Jessica Heygate
2023年7月20日

AIを活用した広告は効率的だが「つまらない」

グーグルやメタが提供するクリエイティブ自動生成ツールや配信の自動最適化ツールは、適切に管理されなければ、低品質な広告でインターネットを氾濫させるリスクがあるという。

写真:Getty Images
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AIツールは、人間よりも効率的で効果的な成果をもたらすため、ブランドは、広告制作とメディアバイイングをプログラムに任せることに抵抗がなくなってきている。

しかし効率性の追求には、しばしば品質の犠牲が伴うことにも気付いている。エージェンシーも、ブランドが広告の制御をプログラムに頼りすぎていると、プログラマティックの黎明期のように、インターネットが低品質な広告で溢れかえることになるのではと懸念している。

デジタルエージェンシーのアカディア(Acadia)は、この1年間、グーグルのキャンペーン自動化プロダクトであるパフォーマンス・マックス(P-MAX)への予算投下が日ごとに増加するのを目の当たりにしてきた。P-MAXを利用すれば、広告主はゴールを入力するだけで、グーグルの機械学習アルゴリズムが、広告をグーグルの在庫全体のどこに配信するかを決定してくれる。グーグルは5月に、プロダクトのアップグレードを発表し、ダッシュボードに生成AI搭載の画像、ビデオの編集ツールを組み込む。これにより、デジタル広告の作成と配信がワンストップで行えるようになるという。新しいツールは今年後半にリリースされる予定だ。

写真:グーグル(許諾を得て使用)

2022年第3四半期、レッドルーフ・イン(ホテル)やベラなどを含む、アカディアの全クライアントのグーグル検索広告費の32%は、P-MAX経由だった。この割合は2022年第4四半期には36%、2023年第1四半期には39%、第2四半期には43%と増加している。アカディアが管理する検索広告費の約93%はグーグルが占めており、残りはマイクロソフトのBingだ。

アカディアの最高経営責任者であるジャレッド・ベルスキー氏は、P-MAXが最初に採用された当初は、ブランドも疑念を抱いていたが、ChatGPTなどのAIツールの普及がそれらの懸念を払拭した、と述べている。

「ChatGPTが爆発的に普及する前は、『AI』 は恐ろしいものだった。今ではクライアントも、人間はAIほど賢くないという事実を、当たり前のように受け入れるようになった」と語った。

彼は、P-MAXのようなキャンペーン自動化のプロダクトが、今後1年以内に検索広告費の大部分を占めるようになるだろうと推測している。

他のみんなも、テック大手がAIをプラットフォームに組み込むにつれて、広告制作プロセスの多くをテクノロジーが占めるようになるのは、やむを得ないと感じている。

メタも、ショッピングとアプリのキャンペーンに対して、アプリやオーディエンスネットワークを横断した、Advantage+という自動プレースメントプロダクトを提供している。

メタは、4月の第1四半期の収益報告で、Advantage+ショッピングキャンペーンの日次の売上が6ヶ月で7倍に増加したと報告している。

ブランドテックグループのパートナー兼最高クリエイティブ責任者であるマーク・ダーシー氏は、「どの広告が人々にとって最も関連性があり有益なのか、どこに広告費を投じるのが最適なのかを判断し、自動最適化してくれるテクノロジーへの依存は、今後ますます高まるでしょう」と述べている。

AIドリブンな広告は、高度にパーソナライズされているため、しばしばパフォーマンスKPIで優れた結果を収める。グーグルによれば、2022年10月から2023年3月の間に、標準のショッピングキャンペーンからP-MAXへ移行した広告主は、平均25%もコンバージョンが増加し、広告収益率(ROAS)も同じくらい増加したという。メタも、Advantage+ショッピングキャンペーンを利用した広告主は、直近のテストでROASを32%増加させたと述べている。

「これらの広告は訪問履歴やその他のインサイトに基づいているため、より関連性が高い。一般的に、広告のパーソナライズ化はパフォーマンス向上に役立つ」と、アレン&ジェリッツェン(A&G)のメディア責任者のウィル・フィップス氏は語っている。

「あなたが眠っている間もビッディングを行うことができるアルゴリズムは、本質的にあなたよりも優れているのだ」と、ベルスキー氏は付け加えた。

とは言え、広告主やエージェンシーにとって、テクノロジーに管理を委ねるのはリスキーだ。

インサイトやクオリティを犠牲する

Advantage+やP-MAXなどは、広告主が効率的にパフォーマンス目標(例:売上目標の達成やリードの獲得)を達成するのに役立つが、その目標がどのように達成されたか、インサイトを得るのが難しい。

ダーシー氏によれば、これらのツールは、複雑なメディアプランを立てる予算もリソースもない、小規模な広告主にとって最も有効なのだという。

「これはトレードオフなのだ」とフィップス氏は付け加えた。「P-MAXは、一部のクライアントには非常に有効だと分かったが、それがなぜ有効で、上手く機能しているのかは分からない。クライアントに、製品が売れたことは伝えられるが、それがディスプレイ、ビデオ、Gmailのどれで売れたのかは分からないのだ。そこから何を学べるだろうか?これではまるで、分析や判断を全部アウトソースしているみたいだ」

グーグルは「アセットグループ」レポートを通じて、P-MAX広告のパフォーマンスに関する統計情報を提供している。そこでは、特定のキャンペーンのクリック、インプレッション、コンバージョンなどの数値が示される。しかし、ツールが予算をどのチャネルやターゲットオーディエンスに割り当てているかまでは分析されておらず、むしろ手動の標準ショッピングキャンペーンの方が追跡しやすい。

