AI(人工知能)が新聞、雑誌、ソーシャルメディアから母親のイメージを1,800点以上スキャンして作り上げた母親像、「Aimee(エイミー)」をご覧いただこう。
写真のようにリアルな画像は、ディープラーニング(深層学習)の一種で「敵対的生成ネットワーク(GAN)」というシステムによるもの。2種類のアルゴリズムを用いており、片方のアルゴリズムがイメージを作ると、もう一方のアルゴリズムが、そのイメージのリアルさを判断するという仕組みだ。2つのアルゴリズムが生成と判断を繰り返しながら、広告での使用に耐え得るレベルの画像を短時間で完成させる。
「今までこの方法で作成された画像に、画素数が200ピクセルを超えるものはありませんでした。しかし、今回のプロジェクトには最低でもメガピクセル(100万ピクセル)の、写真並みにリアルな画像が必要でした」とハッピーフィニッシュの技術部門責任者、マルコ・マルケージ氏は説明する。
制作にあたっては、まずAIの調整に5週間を要した。その後5日間をかけて、システムがエイミーの画像を作り上げた。
ダヴと制作に関わった2社は、つややかな髪と手入れが行き届いた爪、引かれたアイラインも完璧なエイミーの姿を見て、これは論争の的になると確信。そして、確信は現実のものとなった。ビルボード(看板広告)から見下ろすエイミーの「完璧なママなんている?」という問いかけと、添えられた「#realmums」というハッシュタグに、ロンドンのママたちはツイッター上で怒りを爆発させた。
例えば、@mummy_setraというユーザーが「#realmum(リアルなママ)はあんなルックスじゃない!」と投稿すれば、@sushirollphanというユーザーは「あの画像が一体、何の手本になるの? 良い親になるために、スーパーモデル並みの容姿になる必要はない」と反応する、といった具合だ。
だが、ダヴはすぐに「それこそが表現したかった本質だった」と声明を発表した。エイミーのようなイメージを押し付けられることに対して母親たちがどのように感じるか、議論してもらいたかったのだという。
エイミーの広告を掲出した翌日には、メディアで目にする典型的な母親のイメージは現実を反映していないとも指摘した。
「メディアで描かれる母親像を追って頑張りすぎることは、良い母親になるために必要なことではありません」と声明で訴えている。
(文:エミリー・タン 翻訳:高野みどり 編集:田崎亮子)