電通は内部調査の結果、デジタル広告サービスの不適切業務が1億1,500万円(約100万米ドル)近い規模に上り、過大請求が40件あったことを公表した。
調査は当時の取締役副社長執行役員中本祥一氏(現・代表取締役副社長執行委員)が社内調査委員会委員長として陣頭指揮を執り、2012年11月1日から2016年7月31日までの間に電通及びグループ各社が提供したデジタル広告サービス全件を対象に行われた。同社の1月17日付けニュースリリースによると、社内調査委員会は「社外の専門家(公認不正検査士・公認会計士)の助言も得つつ、不適切業務の実態の把握と検証、発生原因の究明及び再発防止策の策定を進めてきた」という。
調査では2,263社に及ぶ広告主との214,000件の取引について、不適切業務の4つの様態が精査された。その内訳は、「事実と異なる出稿総量の報告」「出稿実績の内訳が事実と異なる報告」「日次単位の出稿実績の未報告」「精算漏れによる概算での誤請求」。
その結果、不適切業務の対象となった広告主数は96社、作業件数は997件であったことが判明。総額は1億1,482万円(1,016,357米ドル)に上った。このうち過大請求は10社40件で、総額338万円(29,919米ドル)。広告主から依頼された出稿総量を満たしていなかったにもかかわらず、あたかも満たしていたかのように報告・請求を行っていたという。過大請求以外では、出稿実績の未報告や事実と異なる内訳の報告などがあった。なお、2016年9月23日に電通が公表した暫定的な予備調査結果では、不適切業務の疑いがある取引の対象は広告主数111社、作業件数633件、総額約2.3億円(200万米ドル)だった。
今回の発表で、電通は不適切業務の発生原因を多々挙げている。曰く、業務プロセスが標準化できていなかったこと、広告主に対してサービスの範囲や運用条件を明確に定義していなかったこと、リスク管理体制が整っていなかったこと、人的リソースの適正配置や研修が十分でなかったこと、デジタルグループ各社との連携が不十分であったこと……等々。
同社は不適切業務の再発防止を徹底するため、デジタル広告の発注・掲載・請求に関する内容確認業務を担当部署から独立した部署で実施する仕組みを導入した。また、サービス範囲や運用条件を明確化した「インターネット広告サービス規約」と、申込内容の明確化を徹底するための「インターネット広告掲載申込書」を2017年4月までに導入し、「運用型広告業務改革:業務連携の改善」をテーマに1,000人規模の社内研修を実施する予定。さらに運用型広告サービスの関連部署で管理職を増やすとともに、社内異動や中途採用を通してグループ各社を含めた増員や人員構成の最適化を図っていく。電通はこれまで新卒入社の社員が中心だった。
同社は一連の不適切業務の社内処分について、「不適切業務関連の管理責任を明確にするため、関係執行役員の処分を行うとともに、その他関係社員についても社内規則に則り厳正な処分を行った」ことも発表。17名の執行役員に対し、最大20%の減俸処分を一定期間課すと見られている。
昨年12月末にはデジタル広告サービスにおける不適切業務と過重労働を苦にした社員の自殺の責任を取るかたちで、代表取締役社長執行役員の石井直氏が辞意を表明。今月19日に開催された取締役会で、後任として山本敏博氏を社長執行役員とすることが決定した。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)