Matthew Keegan
2022年9月23日

次のCMOは、チーフ・ミュージック・オフィサー?

最高音楽責任者が経営に参画するケースが増えている。ブランドがサウンドの戦略的重要性に気づき、投資に乗り出すという、最近の広範なトレンドを象徴しているのだろうか?

次のCMOは、チーフ・ミュージック・オフィサー?

新しいタイプのCMOが、スポットライトを浴びていることをご存じだろうか。彼らは、従来の最高マーケティング責任者に比べると、明らかに「ロックスター」だ。

頭文字が同じCMOとなる「chief music officer(最高音楽責任者)」は、最近では、文字通りロックスターであることが求められている。2020年には、R&Bのシンガーソングライター、ジョン・レジェンド氏が、瞑想アプリを手がけるヘッドスペースの最高音楽責任者に任命された。そして今年3月、世界的なフィットネスブランドのオレンジセオリーが、スーパースターDJのスティーブ・アオキ氏を最高音楽責任者に任命した。

つまり、CMOは、文字通りロックスターになったのだ。しかし、なぜ今なのか?なぜ、最高音楽責任者が突如として必要になったのか?しかし、むしろ遅すぎたくらいだと思っている人もいるようだ。

「ようやくだ!サウンドと音楽戦略を重視する企業が増えているのは喜ばしい」と語るのは、国際的なクリエイティブ音楽エージェンシー、マッシブミュージックの創設者でCEOのハンス・ブラウアー氏だ。「これを単なるトレンドだと言う人もいるかもしれないが、私にとっては必然だ」

ブラウアー氏によると、マーケターは往々にして、音によるコミュニケーションよりも、視覚的なプレゼンスを重視しがちだという。だが、音楽とサウンドですべてが変わることを理解している企業こそが、成功している企業だ。

調査データは、ブラウアー氏が間違っていないことを示唆している。音楽、あるいは広義のサウンド資産は、長い間ブランドにあまり活用されてこなかった。2020年にイプソスが実施した調査によると、広告におけるブランディングサウンドは、ブランドに注目させる(ブランドを想起させる)パフォーマンスで8倍以上の効果を示す、最も効果的で有意義な資産であり、あらゆるビジュアル資産や著名人による推薦をも遙かに凌駕するという。

ヘッドスペースやオレンジセオリーのような音楽主導のブランドが、戦略レベルでサウンドを重視し、最高音楽責任者を経営陣に迎えたというのはまったく意外ではない。とはいえ、あらゆるブランドが、サウンドを重視する動きに追随する必要があるのだろうか?

オーディオブランディングのスペシャリストであるソニック・マインズのCEO、カーステン・クェムス氏は、追随すべきだと考えている。

「現在、多くのブランドが、主要なコミュニケーションチャネルとしてデジタル空間を利用しているが、そこでは視覚と聴覚という2つの感覚しか使えない。つまり、聴覚を活用しなければ、コミュニケーションの幅が半減することになる」と、クェムス氏は指摘する。

アンプ・サウンド・ブランディングのCEO兼CCO、ミシェル・アーネス氏は、ブランドは、ビジュアルブランディングやデザインと同様、サウンドブランディングにももっと投資すべきだと指摘する。

「音は、あまりにも長い間、多くのブランドから補足扱いにされてきた。最高音楽責任者の起用は、私たちをサウンドオン(音のある)の未来に一歩近づけるものだ」とアーネス氏は語る。

「過去10年間を振り返ると、ブランドのエコシステムにおける音のタッチポイントは爆発的に増えている。だから今、音に関わるあらゆるスキルの中心となる人物が必要なのだ」─アンプ・サウンド・ブランディング ミシェル・アーネス氏

音楽はサウンドの強力な形式のひとつだが、サウンドは音楽よりもはるかに広い範囲に及ぶ。「ネットフリックスの『ta dum』やアウディのハートビートを考えるといい」と語るのは、ザ・サウンド・エージェンシーを創業したジュリアン・トレジャー氏だ。「ブランディングやマーケティングだけでなく、企業活動のあらゆる側面でサウンドを有効活用できる、最高サウンド責任者の登場を期待している」

ブランドは音楽に関する予算を増やすべきか?

有名人が、最高音楽責任者として経営に参画するという話題性だけでなく、今後は、より多くのブランドが、より広範にサウンドに投資していくようになるのだろうか?

「100%そうだ。タッチポイントが変化してきた。アプリ、ストリーミングプラットフォーム、スマートスピーカーを考えるといい。ここでは、以前とはまったく異なるアプローチが求められる。音楽とサウンドがどのように機能し、どのようにブランド認知を高められるかを理解している人がいることがとても重要だ」とブラウアー氏は語る。「私はいつも、音楽は自分たちの業界とはまったく関係ないと考えているブランドにも、サウンドへの投資を増やすよう推奨している。あなたが業界をリードしなければ、『最悪の』事態になるかもしれないのだと」

ヘッドスペースやオレンジセオリーの他にも、ペプシコなど、この分野に力を入れているブランドはある。同社は、音楽にフォーカスした社内エージェンシーのシェイカーメーカーを通じて音楽に予算を投じてきた。とはいえ、音楽を内製化することは、どんなブランドにとっても良いアイデアなのだろうか?

