング能力から巨大な広告ビジネスを構築してきたメタは、2月初め、投資家に対し、アップルのアプリトラッキングの変更により、今年は100億ドル(約1兆1500億円)以上の損失を見込んでいることを明らかにした。この発表により、メタの株価は26%以上暴落し、一瞬にして時価総額から2300億ドル(約26兆4700億円)が消えた。
一方グーグルは、アップルのIDFA変更から利益を得た。WARCとアップスフライヤー(AppsFlyer)の調査によると、アップルが新たなプライバシー対策機能「App Tracking Transparency(ATT)」を開始してから最初の2週間、アプリ企業の広告費の多くがアップルからAndroidへと流れ込んだ。また、メタの広告ビジネスが苦境に立たされている一方で、検索トラフィックとユーチューブから収集した豊富なデータを蓄積するグーグルは、広告主がAndroidへ支出先を移したことで、さらなる利益を得た可能性がある。グーグルの2021年の広告売上は前年比42.5%増だった。
しかし、独占的な商慣行をめぐる規制当局の監視が強まっており、グーグルが広告ビジネスを変更することは、ほぼ避けられないだろう。
トラッキング識別子への依存から脱却する方法については、詳細はほとんど示されていない。一部の観測筋からは、この発表は、規制当局をなだめながら、ユーザープライバシーと広告ビジネスを両立させる方法を見つけるまでの時間稼ぎではないかとの指摘もある。
グーグルは、広告主に対し、この重要な変更に対応するために2年間の移行期間を設けている。この間は、既存の広告プラットフォーム機能のサポートも継続される。
また、プライバシーを重視した新しい広告ソリューションを業界と共に開発することを目指す「プライバシーサンドボックスイニシアチブ」の計画を、従来のウェブブラウザ向けから、Android向けへと拡大することも明らかにした。
また、識別子を変更するだけでなく、アプリと広告SDKを統合するより安全な方法など、隠れてデータ収集を行うことを困難にする技術にも取り組んでいるとしている。
この長期的なアプローチは、広告主への影響を軽減するものだ。それでも、広告業界にとっては、ユーザーのプライバシーを保護する新しいソリューションや作業手順を開発する必要性がなくなるわけではない。
アップルは、業界の懸念に対応することも代替案に取り組むこともなく、IDFAの変更を実施すると発表した。そうしたアップルの唐突で強引な動きについては、グーグルも間接的に批判してきた。
Androidのセキュリティおよびプライバシー製品管理担当バイスプレジデント、アンソニー・チャベス氏はブログ投稿で、「もうひとつのプラットフォームは、広告のプライバシー対応に異なるアプローチを取っており、開発者や広告主が使用する既存の技術を露骨に制限している」と書いた。
チャベス氏はこう続ける。「私たちは、プライバシーに配慮した代替手段を最初に提供できなければ、そのようなアプローチは効果が見込めず、ユーザーのプライバシーにとっても、開発者のビジネスにとっても悪い結果につながると考えている」
グーグルは2021年6月、Advertising IDに厳格な管理を導入し、パーソナライズ広告をオプトアウトしたユーザーのIDにソフトウェア開発者がアクセスできないようにした。それまでは、ユーザーがオプトアウトした後でも、開発者がIDにアクセスして、アプリの利用状況を測定したり、不正行為を検知したりすることができた。グーグルは、将来的には、分析や不正防止などの重要なサービスをサポートする、一意の識別子を必要としない代替ソリューションを提供すると述べている。
こうしたグーグルの動きは、インターネットにおけるユーザーのプライバシーを改善しようとする業界全体の取り組みに沿うものだ。それまでは長年にわたり、ユーザーの明示的な同意なしに、モバイルやウェブでの行動が逐一追跡されてきた。よりプライバシーに重点を置いたインターネット体験への移行は、ブラウザレベルで始まり、まずChromeブラウザからサードパーティCookieが段階的廃止される。そしてこれは、年内には完全に削除される予定だ。
グーグルは1月に、Cookie代替技術の新たな提案である「Topics」を発表している。