Staff Reporters
2021年3月03日

エージェンシー・レポートカード2020:アジア主要エージェンシーの査定

年に1度、アジア太平洋地域(APAC)の主要エージェンシーを総合的に評価するCampaign Asia-Pacificの「エージェンシー・レポートカード」。18回目となる今年はどのような結果が出たのだろうか。

エージェンシー・レポートカード2020:アジア主要エージェンシーの査定

今年対象となったのは電通、dentsu X、博報堂、ADKの国内大手4社を含む39社。業績やイノベーション、クリエイティビティー、広告賞の獲得、従業員教育、ダイバーシティー、リーダーシップといった観点から2020年の実績を総合的に判断した。

言うまでもなく、極めて困難な年となった2020年。ホスピタリティー(旅行・観光など)やスポーツ、自動車といった業界にクライアントを持つエージェンシーは広告・マーケティング支出の大幅削減に直面し、その対応に追われた。特に第2・第3四半期の落ち込みは激しく、緩やかな回復の兆候が見られたのは第4四半期。そんななか、各エージェンシーはアクティベーションの維持やエクスペリエンスの提供でデジタル戦略に重心を移した。


日本の各エージェンシーに対する評価は、以下のリンクから

ADKグループ

電通

Dentsu X

博報堂


今回、総合評価が前年より上がったのは9社。下がったのは11社で、昨年に続き評価が下がったエージェンシーの数が上回った。変わらなかったのは15社(今年はいくつかのエージェンシーを統合・追加して査定したため、合計数にズレが生じる)。また、多くのカテゴリーで大きな変動が見られた。評価の格付けは以下の通り。

このレポートではCampaign Asia-Pacificによる分析に加え、APACにおける主要クライアントや得意分野、主要なカテゴリーでの評価を記載。カテゴリーは以下の通りだ。

1. リーダーシップ:経営陣がどのような指導力を発揮し、決断を行ったか。また、経営の安定性や業界への貢献度も判断基準とした。

2. クリエイティビティー:手がけたキャンペーンの質や、地域及び世界レベルの広告賞の実績(特に主要広告賞における受賞を重視)、クライアントにおける有効性の高さなど。

3. イノベーション:自社や従業員、クライアント、業界にもたらした利益を考慮。APACでどのようなイニシアティブを発揮し、イノベーションを発揮したか。

4. 事業成長:2019年に協働したクライアントに、どのような価値をもたらしたか。コンサルティング会社R3がCampaign Asia-Pacific誌上で発表する「ニュービジネスリーグ」、また自社による評価に加え、新たなプロジェクトの認知度や既存のクライアントのオーガニック成長なども考慮。

5. 人材とダイバーシティー:有能な人材をどのように集め、維持・育成しているか。また、従業員のダイバーシティーやインクルーシビティー(包摂性)、福利厚生などへの取り組みも評価。

昨年の状況を考えれば、各エージェンシーはほとんどのカテゴリーで評価を下げたと思いがちだが、実際はむしろ逆だった。各社の底力と回復力には驚嘆せざるを得ない。従業員の解雇を避けられなかった社もあるが、インクルーシビティーを高める柔軟な働き方やケアプログラムを推進し、新たな雇用関係を築き上げた社もあった。「人材とダイバーシティー」では多くの社が向上。評価を上げたのは11社、下げたのは5社だった。より驚きだったのは、「事業成長」で評価を上げた社の方が下げた社よりも多かったこと。コロナ禍でCMO(チーフマーケティングオフィサー)の役割は増大し、各社はデジタル変革に注力した。コンサルティングやEコマース分野への進出も活発化。迅速で効率的なパフォーマンスベースのコンテンツを提供していたエージェンシーは、さらなる成功を収めた。

総合的サービスを提供する持株会社に関しては、その傘下にある多くのエージェンシーを1つにまとめて評価した。例えば、電通に関しては国内外のクリエイティブエージェンシー(海外は電通マクギャリーボウエンが管轄)を統合してレポート。同社のメディア部門は今も各エージェンシーブランドが存続するが、アイプロスペクトとビジウムの統合に伴い、来年はアイプロスペクトを電通から切り離して評価対象とする。

エコシステムの評価は毎年難しくなっている。EコマースやCX(カスタマーエクスペリエンス)、CRM(顧客関係管理)、コンサルティング、事業変革、データアナリティクス、パフォーマンスマーケティング、検索といった専門的分野はほとんどのエージェンシーで次第に欠かせない要素に。Campaign Asia-Pacificは今後、業界のこうした変化に即したレポートを発表していく所存だ。

2020年という前例のない年の特徴をまとめると、それは極めて基本的なことだった。イノベーションと福利厚生、そしてリーダーシップの前進。我々はこうした改善を行ったエージェンシーに心から敬意を表する。最後に、このレポートに惜しみない協力をしてくださった各エージェンシーの皆様に、改めて深い謝意を表したい。


評価

A 比類のない素晴しさ B- 良い D+ さらに努力が必要
A- 傑出している C+ 平均的 D 不出来
B+ 非常に優れている C まあまあ D- 非常に苦しい
B とても良い C-  一応の基準はクリア F 落第点

2019年の「エージェンシー・レポートカード」はこちらから

(文:Campaign Asia-Pacific編集部 翻訳・編集:水野龍哉)

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