ソニックブランディングエージェンシーのシクシーム・サン(Sixieme Son)のシンガポール担当マネージングディレクター、フロレント・アダム氏はこう語る。「広告主が社内に音楽チームを組成するのを3例見てきたが、どれも成功しなかった。我々の経験では、ブランドのソニック戦略を構築するには、グローバル視点が不可欠だ。マーケティングマネージャーは、自社ブランドとその背景にある戦略を熟知している。しかし、彼らには自身の好みやビジョンのほか、ブランドとの関係性もある。感情的な側面で、客観的判断に必要なブランドとの距離感を欠いてしまうことがあるのだ」

アーネス氏も、音楽を内製する前に、まずは音のアイデンティティを確立することが重要だという意見に同意する。「アイデンティティが不完全で曖昧なままで音楽制作を進めてしまうと、グローバル市場では全く違うかたちで聞こえてしまうリスクがある。この重要なアイデンティティを確立するために、音楽部門を新設するというのは素晴らしい考えだ。制作チームが常駐することで、デジタルチャネルにおけるブランドのアウトプットが増え、世界中の消費者との接点が広がるだろう」

2つのCMOは連携できるか?

最高音楽責任者を任命するブランドにとって、CMOという同じ頭文字になる2つの役職の存在は、少し厄介な問題だ。最高マーケティング責任者と最高音楽責任者は、どのように連携できるだろうか。混乱の元になるのか、それとも完全な調和となるのだろうか?

「私が認識している唯一の問題は、この2つの役職が同じ頭文字を共有しているせいで、最高マーケティング責任者と最高音楽責任者を区別しづらいことだ。だから後者は、『役職は?』と聞かれたら、自分の肩書を歌って伝えるといいのかもしれない」─マッシブミュージック ハンス・ブラウワー氏

「私が認識している唯一の問題は、この2つの役職が同じ頭文字を共有しているせいで、最高マーケティング責任者と最高音楽責任者を区別しづらいことだ。だから後者は、『役職は?』と聞かれたら、自分の肩書を歌って伝えるといいのかもしれない」とブラウワー氏は語る。「冗談はさておき、マーケティングのことを何も知らない最高音楽責任者がいるのは、かなり奇妙なことだ。また、私自身は音楽研究者なので、部門を超えたコラボレーションは必須だと考えている。それによって、はじめて優れたビジネス成果を達成できるのだ」

ジョン・レジェンド氏とスティーブ・アオキ氏が、厳密な意味でマーケティングのトップである可能性は低いが、彼らには何百万枚ものアルバムを売り上げたという実績によって、その地位を築き上げてきたアドバンテージがある。では、まだアルバムがミリオンヒットになっていない、あまり有名ではない他の最高音楽責任者は、マーケティングの経歴があることが不可欠なのだろうか?

「マーケティングのバックグラウンドがあることは、常に望ましい。ただし、私はそれが最高音楽責任者という役割の必須要件だとは思わない」とアーネス氏は語る。「効果的なチームコミュニケーションによって、音楽のスペシャリストとマーケティングチームを結びつけることは、合理的なプロセスだ」

アーネス氏はさらに、ブランドが、商品やサービスの中心に音楽やサウンドがあることに気づけば、チーム構成やチームの統合も向上するはずだと語る。「チーム編成はマーケティングの枠を超えて行われるべきだ。商品、顧客体験、スポンサーシップ、ブランドコミュニケーションもすべて最高音楽責任者を中心につながっている。なぜ『最高オーディオ責任者』ではなく、『最高音楽責任者』なのだろう?」

サウンドアウト(SoundOut)のCEO、デビッド・コーティアー=ダットン氏は、最高音楽責任者は、ブランディングとマーケティングの両方の力学を理解し、短期的なマーケティングの要請が長期的なブランド構築を損なうことがないようにすることが不可欠(その逆も然り)だと考えている。

しかし、シクシーム・サンのアダム氏は、音楽責任者を任命することがブランドにとって必ずしもベストなアイデアだとは考えていない。「自社の商品が音楽に依存していない限り、最高音楽責任者の採用は、最高グラフィック責任者の採用と同様、ブランドチームにとっては問題を複雑にする可能性がある」と、アダム氏は指摘する。「サウンド、音楽、ビジュアル、グラフィック等の各要素が制作されるのは、基本的にはブランドの利益のためだ。芸術的なビジョンがビジネスに寄与することもあるだろうが、ブランディングの決定に関しては、常にブランドのニーズを第一に考えているブランドマネージャーに委ねられるべきだろう」

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