オーストラリアのブリスベンを拠点とし、アジアを中心に活躍するポストプロダクション「Alt.vfx」。現在ロサンゼルスにも進出中の同社は、創業から5年で大きな成長を遂げた。3月下旬に開催された「第20回アジア太平洋広告祭」(アドフェスト2017)では、プロダクション・カンパニー・オブ・ザ・イヤーを含む4つの賞を受賞している。Campaignは、Alt.vfxの創業メンバーであり、エクゼクティブプロデューサーの高田健氏を取材。急速に変わりゆく顧客と、同様に変化の激しいプロダクションの世界について語ってもらった。
御社は自社をクリエイティブカンパニーと位置付けているのでしょうか?
私たちは、プロジェクトの開始時に声をかけてもらいたいと思っています。早い段階で関与できれば、アイデアを出し、より良いプロジェクトにすることができますから。途中まで進んだ状態や終盤で参画するのでは、意味がありません。もちろん、最初から関与できるプロジェクトばかりではありませんが、できるだけそうなるよう目指しています。
広告界では誰もがクリエイティブなプロダクトを「所有」したいと考えます。顧客からの抵抗に遭うこともありますか?
ポストプロダクションの業務は高度な技術に関わるものなので、顧客は当社の関与を必要としていますし、初期段階から関与することで顧客のメリットも最大化します。私たちの役割は、ソリューションプロバイダーとして問題を解決することだと思っています。自分では作り方や解決方法が分からない局面もときどきありますが、情熱を持って仕事に取り組む多くのメンバーに恵まれており、常に答えを見出しています。また当社と組んで、共に道を拓くことを望む人材とのネットワークもあります。当社は実に特別なポジションにいると思いますね。
どのような点に難しさを感じますか?
5年前、10年前に比べて、物事の起こるスピードがずいぶん速くなりました。誰もが即時性を期待しており、そうしたニーズに応えるのは、方向転換や質の担保という観点で至難の業です。豊富なコンテンツに囲まれている分、要求レベルも上がる。高い期待値にどう応えていくかが、最も重要な課題の一つです。
御社は最近VR(バーチャルリアリティー)チームを立ち上げました。このようなテクノロジーは、御社のビジネスに何をもたらすのでしょうか? VRは過大評価されているとの声もありますが。
VRは3カ月という短期間で注目の的になりました。1年、2年かかった訳ではありません。当社はこの新しいテクノロジーに適応し、最先端を進みたいと考えました。VRは通過点に過ぎず、いかにクリエイティブなアイデアを生み出せるか次第でしょう。確かにVRが過剰にもてはやされた観はありましたが、プレイステーション4とヘッドマウントディスプレイ「ホロレンズ」により、このテクノロジーは世界中の人々にとってより身近なものになり、2017年はさらに活用が進むでしょう。VRを単に、広告に使えるギミックだとは思いません。社会の役に立ち、生活を豊かにすることができる有益なツールです。
他の事業領域へ進出する可能性はあるのでしょうか?
一寸先で何が起こるか分からない時代です。CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)の解雇や、クリエイティブとメディアエージェンシーの対立などは日常茶飯事ですが、真に懸念すべきは経営コンサルティング会社によるデジタルソリューションへの参入なのです。2年後には勢力図はがらりと塗り替えられ、私たちは新しい環境に適応し、進化することが求められます。そのためには、逆説的ですが、広告業の核心であるものづくりの技能とクリエイティビティーに注力しなければなりません。
日本で仕事をし、日本のブランド向けの作品を手掛けた実績もありますが、昨年、日本発の傑出した作品はありましたか?
日本の広告は今でも、商業的な要素が非常に濃いと感じます。私はストーリー展開と、最終的な仕上がりを重視しています。つまり、完全な動画であるべきなのですが、日本ではそのような動画はそれほど多くない。売上を伸ばすことが主目的で、ブランディングにはそれほど力点が置かれていないのです。
とはいえ、ブランドアイデンティティーを取り上げた、内容の充実したコンテンツが、この頃は少し増えてきました。15秒や30秒のCMでブランドのファンになってもらおうと考えるのは、無理があります。当社が手掛けたトヨタ・ヴィッツハイブリッドの動画は、完全なパッケージでした。この動画は細かく分割してトヨタの特設サイトに掲載され、今でも使われています。3週間ごとにコンテンツを入れ替えるのではなく、数カ月にわたってストーリーを紡ぎ、息の長いキャンペーンにする。そうすることで、人々がブランドを好きになり、身近なものと感じるようになる。トヨタはそれを目指しているのです。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)