日本でテレビ放送が始まって以来の、大変革が起ころうとしている。2018年4月から民放5局(キー局)が、ついに視聴率調査の仕組みを変えるのだ。広告収入のベースとなる視聴率は、世帯視聴率から個人視聴率へと移行することとなる。
それだけではない。録画して7日以内に見られた、「C7」と呼ばれる「タイムシフト視聴率」も導入されることとなったのだ。今日の日本の家庭におけるテレビ視聴スタイルを、関係者たちがようやく是認したということだろう。
このことが持つ意味とは?
一見したところ、この変革はそれほどの大改革とは思えないだろう。メディアプランナーは20年も前から、個人視聴者を念頭にプランニングしているのだ。しかしこの変革によって、番組のランキングが左右されることとなるのだ。
例えば、従来の世帯視聴率では「紅白歌合戦」のようなライブ番組のランキングが高くなる傾向があった。しかし、タイムシフト視聴率では、ドラマ番組がトップとなる。また、年齢別に見ると、ランキングが大きく変化する番組も出てくる(一例として、世帯視聴率ではトップの「笑点」は、59歳以下を対象とした視聴率ではトップ10にも入らない)。
テレビ局がついに個人視聴率を採用するに至ったのは、2つの側面で不利な状況が生じていたためだ。
・ 世帯視聴率では、人口の最も多い高齢者層に向けた番組が高く評価されやすく、若者のテレビ離れを助長している。
・ CM枠購入は昔からの関係で決まることが多く、古くからの広告主がGRP(延べ視聴率)に不相応な安い料金で購入している傾向がある。新たな仕組みはテレビ局側にとって、価格見直しの良い機会となる。
何が起こるのか?
この変革によって、テレビ局の収入は増える可能性がある。もしテレビ局に先見の明があるならば、その資金をより良い番組作りに投入するだろう。ターゲット層の共感を得た番組が、見合った評価を獲得し、ターゲットが明確で良質なコンテンツが制作される新たな時代へと、希望をつないでいくのである。
広告会社については、導入直後は混乱に見舞われることが予想される。新しい視聴率で評価する関東地区と、他地域(世帯視聴率から段階的に移行予定)とでバイイングを統一しようと、メディアプランナーは奮闘することだろう。しかしこの変革によって、CPM(インプレッション単価)のような指標をテレビとデジタルの両方に応用できるというメリットも生まれるのだ。
この新たな仕組みの導入によって、広告主と小売業者の間で交わされる会話も「2000~3000GRPを投下したのですか。ならば、是非その商品を棚に陳列しましょう」といった単純なものから変わるだろう。視聴者の詳細な属性と、POSデータ(世帯別でなく個人ベースで収集)で得られたインサイトを相互に参照し、より深化していくに違いない。マーケティングについても、もっと微妙なニュアンスを汲み取った、高レベルなものへと引き上げられるかもしれない。
変化になかなか対応してこなかった日本で、このシンプルだが根本的な変革がどんな意外な副次的効果を生むのかも、大変興味深い。
(文:小山聡介氏 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)
小山聡介氏は、ビーコンコミュニケーションズ(ピュブリシス・ワンの傘下)のエクゼクティブ・プランニング・ディレクター。