マーコム(マーケティングコミュニケーション)業界のベンチマークとして評価が高いエージェンシー・レポートカード。総合的視点から細部にまで目を配ったレポートは、業界で唯一無二と言えよう。21回目となる今年はさらに調査の質を重視し、データ主導の測定法・分析をより向上させた。
対象となったのはAPACのトップエージェンシー、31社。日本からは電通クリエイティブ、Dentsu X、カラ(Carat)、博報堂の4社を選出した。
電通クリエイティブ
Dentsu X
カラ(Carat)
博報堂 (Hakuhodo)
例年のごとく、評価のカテゴリーは「ビジネス成長」「イノベーション」「DEI(多様性、公平性、包摂性)&サステナビリティー」「クリエイティビティー&エフェクティブネス(有効性)」「マネジメント」の5分野とした。マネジメントのカテゴリーでは、人材確保・育成、福利厚生、他のカテゴリーにおける営業実績なども考慮した。
サステナビリティーがクライアントや消費者、そしてエージェンシーの間で重要性を増していることを考慮し、「DEI&サステナビリティー」ではDEIとサステナビリティーの評価を50%ずつに(昨年のサステナビリティーの比重は40%)。
評価基準とランク分けの詳細は下記の通り。各ページの最後には各エージェンシーの事業内訳、主要クライアント、専門性、そして自社評価も記した。
今年の評価法
評価法は、「DEI&サステナビリティー」における比率を除き、大きな変更はない。アルファベットと数値による評価は変わらず、各エージェンシーの比較はより明快となった。あえて言うなら、同じレターグレード(アルファベットによる評価)内の数値がパフォーマンスを表す上でより重要になったことか。総合的評価の比重が増したことで、各エージェンシーの差異が小さくなったからだ。
その結果、多くのエージェンシーがBあるいはCの評価を獲得。Aを獲得したエージェンシーは極めて少なかった。総合評価でA-を受けたのは、1社のみ。
結果
昨年のビジネス環境は、APACのエージェンシーにとって依然厳しかった。スタッフの移動制限や消費支出の減少が顕著だった2022年の影響を引きずり、マーケティング予算は低迷。それでもいくつかの改善点が見られた。昨年は「ビジネス成長」で評価を下げたエージェンシーが続出したが、今年は11社が評価を上げた。
最終的に、今年は半数以上のエージェンシー(31社のうち17社)が数値評価を上げ、そのうち10社がレターグレードを上げた。数値評価を下げたのは9社で、3社が同じレターグレードを維持した。
また全てのカテゴリーで、評価を上げたエージェンシーの数が下げたエージェンシーの数を上回った。AIへの支出や取り組みが増え、「イノベーション」で評価を上げたエージェンシーは最多の14社(評価を下げたのは3社)。あらゆるエージェンシーが効率やクリエイティビティー、クライアントの業績を向上させるためAIを活用し、メディア企業も新たなクッキーレスソリューションに支出した。
「クリエイティビティー&エフェクティブネス」も、全体的に改善。現場での撮影やオフィスでの打合せも復活し、評価を上げたエージェンシーは11社だった(評価を下げたのは4社)。
「DEI&サステナビリティー」は結果が分かれた。コロナ後、多くのエージェンシーがこの分野に積極的に支出したため、昨年は積極的な対策が取られなかった。一方、「マネジメント」はほとんどのエージェンシーが昨年と同じ評価で、最も変化が少なかった。
評価基準
以下、5つのカテゴリー:
- ビジネス成長:総売上高、新規事業の売上高(各社公表額と、コンサルティング会社R3、COMvergenceのデータを基にしたCampaign AI『ニュービジネス・エージェンシー・ランキング』で発表された額を勘案)、オーガニック成長、収益性、新規クライアントと失ったクライアントの数、収益の多様性などを評価。
- イノベーション:アジアにおけるイニシアティブと、自社及び従業員、クライアント、業界に影響を及ぼしたイノベーションを質的に評価。
- DEI&サステナビリティー: これら分野における公約の実行性を質的評価。持株会社のイニシアティブ、特に地域における取り組みを考慮。
- クリエイティビティー&エフェクティブネス: 手掛けたキャンペーンの質・有効性を評価。地域及び世界レベルの広告賞の獲得(特に主要広告賞を重視)、手掛けたキャンペーンがクライアントにもたらした効果も考慮。
- マネジメント:上記4つのカテゴリーに加え、APACにおける経営方針と安定性、業界への貢献度、社員教育・能力開発、離職率といった面から経営陣のパフォーマンスを質的評価。
評価決定までのプロセス
対象となったほとんどのエージェンシーが、弊誌からの多岐にわたる質問に丁重な回答を返してくれた。これら自社評価に加え、弊誌による独自調査を実施。大半のエージェンシーのAPAC責任者から約1時間にわたる聞き取り調査を行った。こうして各社のパフォーマンスをカテゴリー別に数値化(1から10まで)し、ランクを決定。数値とアルファベットの評価基準は下記の通り。
それぞれのカテゴリーで評価が決定すると、全エディターが参加する会議で最終チェック。各カテゴリーの平均値を出し、総合評価とした。数値を出すことで、より細かい評価に努めた。
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(日本版は2016年5月に刊行、2017年よりエージェンシー·レポートカードを掲載)