グーグルのスポークスマンは次のように述べている。「我々は、広告主からのフィードバックに基づいて、P-MAXの新機能を構築し続けてきた。例えば、広告主がパフォーマンスの向上方法を理解するのに役立つ、アセットグループレポートやオーディエンスインサイトレポートなどの新しいインサイトも提供している」

メタも同様にAdvantage+で、オーディエンスのタイプ別パフォーマンスレポートを提供している。

しかし、フィップス氏によれば、これらのAI搭載ツールによって生成されるクリエイティブやリードの質も懸念されるとのことだ。

また、コスト最適化は、あやしいウェブサイトや、CPAが低い深夜帯に広告が表示されることに繋がる可能性がある。

「グーグルはより多くのリードを生成するために最善の努力をしているが、それがジャンクである可能性は否定できない」とフィップス氏は述べている。

ベルスキー氏も付け加える。「パフォーマンス・マックスは、必ずしもあなたが望むようには選択しない。良いプレースメントを得るためには、悪いプレースメントも受け入れなければならない」

Advantage+では、国を超えたターゲティングの管理は行えないため、結果的に、関連性のないユーザーにも広告を表示してしまう可能性がある。

クリエイティブの品質にも課題がある。例えば、Advantage+ショッピングキャンペーンで、メタはダイナミッククリエイティブ機能(DCO)を提供しており、広告タイプに合わせて広告や説明文を再フォーマットし、一度に最大150種のクリエイティブを自動生成する。しかしその結果は、適当に切り取った画像のように見えてしまうこともある」とフィップス氏は説明している。

「私たちは、ソーシャルメディアの自動プレースメント機能をほとんどオフにしました。なぜなら、そうしないと10分置きにクライアントから電話がかかってきて『私の広告がなぜこんなに酷いのか?』と言われそうだからだ。広告が、勝手に不適切にフォーマットされてしまうためだ。

「メタの自動プレースメントはまだ問題が多く、彼らがより良い結果を示せるようになるまで、使用を見合わせざるを得ない」と彼は付け加えた。

アドビ(Adobe)グーグルメタなどが提供する、新しい生成AIが搭載された画像、動画の編集ツールは、いずれDCOの多くの問題も解決するだろう。しかし、初期のデモでは人間が制作するものより遙かに劣る、単純でテンプレート化された広告しか生み出せていない、とエージェンシーリーダーたちは見ている。

「無料でできるものはつまらない」とダーシーは言う。「軽蔑的な意味で言っているのではない。AIは常に、10点満点中5点の無難なものを生成する。私たち人間の役割は、それを理解し、受け入れた上で、自ら卓越したものを生み出すことに集中することだ。」

AIによって生成される広告素材が増えるにつれて、クオリティ管理がだんだん難しくなる。グーグルは、広告主がキャンペーン公開前にAIで生成されたコピーや画像を確認できる機能を提供すると言っているが、フィップス氏は、ボリュームが増えてくれば、これらの確認作業もおざなりになってくると予想している。

「1つのクリエイティブに対し、1,000個もの異なるバリエーションをレビューしたいと思うだろうか?」と彼は尋ねた。

広告主は、Advantage+で生成された広告素材のプレビューを見ることができるが、配信される広告の最終版を見ることはできない、とメタは説明した。

「私たちはAI支援からAI制御(管理)へと移行しつつある」とフィップス氏は付け加えた。「だがそれは、新聞社から編集室をなくすようなものだ。それでは校正チェックが効かなくなってしまうことになるが、そのトレードオフに大義があるとは思えない」

「広告体験に一貫性がない場合、ブランドに損害を与えるリスクがある」とダーシー氏は述べた。「ユーザーのアクションを誘引するために、味気なく酷いデザインの広告が作成されれば、それだけでブランド毀損になる。それを何百万インプレッションも繰り返すなら、その損害はかなり高くつくことになるだろう」

人間と機械

AI製品やパートナーシップへ投資しているすべてのエージェンシーは、AIを人間の「共同パイロット」や「アシスタント」として活用すると主張している。

OpenAIのChatGPTのようなAIチャットボットは、調査を実施したり、アイデアを生成したり、コピーを作成するための強力なツールだが、その応答の品質は、クエリを操作する人間次第だ。

「ChatGPTに戦略立案を頼めば、ビルボードチャートの50位にランクするような、平均値の総和のような平凡なものができあがるだろう。AIにビジョンを与える誰かが必要なのだ」とフィップス氏は主張する。

ベルスキー氏も同様に述べている。「まだ人のアイデアが必要だ。何かのきっかけが必要だ。そして戦略が必要だ。これらがあって初めて、機械は作業を繰り返すことができる」

ダーシー氏は補足した。「誰もが同じツールにアクセスできるようになったら、エージェンシーやブランドを他社と差別化するものは、「人間の個性と好奇心」しかない」

AIツールは広告サービスの多くに応用できるため、この話はエージェンシーにとって気になるところだろう。Forresterによると、自動化によって、今後7年間で米国エージェンシーの雇用が7.5%減少すると予測されているのだ。

しかし、新しい技術の進化は、新しいサービスを構築するチャンスでもある。例えば、ブランドテックグループは、複数のプラットフォームを横断して機能するツールとインサイトを開発することに注力している。

付加価値を生むもう一つの方法は、より賢明な意思決定を行うために、ファーストパーティデータを活用することだ。

「オーディエンスデータをより多く確保し、それを巧みに扱う方法を知っていれば、勝つことができる。なぜなら、アルゴリズムに正しいデータを提供すれば、適切な顧客を見つけ出し、個々のクリックの価値もより正しく評価することができるからだ」と、ベルスキー氏は述べた。アカディアは米国公認会計士協会が策定したSOC 2のコンプライアンス認証を取得し、個人データを取り扱うことができるようになった。

 

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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